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恋の始め方間違えました。

森野きの子

21

「気にせずそのままくればよかったのに」
 懐かしい色気を帯びた低音にぐらぐらと脳が揺れる。たくさんの断続的な記憶が散らかった。そのすべてが集結し、見上げた先に像を結んだかのようだ。
「え、なんで……」
「ほっせぇな。ちゃんと食ってんのか?」
 一瞬、現実を忘れた。幻かと目を疑った。日に焼けた肌に仕立ての良いスーツが妙にセクシーで似合っている。五年前よりさらに洗練されていて、思わず見惚れた。
「織部。で、いいんだよな? まだ」
「セ、セクハラで訴えますよ。真壁さん」
 バクバクと暴れる心臓を抑え、平気な振りをした。でも確実に声がうわずった。
「せっかくの再会だろ。勘弁してくれ。で、今から指名できる?」
 一体どういうつもりなんだろう。まるで五年前の悪夢の夜、いや、もっと前。
 七年前の、彼の悪夢の(私の人生最大の逆転劇の)晴れ舞台の日のようなやりとりじゃないか。
 見切りをつけて突き放したくせに。五年の月日の賜物? それとも、いつまでも引きずるほどの事じゃなかったってこと?
 そう、なら。
「ご指名ありがとうございます。凜花でーす。やーだぁー。ババ専ですか? 物好きなんですね。お客さま」
「はいはい。じゃ、凜花ちゃん。店、案内してもらおうか」
「はぁーい。ご来店ありがとうございまぁす」
 やけっぱちで明るく可愛い子ぶった口調でいうと、真壁さんは苦笑しながら軽く肘を私につきだした。

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