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恋の始め方間違えました。

森野きの子

 焦りと緊張で胃がしめつけられる。久しぶりの感覚だな。仕事始めたばかりの時は色々ミスして真壁さんにフォローしてもらったな。
 今は私があの時の真壁さんなんだ。仕事をほっぱらかしたことないけど。
 誠心誠意謝罪して益子の言った通り会社に戻ろう。パソコンの中に原本があるし、なんとかなる。……なんとかならないと後がない。
 やはり足取りは重い。なんか今日はやたらナーバスかも。くよくよしたって始まらないのに。
 約束の時間ギリギリ五分前。なんとか自分を奮い立たせながら立派な純和風の邸宅の門前に立つ。
「ごめんください。藤和工務店の織部です。おはようございます」
 奥に聞こえるように声を張ると、遠くから「はーいどうぞー」と返事が聞こえた。
 よし。覚悟は決めた。いざ。
「失礼しまーす」
 敷石を辿り、手入れの行き届いた庭園を横切る。心臓は低くて嫌な鳴りかたをしている。
「あらいらっしゃい。どうぞお入りになって。もうお話始まってるのよ」
 のんびりした奥様の物腰に耳を疑った。
 もう、話が始まっている?
 靴を脱ごうとして、揃えられた男性用の革靴に気づいた。もしかして書類を取って一人で来たのかしら。もう何よそれヒヤヒヤさせないでよ。
 安堵して足から力が抜けてへたりこみたいくらいだった。
「失礼します」
 広い廊下の突き当たりの右側の応接間に通される。
「遅くなりまして大変申し訳ありません」
 頭を下げ、顔をあげるとご主人の向かい側に座った男性がこちらを振り向いた。前と横の髪をきっちり後ろに流したヘアスタイルに、すっと通った高い鼻梁。切れ長で二重の垂れた目尻。
「織部、後で説教な」
「まあまあ。時間には間に合っているんだからいいじゃないか。織部ちゃん、真壁の隣で可哀想だが座りなさい」
 涙腺が決壊寸前になった。ご主人の優しさとそこにいる私のスーパーヒーローの存在に。
「失礼します」
 私は再び頭を下げて真壁さんの隣に腰を下ろした。

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