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恋の始め方間違えました。

森野きの子

24

 背中と胸元が大きく開いた黒のロングドレスのせいか、妙な気分になる。視線で肌をなぞられて、どぎまぎして落ち着かない。
「なんだろうな。劣化とかじゃなくて、女っぽさが増した。髪を下ろした方が色気があっていいな」
 あの頃叶わなかった、女の部分を褒められ、意識しちゃってまともに顔を見られない。馬鹿みたい。まだ過去の習性が抜けきれていないのか。目眩がするほど嬉しい。ドキドキする。それと同時に自身の愚かさに落胆している。
「まぁ、こんな格好ですしね。触りたいなら触らせて差し上げますけど?」
 隣に腰を下ろすと、真壁さんは、にこりともしない。むしろ顔をしかめた。
「え、なに。まさかここ、セクパブなのか? お前、大丈夫か」
「違います。冗談です。たまに胸とか太ももちょっと触られるだけです。こういう席ならよくあることでしょ。そんなことよりなにしにいらっしゃったんですか? 天下の三伴の社員さんがこんな場末のキャバクラのうらぶれた年増なんか指名して」
「なにしにって、凜花ちゃんとやらを指名しに来たんだよ」
「あら、嬉しい」
「嘘つけ」
 真壁さんに見つめられると息がしづらくなる。動悸? 不整脈? いや、緊張だ。これはあの時のトラウマ。自分の香水が匂いたつのがわかる。
「失礼しまぁす!」
「結愛でぇす」
「ユカリでぇす。こんばんはぁ」
 うちで一番と二番の女の子が現れても鼻の下どころか眉ひとつ動かさない。
「頼んでない。マネージャー呼んでくれる?」
 どんな相手でも竦み上がるような低い素っ気ない声には、さすがの嬢も怯み、呼び出されたマネージャーは、さすがの私も気の毒になるくらい畏縮していた。
 人払いが済むと、真壁さんは私が拡げて渡したおしぼりで手を拭いて小さく息をついた。
「けちくない?」
「てかあのおばさんの客だしどーせしけてるって」
 プライドを傷つけられた二人の悪態が聞こえる。
 わざわざ聞こえよがしに言わないと気がすまないのか。若さって恐ろしい。
「大変失礼致しました。申し訳ありません」
 いたたまれなくて思わず頭を下げた。
「ここのホステスは新聞も読んでないのな」
 ため息。この人のため息を聞くと寿命が数分縮む。
「やっとの思いで古巣に戻ったっていうのにこれかよ。なにしにきたかって、むしがいいのは重々承知だけど、お前におかえりなさいって言ってほしくて会いに来た」
 話が読めないバカ丸出しの私に真壁さんは名刺を差し出した。

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