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恋の始め方間違えました。

森野きの子

39

「本当にお前は変わらないな。昔も今も、俺に甘い」
 私の髪先に触れる優しい指づかいと微笑に安心した。
「あの夜も俺が勝手に勘違いして、弁解の余地すら与えなかった。あんな状況で怖かっただろ。すまなかった」
「真壁さんが悪いんじゃないです」
「いいや。密室で裸で、いくら俺とお前の仲とはいえ、頭に血が昇った男相手だぞ」
「それは……」
「本当にすまなかった」
 肩を押され、無言で部屋に戻る。途中ですれ違った女将さんに食事はどうするか尋ねられ丁重にお断りした。
「雨が上がっていい月がでましたね」
「ああ」
「街灯がなかった時代はもっと眩しく感じたんでしょうか」
「そうだなァ」
 部屋に戻ると、食卓と座布団が端に寄せられ、庭園が見える縁側に長座布団があった。
「すごく気が利いてますね」
「頼んでおいたからな」
「なるほど。それはそうと喉渇きません? 飲みすぎですよ、私たち」
「そうだな。茶の一杯でも欲しいところだ」
 私は低い一枚板の食卓に用意されていた急須でお茶をいれた。
「どうぞ真壁さん」
「ん。ありがとう」
 湯呑みを手渡し、それから自分の分をいれた。とても喉が渇いていた私たちは温い緑茶を一気に二杯飲み干した。
 私は長座布団の端に腰を下ろし、真壁さんを待ち構えた。
「素直だな。観念したのか」
「ええ。お代は前金で充分頂いてますから」
 答えに満足したのか真壁さんはうきうきと上着を脱いで、私の太股を枕に横臥する。
「静かですね」
「こちらから呼ばない限り、誰もこないからな」
 後ろに撫で付けられた艶やかな黒髪は、残念ながら整髪料で固められてごわついていたけれど、流れにそって指を滑らせるには問題ない。

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