恋の始め方間違えました。
41
真くんにどんな顔をして会えばいいのかわからない。こんな女を待っている彼が不憫だ。
なるべく足音をたてないように部屋を出た。
寝たふりをしてくれているあの人にも、これ以上負担をかけさせるわけにはいかない。
玄関口につくと私の靴が揃えて置かれていた。合わせたように、女将さんが脇の通路から出てきた。
「お車表に待たせてあります。どうぞご利用くださいませ」
私は泣きそうになるのを堪えて、会釈し、店を後にした。
代金は頂戴していますと云われ、私はお礼を告げてタクシーから降りた。寝損ねた身体は重いし、酔いざめからの長距離のせいか若干車酔いした。
全然駄目だ。私。あの人に対する忠犬メス公っぷりが骨身に染みてる。
思わず頭を抱えて立ち止まる。茶化して自責してみても、当然気は晴れない。足取りは鉛のように重く、車道を挟んですぐのファミレスまでが遠く感じた。
着くと、入口付近の窓際の席にいた真くんが私を見つけて、満面の笑みで手を振ってくれた。
「お疲れ様。顔色悪いけど、大丈夫?」
席につくとキラキラした瞳で見つめられ、テーブルにおいた手を両手で握られた。
「うん。大丈夫」
つい、肩に力が入ってしまう。
「そっか、なにか飲む?」
「……ううん。ちょうどお客さんが来てくれて、だいぶ飲んじゃったから、お水でいい」
「むりやり飲まされたの?」
「そんなことないよ」
真くんの目をまっすぐ見ることができない。ハンドバッグの中の戯れの慰謝料とか、噛みつかれた乳首とか、濡れてはりつく下着とか。なにより、この期に及んでホイホイ絆されている自分自身が最低すぎて。
「あの、ね。真くん。私、真くんの部屋には行けない」
「え?」
さっと彼の笑顔が強張る。
「え? え? どういうこと? あ、じゃあ、涼子さんの部屋ってこと? あ、そうだ。ちょっと事情があって、おれの部屋じゃなくて他のところにしてほしかったんだ」
「……事情? どうかしたの?」
「あっ。それは、その、またあとで話すよ。え。それより急にどうしたの? なんかあった? 客に嫌なことされた?」
「されてない。されてないけど、私、駄目なの」
本当に。駄目っていうか、屑だ。
「駄目って、あ、あの、おれそんなつもり、ない、……わけじゃない、けど、涼子さんの嫌がることはしない。しないから」
「ごめんなさい。そうじゃないの」
「謝らないで、涼子さん。ねぇ、このまま、おれを拒否するつもり? いきなり、おれを一人にする、の?」
真くんの目から涙がこぼれる。その瞬間、真壁さんとの再会に舞い上がっていた気持ちが冷えて、胸の中に重い罪悪感として沈んだ。夢から覚めたような浮遊感と自責の現実に愕然とした。
なるべく足音をたてないように部屋を出た。
寝たふりをしてくれているあの人にも、これ以上負担をかけさせるわけにはいかない。
玄関口につくと私の靴が揃えて置かれていた。合わせたように、女将さんが脇の通路から出てきた。
「お車表に待たせてあります。どうぞご利用くださいませ」
私は泣きそうになるのを堪えて、会釈し、店を後にした。
代金は頂戴していますと云われ、私はお礼を告げてタクシーから降りた。寝損ねた身体は重いし、酔いざめからの長距離のせいか若干車酔いした。
全然駄目だ。私。あの人に対する忠犬メス公っぷりが骨身に染みてる。
思わず頭を抱えて立ち止まる。茶化して自責してみても、当然気は晴れない。足取りは鉛のように重く、車道を挟んですぐのファミレスまでが遠く感じた。
着くと、入口付近の窓際の席にいた真くんが私を見つけて、満面の笑みで手を振ってくれた。
「お疲れ様。顔色悪いけど、大丈夫?」
席につくとキラキラした瞳で見つめられ、テーブルにおいた手を両手で握られた。
「うん。大丈夫」
つい、肩に力が入ってしまう。
「そっか、なにか飲む?」
「……ううん。ちょうどお客さんが来てくれて、だいぶ飲んじゃったから、お水でいい」
「むりやり飲まされたの?」
「そんなことないよ」
真くんの目をまっすぐ見ることができない。ハンドバッグの中の戯れの慰謝料とか、噛みつかれた乳首とか、濡れてはりつく下着とか。なにより、この期に及んでホイホイ絆されている自分自身が最低すぎて。
「あの、ね。真くん。私、真くんの部屋には行けない」
「え?」
さっと彼の笑顔が強張る。
「え? え? どういうこと? あ、じゃあ、涼子さんの部屋ってこと? あ、そうだ。ちょっと事情があって、おれの部屋じゃなくて他のところにしてほしかったんだ」
「……事情? どうかしたの?」
「あっ。それは、その、またあとで話すよ。え。それより急にどうしたの? なんかあった? 客に嫌なことされた?」
「されてない。されてないけど、私、駄目なの」
本当に。駄目っていうか、屑だ。
「駄目って、あ、あの、おれそんなつもり、ない、……わけじゃない、けど、涼子さんの嫌がることはしない。しないから」
「ごめんなさい。そうじゃないの」
「謝らないで、涼子さん。ねぇ、このまま、おれを拒否するつもり? いきなり、おれを一人にする、の?」
真くんの目から涙がこぼれる。その瞬間、真壁さんとの再会に舞い上がっていた気持ちが冷えて、胸の中に重い罪悪感として沈んだ。夢から覚めたような浮遊感と自責の現実に愕然とした。
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