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恋の始め方間違えました。

森野きの子

32

「真壁さんの馬鹿」
「なんだよ」
「さっき、初めて彼の部屋に行く約束をしたんです。」
「へえ」
「……どうして今日なんですか。どうして会いに来たんですか。どうして……キスなんかするんですか」
「どうしてっていわれても、会いに来た日が今日なのは偶然だ。キスは、質の悪い酔っ払いに絡まれたと思って忘れてくれ」
 忘れろなんて簡単に言わないで。まさかこの人を睨む日がくるとは。
「忘れろ? とぼけてるんですか?」
「俺の感覚、狂ってんのかなァ」
「ええ。そうですね。落ちぶれて場末のホステスになった元部下に五十万分のシャンパン奢る元上司なんか聞いたこともないです。金銭感覚狂ってます」
「そうか。でも、仕方ないだろ。仕事にやりがいと達成感を求めれば求めるほど金がついてくるんだから。ジム行くか仕事する以外に娯楽もないし。使うとこないんだよ」
「真壁さん、大丈夫ですか?」
 のぞきこむと彼は私を見つめ返し、手首を掴んで、掌に唇を当てた。
「心配するなら黙って受け取ってくれ」
 そのまま手を引かれ、横顔に胸を押しつける形で寄りかかってしまった。
「すみません真壁さん」
「すごい音だな。どうしたんだ?」
 私は唇を噛んだ。この鼓動が誰のせいか、わかっているくせに。
「もう少し、このまま聴かせてくれないか」
 私を離すまいと込められた手の力と躊躇いがちな声の弱さに身動きが取れなくなった。
「でも……、汗、かいてます。それに、さっき、雨に濡れて……」
 抱かれたままじっとしていると、体の芯が熱を孕みしっとりと湿っていく。
 とても口に出して言えないけど、あの夜のように直接肌に触れられたくなってきた。不意に擦り寄せられた頬が、胸を刺激する。
「んっ……。真壁さん。もう……」
 離してと云うべきところを濁した。我ながら卑怯だと思う。

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