恋の始め方間違えました。
25
「……株式会社藤和工務店、じょ……、常務?!」
字面を何にも考えず読み上げてみたが、驚きのあまり真壁さんを見上げた。
「この五年間俺も大変だったんだぜ。融資を条件に人質に取られるわ、アラブに行かされるわ。でも最終的に買収騒ぎのきっかけになったH市の都市開発の利権が藤和うちに戻ったのと、銀行からの融資がおりたおかげで三伴の買収の話は白紙に、俺があっちにいる理由もなくなって、尚且つ藤和が存続できるようになったってわけだ。まぁ、あのままいるよりいい経験できたし、人脈の幅も拡がったから良かったんだけど、肝心のお前がいないんじゃあな」
会社の話が出ると当時の気持ちを思い出してうっすら吐き気がしてきた。
「へぇー、そうだったんですかぁ。あーそういえば、ずいぶん昔、真壁さんがお辞めになるって聞いて最後にご挨拶に伺った際に女子大生っぽいコと腕を組んでマンションから出てくるの見ましたけど、続かなかったんですか? だから私で妥協しようってことですか? 光栄ですう」
おもいっきりやけくそ口調でいうと真壁さんの表情が曇った。
「あ? 続くも何もそれ、あれだぞ。いとこだからな? 俺のドバイ行きと同じ頃に近くの大学に進学したから管理がてらマンション貸しただけだぞ」
「親戚と恋人みたいに腕組むんですか?」
「なんだそれ。今更ヤキモチか?」
「あの日の私ならそうですね」
「今は若い彼氏がいるもんな。さっき見送ってた奴だろ?」
不意打ちに、私は冷水を浴びせられたように硬直してしまった。
「そ、そんなこと、真壁さんに関係ないじゃないですか」
「そうだな。織部が誰と付き合っていようと俺には関係ない」
「……違います。まだ彼氏じゃありません」
わざわざ、何をいっているんだろう、私。
「まだ、ね」
「もうやめてください。こんな場所でこんな話。なににします? ビールですか?」
「シャンパン好きだったよな? 佐藤さんの当選祝賀会ではしゃいでたもんな」
十年も前のことを持ち出されて驚いた。二十二歳の私は生まれて初めてのドンペリに舞い上がってしまい、面白がったおじ様連中に飲まされ潰された。真壁さんがいなかったらどうなっていたやら。
「さすが真壁さん。飼い犬のこと少しは覚えていらっしゃったんですね」
「馬鹿にしてんなァ」
拗ねた声が懐かしい。思わず笑ってしまう。
「してません。ちょっと失礼します」
ボーイの桧山くんに手招きをすると、彼は笑顔もなく、かったるそうな足どりでやってきた。
「なんすか、凜花さん。こっち忙しいんでビールくらい自分でとってきてくれません?」
「ごめん、ビールじゃなくてシャンパンがほしいんだけど。」
いつものように笑って、でもいつもよりずっと気楽にやり過ごそうとしたら。
「こっちも仕事中だろ。見てわからないのか」
真壁さんに腰を抱き寄せられ、彼の腕と胸に引きずり込まれた。掌からの体温に誘発され、神経が導火線のように体の芯を燃やした。耳元をくすぐる低い声に背中がピクリと跳ねた。至近距離で目が合えば、あの夜の裸体がフラッシュバックして理性が揺れた。
字面を何にも考えず読み上げてみたが、驚きのあまり真壁さんを見上げた。
「この五年間俺も大変だったんだぜ。融資を条件に人質に取られるわ、アラブに行かされるわ。でも最終的に買収騒ぎのきっかけになったH市の都市開発の利権が藤和うちに戻ったのと、銀行からの融資がおりたおかげで三伴の買収の話は白紙に、俺があっちにいる理由もなくなって、尚且つ藤和が存続できるようになったってわけだ。まぁ、あのままいるよりいい経験できたし、人脈の幅も拡がったから良かったんだけど、肝心のお前がいないんじゃあな」
会社の話が出ると当時の気持ちを思い出してうっすら吐き気がしてきた。
「へぇー、そうだったんですかぁ。あーそういえば、ずいぶん昔、真壁さんがお辞めになるって聞いて最後にご挨拶に伺った際に女子大生っぽいコと腕を組んでマンションから出てくるの見ましたけど、続かなかったんですか? だから私で妥協しようってことですか? 光栄ですう」
おもいっきりやけくそ口調でいうと真壁さんの表情が曇った。
「あ? 続くも何もそれ、あれだぞ。いとこだからな? 俺のドバイ行きと同じ頃に近くの大学に進学したから管理がてらマンション貸しただけだぞ」
「親戚と恋人みたいに腕組むんですか?」
「なんだそれ。今更ヤキモチか?」
「あの日の私ならそうですね」
「今は若い彼氏がいるもんな。さっき見送ってた奴だろ?」
不意打ちに、私は冷水を浴びせられたように硬直してしまった。
「そ、そんなこと、真壁さんに関係ないじゃないですか」
「そうだな。織部が誰と付き合っていようと俺には関係ない」
「……違います。まだ彼氏じゃありません」
わざわざ、何をいっているんだろう、私。
「まだ、ね」
「もうやめてください。こんな場所でこんな話。なににします? ビールですか?」
「シャンパン好きだったよな? 佐藤さんの当選祝賀会ではしゃいでたもんな」
十年も前のことを持ち出されて驚いた。二十二歳の私は生まれて初めてのドンペリに舞い上がってしまい、面白がったおじ様連中に飲まされ潰された。真壁さんがいなかったらどうなっていたやら。
「さすが真壁さん。飼い犬のこと少しは覚えていらっしゃったんですね」
「馬鹿にしてんなァ」
拗ねた声が懐かしい。思わず笑ってしまう。
「してません。ちょっと失礼します」
ボーイの桧山くんに手招きをすると、彼は笑顔もなく、かったるそうな足どりでやってきた。
「なんすか、凜花さん。こっち忙しいんでビールくらい自分でとってきてくれません?」
「ごめん、ビールじゃなくてシャンパンがほしいんだけど。」
いつものように笑って、でもいつもよりずっと気楽にやり過ごそうとしたら。
「こっちも仕事中だろ。見てわからないのか」
真壁さんに腰を抱き寄せられ、彼の腕と胸に引きずり込まれた。掌からの体温に誘発され、神経が導火線のように体の芯を燃やした。耳元をくすぐる低い声に背中がピクリと跳ねた。至近距離で目が合えば、あの夜の裸体がフラッシュバックして理性が揺れた。
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