視線が絡んで、熱になる

夜桜 ゆーり

episode6-1

琴葉には疑問があった。
それは、例えば今後も柊と一緒にいられるとして…そのたびに体を合わせるのかということだ。
今だって迷っている。持参してきた薄手の水色のパジャマに身を包み、柊がシャワーを浴び終えるのを広いリビングで待っていた。
歯磨きも終えた。髪も乾かしている。ソワソワするのを表面に出さないように寝室へ行く。

(一緒に寝るんだよね?)

キングサイズのベッドでは二人でも広すぎるほどだった。
縁に腰かけて寝室を見渡した。入ってすぐの入り口側の壁に置かれた本棚には難しそうな本が並んでいる。小説もいくつかあるが、どちらかというと専門書だったりビジネス書が多い印象だ。
勝手に見るのは失礼だからベッドの上でじっとそれを見る。
いつの間にか外したコンタクトは一日中つけていると疲れを感じるから、シャワーを浴びる前に眼鏡にしたが自分にはこっちの方がしっくりくると思った。
丸眼鏡を通して本棚を見ていると寝室のドアが開いた。
柊が入ってくると一変して全身の血液が琴葉の体内を駆け巡るのがわかる。
彼はバスローブ姿だった。

「どうした」
「…いえ、あの」
柊は琴葉とは違い、普段通りだ。
「おやすみなさい」
「眠たいのか」
「…まぁ」

もじもじとしながら柊から目を逸らせば、途端彼が足早に琴葉に近づく。
そしてベッドの縁に座る琴葉の目の前に立つと、すっと音もなく顎を掬った。顔を隠していた髪がサラリと元の位置へ戻ると、柊と目が合う。

「抱きたい」

ハッキリとそう言われ、琴葉は返す言葉もなく目を見開く。
こくり、無言で頷くと同時に柊が顔を近づける。
目を閉じた瞬間唇を塞がれた。柊はベッドに膝立ちをする状態で、琴葉の後頭部に手を回す。

「…ふ…ぅ、…」

舌をねじ込んでくるような深いキスかと思えば、今度はチュッと軽くリップ音を立てる、唇をついばむようなキスに変化する。琴葉はそれを受け入れるだけで精一杯だった。
角度を変えて繰り返すキスが昨日体を合わせた時のそれよりも長く感じた。
後方に手をついて上半身を起こしているのに必死だった。
がくがくと震える腕をとうとうどうすることもできずに重力に従って体をベッドへと預けた。

ようやく離れた唇は酸素を吸い込むのに必死だ。
大きく胸を動かして呼吸をしていると柊が顔を覗き込む。
ぎらつく柊の目を見て、下腹部に熱が生まれた。柊の腕が琴葉の体をひょいっと簡単に持ち上げてベッドの中心へ移動させる。
スプリングベッドの軋む音がやけに耳に残り、そしてそれが卑猥に聞こえる。
いつの間にか照明が薄暗く変化した。柊がバスローブを脱ぎ捨てるのを視界で捉えるが体は動かない。
静寂に包まれる中、柊が琴葉に覆いかぶさる。
彼の重さを感じたと思えば、次の瞬間には柊の唇が琴葉の頬や額、首筋に落ちる。

その都度、小さな声が漏れた。
そして、また琴葉の唇へ柊のそれが重なる。
「んぅ、っ…」

くぐもった声が漏れる。お互いの唾液が絡み合う音が寝室に響いていた。
何度も何度もキスをされて、気づくと琴葉の両目じりには涙が薄っすらと浮かんでいる。
柊の手が琴葉のパジャマのボタンにかかると体はびくりと反応する。

「嫌か?」

ゆらゆらと首を横に振った。ぼんやりと薄暗い寝室で、柊の男らしい体に自然と視線が向く。柊の手がそっと琴葉の髪に指を通す。そのままその指が頬から唇に移る。
そして、もう一度先ほど外そうとしていたボタンに手を掛けて、ついに胸元が露になった。柊の手が外気に触れたそこに触れると、甘美な声が漏れ出る。
そのうち、意識が朦朧としてくる。柊が何度も「琴葉」と甘く囁いてくれていたがそれに応えることが出来ないまま気づくと朝になっていた。







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