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恋の始め方間違えました。

森野きの子

40

「あの頃じゃこんな状況考えられません」
「あの頃はまだこんな店入れなかったしな」
 真壁さんは目を瞑り、深い息を吐いた。
「膝枕はもういい」
「はい」
 隣に横たわり、頬杖をついた彼を見上げると、その瞳は優しく私を見つめている。
「やっぱり眠れませんか?」
「いいや。眠たい」
 仰向けの私の腹部辺りに空いている腕をかけるように置いた。
 私は軽く寝返りをして、彼にすり寄った。温かな体温と腰の辺りを撫でる大きな手の優しい仕草に、私の方が寝かしつけられそうだ。
「できたら眠ってください」
 私は腕を伸ばして真壁さんの頬を撫でた。真壁さんは頬杖をやめて仰向けになると、目を閉じた。
「時間になったら帰っていい」
「帰るんじゃなくてこれから遊びにいくんですよ」
「若いのに飽きたら戻ってこいよ」
「仕事の量を半分に減らして、周りをよく見てみてください。私なんかより従順で可愛い子なんて沢山いますから」
「もうちょい愛想のいい返事しろよ。だから客つかないんだぞ」
「やだ。真壁さんのことお客様だって忘れてました」
「やればできるじゃないか」
「グッときました?」
「きたきた。眠れなくなるくらい」
「もう。ダメじゃないですか」
「嘘だ。もう眠たいから、おやすみ」
「おやすみなさい」
 真壁さんの腕が離れ、色めき立った気配が月明かりに照らされた部屋に沈む。
 時計もテレビもない。ほの明るい闇の中で、目が冴えていくのと同時に、真くんの存在がじわりじわり頭を占めていく。
 真壁さんの様子を伺うと、目を閉じた顔に生気を感じられず、怖くなって口許に耳を寄せた。微かな呼吸が聞こえて安堵した。

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