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恋の始め方間違えました。

森野きの子

14

「織部」
 ため息の後に低い声で名前を呼ばれ、ビクッとなった。怒られる!
「お前はどういうつもり? 益子が言ってたの聞いてたんだろ」
 どう? どういうつもりとは? 真壁さんに女にされたいかって? そりゃ。答えは一つ。
「……益子の言う通り、です。……真壁さん、私を女にしてください。体だけでいいです。それ以上は望みません。お仕事の邪魔はしません。だめですか?」
 真壁さんは項垂れて壁にもたれかかる。
 あ、これ、ダメだ。ヤバい。勢いに任せて玉砕の覚悟を抜かった。なにちょっといけると思ったの、愚かな私。恥ずかしい。拒絶されたっぽい。今までの関係が全部崩れる。ヤバい。怖い。足が震えて立ってらんない。
「ちょっと、待て。織部は嫌じゃないのか?」
「い、嫌じゃないです! 他の人だったら嫌ですけど、真壁さんなら……、でも、真壁さんが嫌ですよ、ね」
「俺は――」
 真壁さんはいいかけて、掌で口を覆った。
「あの、別に真剣に考えてもらわなくていいです」
 重い女って思われたくない。ストレス解消でいい。癒しなんて大それた存在じゃなくても。やだ。やだ。今夜は絶対、このまま帰されたくない。真壁さんと離れたくない。重いの反対は軽い。そう、軽く。セックスなんてたいしたことないのよって風に軽く。
「私、なんか、最近、色々うまくいかなくて、ちょっと、ストレス解消したいんです」
「織部」
「スリルっていうんですか? 刺激が欲しいんです。真壁さん、女はもう駄目ですか?」
「それ、お前の意思か?」
「え、は、はい。そうです」
「腹いせなんじゃないのか?」
 腹いせ? ストレスの原因のこと? そりゃあのバカ息子のせいで生理がとまるほど溜まってるけど、それどころじゃない。私は真壁さんに抱かれたい。
「腹いせなんかじゃないです。アイツのことなんか関係ないです。振り回されたって、騙されたって、彼女の所でのんびりしてようと別にいいんです。だってそんなことどうでもいいくらい、ん。んと、好きなんです!」
 真壁さんが、といいかけて、止めた。崇めすぎて重いって引かれたら嫌だ。
「……――が好きなのか」
 低すぎて聞き取れなかった。好き? 真壁さんのこと? なに? でも真壁さんのことなら。
「そ、そうですね。はい」
「わかった。もういい。それ以上は聞きたくない」
 真壁さんはビニル袋を投げ捨てると私に向き直る。
 見たことない鋭い目線に肩がすくんだ。怒ってる?
 真壁さんは私の肩を引き寄せ、ドアを大きく開くとリビングに押しやった。
「ま、真壁さん?」
 なんで無言なの。ちょっと怖い。
「じゃあ、見せてくれよ。俺相手にどこまでやれるか」
「いいんですか」
「いいよ。ストレス解消だっけ? 付き合ってやるよ。」
 乱暴な手つきでネクタイを緩める。人が変わったようだ。スイッチ入ったってやつ? でもなんか怖いけど色っぽい。
「どうしたい?」
「え。どうって、どんなことでもします!」
 って、これじゃあ曖昧すぎるか。でも、どうしたらいいの? 始まりって、どう始めて進行していったら挿入に至るの? あれ? 映画とか漫画ならキスからするよね? キス……。真壁さんはネクタイを外すと腕組をし、ソファの背もたれに寄りかかり、私を見下ろしている。じっと睨むように見つめられて、ドキドキしてきた。
 真壁さんはため息を吐くと首の後ろ辺りを無造作に掻いた。
「シャワー浴びてこい」
「は、はい!」
 ご主人様が投げた棒を拾いにいく犬のように機敏に足が動いた。廊下を歩きながら手探りで浴室を探し当てる。ざっとみたところ家電は比較的新しいモデルばかり。新婚生活に向けての気合いを垣間見て気が落ちる。
 私、真壁さんの為ならなんでもできる。

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