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恋の始め方間違えました。

森野きの子

28

「あの頃私、真壁さんのお役に立てることが嬉しくて仕方がなかったんです。一緒に仕事ができて、いえ。サポートができて、仕事上だけでも一緒にいられるだけで幸せでした。だから周りのことが見えてなかったんです。あなたが去ったあと、私の味方をしてくれたのは、益子だけでした。でも、私、全然駄目でした。これは今も。私なんて何の能力も取り柄も価値もないんです。さっきもご覧になったでしょう? 失望されたでしょうけど、私なんて所詮こんなものなんです。あの頃よりお酒に強くなったくらい」
 グラスに残った液体を飲み干す。
「俺が悪かった。いくら詫びようと償いきれない」
「終わったことですよ。」
 冷たくするふりをして、私はこの人を慰めている。詰ってやりたいと思っていても、落ち込んだ姿を見ていると胸が苦しくなった。
「終わらせないでくれ」
 哀しみを帯びた微笑みで、懇願するように言われて、胸が張り裂けそうになった。この人から抜け出せない自分が情けない。憧れていた完璧な上司ではない部分を見せられ、落胆するどころか慈しむ気でいるのか。私ときたらどこまでもどうしようもない。
「さ、昔話はこれくらいにして飲みましょう。私にお仕事させてください」
 ボトルを持ち、彼と自分のグラスに薄黄金色の液体を注いだ。


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