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恋の始め方間違えました。

森野きの子

22

「よくそんな靴履いて歩けるな」
「一人で歩くの慣れてますから大丈夫です」
「つれないこと言うなよ」
 ゴールドの華奢なストラップの9cmピンヒールはいつまでたっても緊張する。転ばないように、滑らないように。いつも綱渡りしているみたいだ。
「凛花ちゃん。君もプロなら客に恥をかかせるなよ」
「し、失礼しました」
「いいよ。行こう」
 私の虚勢も歯牙にもかけない何の気なしのエスコート。軽く触れただけの腕に指先の神経が騒がしい。
 この人の存在は今まさに掃き溜めに鶴。スイス製の時計もイタリア製の鞄もうちの店の客では滅多にお目にかかれない。落ち着いた光沢のあるスーツだって間違っても紳士服の○○ではないだろう。
「真壁さんも落ちぶれた私を笑いにいらしたんですか?」
「も? そんな奴がいるのか? 言っとくが、俺はそんなつもりないぞ。で。誰がそんなことしてんだ?」
「かつて私が契約を勝ち取った他社の営業です」
「未だに仕事出来ないんだろうな。ソイツ」
「こんな場末のキャバクラですものね。一流の方ならまずお越しにならない。でも、若くて可愛い嬢こもいますよ。私が例外なだけで」
「俺はもう若いキャバ嬢のノリについていけないし、何より女の喜ばせ方一つ知らない間抜けだってお前が一番よく知ってるだろう」
「そうでした? 歳のせいか昔のことは覚えていません」
 私の嫌味を鼻で笑うと、私の好みの色っぽい目元を冷たく細めた。
「そんなに上書きされたのか。最近のアップデートはいつ? さっきの奴か?」
「最低ですね。人気も若さもありませんけど、枕営業はしてないんです」
「最低ついでに訊かせてもらうけど、パトロンは? 愛人契約はしてないのか?」
「してるわけないじゃないですか!」
「じゃあ俺とどうだ? 月いくら欲しい?」
「5年も経てばお互いに変わってしまうんですね。私の敬愛していた真壁さんはいらっしゃらないみたい」
「あの頃とは違う。俺はお前の上司じゃない。お前も部下じゃない。ただの」
 真壁さんはぐっと言葉を飲み込んだ。

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