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恋の始め方間違えました。

森野きの子

29

 一本、また一本と、ここでは滅多と出ない高級シャンパンの栓が弾かれる。再会を祝してか、はたまたやけ酒が、私たちはグラスを何度も空にした。
 お茶を引いているホステスとマネージャーとボーイたちにも好きに飲むようにと言って人払いしてくれたおかげで、いつもよりは他の人たちの気配を気にせずいられた。
「あの時、俺はシュールブルーでモンブランを買ってたんだ」
 唐突に出てきたのは、大好きなお店とケーキの名前。
 栗の時期にだけ一日限定三十個販売され、きめ細やかなサクサクのメランゲを土台に、注文を受けてから絞る甘さ控えめのバニラビーンズがきいた生クリームを閉じ込めるのは洋酒香るマロンペースト。テイクアウトは三十分以内に食べることを推奨されるこだわりの一品。思い出したら食べたくなった。でも時期が終わってる。
「いつの話ですか?」
「経理部長の息子がやらかした日だよ。俺と織部と益子でマロンパイ食ったとき」
 益子の名前を聞いて懐かしくて、胸と目頭がじんわり温かくなる。
「あー。ありましたね。益子がお客さんにいただいたって」
「言ってたな。あいつもかなりの甘党だぞ。三つくらい移動中になくなってるって」
「たまたまなんじゃないですか?」
「違うよ。あいつ、よくお客さんにあそこの焼き菓子持っていってた」
「それで? それがなにか?」
「あいつはお前の好物をちゃんと三つ用意してたけど、俺は二つだったんだよ。出せないじゃん」
 日焼けも薄暗い照明でも誤魔化せないくらい、真壁さんは赤くなった。拗ねた子供のような口振りにキュンときた。先程みせた帝王のような威圧感はどこにしまったのだろう。

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