恋の始め方間違えました。
6
真壁さんの持っていた書類にサインを貰い、一億三千万の契約は無事に結ばれた。帰り際にご主人が、織部ちゃんと新人には悪いが、やっぱり真壁がいなくちゃ心もとなくてね。あいつが来た時はホッとしたよ。と話して下さった。私も同意しお礼を言って外に出た。
少し離れた場所にあるコインパーキングに向かう真壁さんの後ろ姿を走って追いかけると、こちらに気づいて振り返ってくれた。
「本当に申し訳ありませんでした!」
「お疲れ。お前、車は?」
「あの子が書類を取りに行くって乗って行ったのでタクシーで来ました」
「じゃあ俺の車に乗ってけ」
「はい。すみません。ありがとうございます」
セダンの助手席に乗り込むと、煙草と整髪料の匂いがした。駐車料金を払い終えた真壁さんが戻ってきて車を発進させた。
「あの、今日は本当に申し訳ありませんでした。私が至らないばかりに真壁さんにご迷惑おかけしてしまって」
「俺はお前の上司だからな。それに宮原さんは俺のお客さんだし」
真壁さんは前を向いたまま、少し笑った。
「織部これから予定は?」
「会社に戻って経費の領収書まとめて狭山ビルの改築計画の提案書類を作ろうかと」
「昼飯食いに行く時間くらいあるよな」
ガッツポーズで小躍りしたいのを抑えて、腕時計に視線を落とす。
「え。あ、はい。私は大丈夫です」
「よーし。説教タイムだ」
都市高で移動し、郊外にある創作和食の店に行った。山辺りにあるのでお蕎麦が美味しいと評判のところだ。全席個室で堀ごたつになっているので周りを気にせず寛ぐことができる。日替りランチとレディース御膳を注文して温かい玄米茶で一息入れて、姿勢を正して真壁さんに向き直る。
「あ、いい、いい。力抜け」
真壁さんは温かいおしぼりで手と顔を拭くというオヤジ技をやってのけ、玄米茶を飲んだ。
「ホントに説教するわけないだろ。お前最近やつれてるけど大丈夫か?」
「え……、は、はあ……まあ」
「ちゃんと食ってんのか? ついでにダイエットとか考えてんじゃないだろうな。ぶっ倒れるぞ」
「いえ、そんなことはないです」
不意に宮原さん宅で真壁さんの姿を見た瞬間の安堵がよみがえり、今目の前で心配してくれる本人に感激して涙腺が決壊した。涙がぼろぼろ落ちて止まらない。顔をしかめなくても勝手にこぼれ落ちる。
真壁さんは一瞬ぎょっとした表情を見せたが、私の手元にあったおしぼりを頬に当ててくれた。
「す、すみません。こんなつもりじゃ……。あはは。柄じゃないって話ですよね。恥ずかしい」
「あんまり思い詰めるな。今回はお前のせいじゃない」
「でも、私が予備の契約書を作っておけばよかったのに、うっかりしていて」
「うん。そうだな。でも俺が持ってたからいいだろ」
「よくないです」
「わかってるならもういいよ。次に備えろ」
「でも……」
「でもなんだ? 無事に契約は済んだ。お前は反省してる。これ以上なにかする必要あるか?」
返す言葉が見つからなくて黙っていると、真壁さんが少し笑った。
「あるとしたら化粧直しか? とっさに拭いたから目の下が黒くなってる。ごめん」
「えっ。じゃあ直してきます」
ただでさえ泣いちゃって恥ずかしいのに化粧崩れまで見られるなんて最悪。慌てて鞄から取り出したポーチを持って席を立ちお手洗いに逃げ込む。
よりによって真壁さんの前で泣くとかないなぁ。でも止まらなかった。不安が一気に吹っ飛んで、ブツンと切れた。
少し離れた場所にあるコインパーキングに向かう真壁さんの後ろ姿を走って追いかけると、こちらに気づいて振り返ってくれた。
「本当に申し訳ありませんでした!」
「お疲れ。お前、車は?」
「あの子が書類を取りに行くって乗って行ったのでタクシーで来ました」
「じゃあ俺の車に乗ってけ」
「はい。すみません。ありがとうございます」
セダンの助手席に乗り込むと、煙草と整髪料の匂いがした。駐車料金を払い終えた真壁さんが戻ってきて車を発進させた。
「あの、今日は本当に申し訳ありませんでした。私が至らないばかりに真壁さんにご迷惑おかけしてしまって」
「俺はお前の上司だからな。それに宮原さんは俺のお客さんだし」
真壁さんは前を向いたまま、少し笑った。
「織部これから予定は?」
「会社に戻って経費の領収書まとめて狭山ビルの改築計画の提案書類を作ろうかと」
「昼飯食いに行く時間くらいあるよな」
ガッツポーズで小躍りしたいのを抑えて、腕時計に視線を落とす。
「え。あ、はい。私は大丈夫です」
「よーし。説教タイムだ」
都市高で移動し、郊外にある創作和食の店に行った。山辺りにあるのでお蕎麦が美味しいと評判のところだ。全席個室で堀ごたつになっているので周りを気にせず寛ぐことができる。日替りランチとレディース御膳を注文して温かい玄米茶で一息入れて、姿勢を正して真壁さんに向き直る。
「あ、いい、いい。力抜け」
真壁さんは温かいおしぼりで手と顔を拭くというオヤジ技をやってのけ、玄米茶を飲んだ。
「ホントに説教するわけないだろ。お前最近やつれてるけど大丈夫か?」
「え……、は、はあ……まあ」
「ちゃんと食ってんのか? ついでにダイエットとか考えてんじゃないだろうな。ぶっ倒れるぞ」
「いえ、そんなことはないです」
不意に宮原さん宅で真壁さんの姿を見た瞬間の安堵がよみがえり、今目の前で心配してくれる本人に感激して涙腺が決壊した。涙がぼろぼろ落ちて止まらない。顔をしかめなくても勝手にこぼれ落ちる。
真壁さんは一瞬ぎょっとした表情を見せたが、私の手元にあったおしぼりを頬に当ててくれた。
「す、すみません。こんなつもりじゃ……。あはは。柄じゃないって話ですよね。恥ずかしい」
「あんまり思い詰めるな。今回はお前のせいじゃない」
「でも、私が予備の契約書を作っておけばよかったのに、うっかりしていて」
「うん。そうだな。でも俺が持ってたからいいだろ」
「よくないです」
「わかってるならもういいよ。次に備えろ」
「でも……」
「でもなんだ? 無事に契約は済んだ。お前は反省してる。これ以上なにかする必要あるか?」
返す言葉が見つからなくて黙っていると、真壁さんが少し笑った。
「あるとしたら化粧直しか? とっさに拭いたから目の下が黒くなってる。ごめん」
「えっ。じゃあ直してきます」
ただでさえ泣いちゃって恥ずかしいのに化粧崩れまで見られるなんて最悪。慌てて鞄から取り出したポーチを持って席を立ちお手洗いに逃げ込む。
よりによって真壁さんの前で泣くとかないなぁ。でも止まらなかった。不安が一気に吹っ飛んで、ブツンと切れた。
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