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恋の始め方間違えました。

森野きの子

31

「そんな私が落ちぶれてて、どうです?」
「俺が喜ぶとでも思ってるのか?」
「申し訳ありません。せっかく手塩にかけて頂いたのに、お水の花道すらまとも歩けない無能でした」
「そう卑屈になるなよ。俺なら喜んでるよ。もう部下じゃないんだ。口説いてもいいよな?」
「やだ! 真壁さんのケダモノ」
 泣きたかった。やり場のない思いをあえて下品に茶化して笑うしかない。笑い飛ばすしかない。
「あれから五年ですよ。結果行き遅れてこんなことしてますけど、もし私が普通に結婚してたらどうしてました?」
「幸せそうなら、会いにくるわけないだろ」
「それはどういう意味ですか?」
「まぁいいじゃないか。深く考えずに昔の男に貢がせたシャンパンで可愛い彼氏と風呂でもはいれば?」
「なにが昔の男ですか! 一夜の女にもしてくれなかったくせに! おかげで未だにタンポンすらいれたことないですよ!」
「うわ、お前もゲスいな」
「三十も越えましたからね」
「ふーん。じゃあまだ俺だけか。あんな織部を見たのは。そう言われると惜しくなるな」
 探るような不躾な視線を浴びせられる。カッと顔が熱くなり、酔いが回った。
「……なんて顔してんだよ」
「すみません」
 どんな顔をしていたんだろう。唇に親指が触れたかと思うと隙間がなくなった。やわらかく押し当てられた唇があっという間に離れた。
「ずっと心残りだったんだ。あのとき意地張ってできなかったから。俺の出世祝いと思って許してくれ」
 やっぱり五年も経てば心も変わるもんだ。断ちきれない未練かと思いきや、思い出補正ってやつかしら。案外キスくらいじゃ動じない。
 って女になりたかった。

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