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恋の始め方間違えました。

森野きの子

35

 衣装から私服に着替え、裏口から出ると雨はやんでいた。なるべく水溜まりをよけながら表の入口に回り込むと、付近に黒光りする大きなセダンが停まっていて、近寄りたくないなと身構えていたら、運転席側の陰から通話中の真壁さんが見えた。
 私に気づくとすぐに通話を切り上げて、こちらに歩いてきたので軽く頭を下げた。
「すみません。お待たせして」
「いや、今ちょうど代行が来たところ」
 蛍光色のパーカー姿の初老の男性が頭を下げながらやってきた。
「どうもよろしくお願いいたします。どちらまで」
 行き先を告げると、馴染みらしい代行会社の運転手は、失礼します、と運転席に乗り込んだ。
「あの五秒で剥けそうな服は着替えてきたのか」
 続いて二人で後部座席に乗り込むと、ネイビーのノースリーブ膝下丈ワンピースに、くすんだネオンイエローのシルクのカーディガンを羽織った私を見て言った。
「あんな服で歩けるのこの界隈までですよ」
「まぁ、そうだな。じゃあ、もっとましな仕事服買ってやるよ。どんなのがいい?」
「やーん。じゃーあ、ハイブランドのドレスがいいなぁー」
「そうか。それじゃ次は同伴だな」
「冗談ですよ。冗談ですから。えっ? 次はってまた来るんですか?」
「また来るんですかってお前。それでもホステスか」
「だって」
「美咲ママなんか事ある毎にバッグとか時計とか貰ってるぞ」
「あんな一流クラブのママと一緒にしないでください! というかこんなところのホステスなんかに着られたら高級メゾンが泣きます」
「俺と同伴のとき着てこいよ。然るべき場所につれてってやるから」
「そんなことしていただいても困ります。私、何もお返しできません。できることは店でお酒ご一緒するくらいですよ」
「馬鹿だな、お前。それでいいんだよ」
 走行中とは思えない車内の静けさに、つい緊張する。
「あ。さっきのお金、お返しします」
「もう俺の金じゃない」
「じゃあ、私のお金なら私がどう使おうと私の勝手ですよね」
 ハンドバッグからお金を取り出そうとすると、鼻で笑われた。

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