恋の始め方間違えました。
3
友人としての馴れ初め。新婦がいかに人気者で自分が憧れていたかを滔々と語っていく。
「……そして、いつも仲間の中心にいた美織さんは、大学でも皆の人気者でした。皆が彼女の魅力に惹かれ……」
キィン、とマイクがハウリングを起こした。不意に俯いた彼女はゆっくりと顔を上げ、無表情に新婦を見遣った。
「……美織。私たち、親友よね?」
一気にトーンダウンした彼女の声に不穏な気配を察知した新婦が硬い笑顔を貼付けて頷いた。会場もさらにしんと静まり返る。
気配で益子が何か言いたそうにしているのがわかった。
「私は親友として、新婦の本当の幸せを手にして欲しいと思います。女の幸福は本当に愛する人と家庭を築き、本当に愛する人の子供をその人と育んでいく事だと思います」
松永由紀は吹っ切れたような笑顔を浮かべマイクに手をかけ、高砂に向き直った。新婦の表情がおかしい。目が泳いで、真壁さんと松永由紀の間を行き来している。
「新郎の真壁さん。この日に真実を告げることになってしまうとは、本当に申し訳なく思います。美織のお腹の子は――」
「いい加減にしてよ!!」
上擦った新婦の絶叫が響き、いよいよ会場にどよめきがわいた。
松永由紀につかみ掛かろうと立ち上がった新婦を真壁さんが制した。
「……駄目よ、美織。こんなのよくないわ」
松永由紀がマイクを通してぽつりと呟いた。
「お腹の子はケイ君の子でしょ? 真壁さんが満たしてくれない寂しさをケイ君が癒してくれてたんだよね? ずっと」
新婦の友人席で一人の男性に注目が集まり、自然と全ての視線が集中した。
スーツ姿のチャラそうな男性が目を白黒させて周りの視線に慌てている。
なにが起こっているの。頭が真っ白になって現実味が薄い。これ、ドッキリ?
「だから、美織は本当に愛する人と幸福になって下さい。ケイ君、さようなら。私は身を引きます。どうかお幸せに」
新婦は発狂したようにわめき立て、親族席はざわめいて、来賓席は沈黙している。これ、現実だ。
ぶち壊される披露宴なんて一生に一度見れるかわからないレアリティだ。いや。そうじゃなくて。マジで?
「千載一遇の形勢逆転のチャンス到来。おめでとう、織部」
益子がまた耳打ちをしてきた。
「えー……っと」
困惑した司会者がなにか言いかけたが、真壁さんがそのマイクを横取りした。
「皆様。お忙しい中お集まり頂き、誠にありがとうございます。このような結果となりお見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません。まさか大枚叩いて離婚披露宴をすることになるとは思ってもみませんでした。ここからは、お忙しい方はお帰り頂いて構いません。お暇がある方は私を励ます無礼講の宴会として楽しんで頂けたら幸いです」
絶叫する新婦とその親族と友人は退席したけれど、真壁さんの関係者は誰も席を立たなかった。それどころかヨコタテの繋がりの関係で励ます会と交流会と親睦会がごちゃまぜになった大規模な宴会が始まり、二次会はお偉方のご厚意で共通の集いの場である高級ラウンジを貸し切り、励ます会は明け方まで続いた。
この話を聞いて不憫に思った地主連中が、せめてもの励ましにと新しいビルの契約も取れ、真壁さんはハネムーンのために取っていた一週間の有給休暇を返上して地主さん達のところを回ることになった。
そんな不幸な披露宴から二年。真壁さんは課長補佐に、益子は係長に、私は主任に昇任した。
「……そして、いつも仲間の中心にいた美織さんは、大学でも皆の人気者でした。皆が彼女の魅力に惹かれ……」
キィン、とマイクがハウリングを起こした。不意に俯いた彼女はゆっくりと顔を上げ、無表情に新婦を見遣った。
「……美織。私たち、親友よね?」
一気にトーンダウンした彼女の声に不穏な気配を察知した新婦が硬い笑顔を貼付けて頷いた。会場もさらにしんと静まり返る。
気配で益子が何か言いたそうにしているのがわかった。
「私は親友として、新婦の本当の幸せを手にして欲しいと思います。女の幸福は本当に愛する人と家庭を築き、本当に愛する人の子供をその人と育んでいく事だと思います」
松永由紀は吹っ切れたような笑顔を浮かべマイクに手をかけ、高砂に向き直った。新婦の表情がおかしい。目が泳いで、真壁さんと松永由紀の間を行き来している。
「新郎の真壁さん。この日に真実を告げることになってしまうとは、本当に申し訳なく思います。美織のお腹の子は――」
「いい加減にしてよ!!」
上擦った新婦の絶叫が響き、いよいよ会場にどよめきがわいた。
松永由紀につかみ掛かろうと立ち上がった新婦を真壁さんが制した。
「……駄目よ、美織。こんなのよくないわ」
松永由紀がマイクを通してぽつりと呟いた。
「お腹の子はケイ君の子でしょ? 真壁さんが満たしてくれない寂しさをケイ君が癒してくれてたんだよね? ずっと」
新婦の友人席で一人の男性に注目が集まり、自然と全ての視線が集中した。
スーツ姿のチャラそうな男性が目を白黒させて周りの視線に慌てている。
なにが起こっているの。頭が真っ白になって現実味が薄い。これ、ドッキリ?
「だから、美織は本当に愛する人と幸福になって下さい。ケイ君、さようなら。私は身を引きます。どうかお幸せに」
新婦は発狂したようにわめき立て、親族席はざわめいて、来賓席は沈黙している。これ、現実だ。
ぶち壊される披露宴なんて一生に一度見れるかわからないレアリティだ。いや。そうじゃなくて。マジで?
「千載一遇の形勢逆転のチャンス到来。おめでとう、織部」
益子がまた耳打ちをしてきた。
「えー……っと」
困惑した司会者がなにか言いかけたが、真壁さんがそのマイクを横取りした。
「皆様。お忙しい中お集まり頂き、誠にありがとうございます。このような結果となりお見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ありません。まさか大枚叩いて離婚披露宴をすることになるとは思ってもみませんでした。ここからは、お忙しい方はお帰り頂いて構いません。お暇がある方は私を励ます無礼講の宴会として楽しんで頂けたら幸いです」
絶叫する新婦とその親族と友人は退席したけれど、真壁さんの関係者は誰も席を立たなかった。それどころかヨコタテの繋がりの関係で励ます会と交流会と親睦会がごちゃまぜになった大規模な宴会が始まり、二次会はお偉方のご厚意で共通の集いの場である高級ラウンジを貸し切り、励ます会は明け方まで続いた。
この話を聞いて不憫に思った地主連中が、せめてもの励ましにと新しいビルの契約も取れ、真壁さんはハネムーンのために取っていた一週間の有給休暇を返上して地主さん達のところを回ることになった。
そんな不幸な披露宴から二年。真壁さんは課長補佐に、益子は係長に、私は主任に昇任した。
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