視線が絡んで、熱になる

夜桜 ゆーり

episode2-2

「改めましてブランドマネジメント部の西田です」
「プロモーション部の勝木です」

彼女たちに合わせて琴葉と涼も同様に挨拶をした。大型スクリーンに理道新ブランドについてとタイトルが表示され、西田が立ち上がる。
琴葉たちの視線が彼女に注がれる。

「手元にある資料二枚目をご覧ください。今回私たち理道から新ブランドを出す予定です。今年の年末を予定しています。そこでH&Kさんとこれらを一緒に作っていきたいと思っています。資料三枚目に移ります」

内容は涼から聞いていた通り、新ブランドの立ち上げをするということだった。
化粧品は営業利益の二割を占める。理道の財務諸表はチェックしてきた。
企業にとって重要な損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書それらを見るとその会社の営業利益や財務状況がわかる。
理道は大手企業ということもあり非常に安定してる。しかし、化粧品部門だけ伸びが悪い。
前年比でみると競合他社の方が売り上げがいいようだ。
琴葉は資料を捲りながら、新ブランドとはどういうものなのか気になった。
今後自分たちが携わっていく化粧品ブランドの詳細を早く知りたい。
粗方説明を終えると西田が席に戻る。
今回の新ブランドは三十代以降をターゲットにしているようで、価格帯も口紅一本四千五百円、ファンデーションはどれも一万円弱を設定している。

「なるほど。高価格帯のブランドですね。展開先は…」
「主に百貨店になります」
「そうですか。ブランド名は“凛”ですね」
「そうです。ターゲット層は働く女性です。価格設定的に30代以降をターゲットにしています。しかし、理道の商品は年代、性別問わず誰もがときめきを覚えるような商品を作っていきたい」

西田の隣の勝木が口を開く。

「次回までに予算等を考慮してマーケティングをお願いしたいです。予算は最後のページに」
「わかりました。とりあえず企画部と打ち合わせします」

1時間弱の初の打ち合わせは終了した。ほぼ涼が会話を進めていて琴葉に出る幕はなかった。それが悔しいというか、モヤモヤと何かが残っていた。


「どうしたの?今日はまずまずってところかな」
「ありがとうございます。喋る機会がなくてすみません。次は…もっと、」
「あぁ、なるほどね~」
車に戻って涼が一息つき、隣に座る琴葉に目を向ける。

「意外だなって。自信がなさそうに見えたから、オドオドしているような子なのかなって思ったけど違うね」
「…えっと…?」
「私なんて~っていう感じの子じゃなかった。意外に営業向きかも」
「…私が、ですか?」
「そう思ってないの?」
「向き不向きで言うと、向いていないと思います。でも、私は任された仕事はベストを尽くしたいんです。結果を出したい。それに広告代理店に入社したかった理由は心を動かされるようなそんな広告を作っていきたいって、そういう思いがあって。いい商品でも売れなければ意味がない。マーケティングってすごく重要だと思うんです」
「へぇ、すごいね。そういうふうに思えるっていいよ」
褒められることに慣れていない琴葉は頬を赤らめて視線を下げる。
「よーし、とりあえず戻りますかー」

車が発進した。


♢♢♢

「今戻りました~」
「戻りました!」

営業部に戻ると、柊と智恵だけがデスクにいた。
奏多はまだ外勤らしい。
デスクに鞄を置いて椅子に腰かけるとすぐに柊が近づいてくる。涼と琴葉の背後に立つと、
「どうだった?初めての打ち合わせは」
「今日は顔合わせ程度です。琴葉ちゃんもばっちりですよ」
「いえ。課題も多いです」
「そうか。よかった」

珍しく朗らかな笑顔を向ける。
(あんな顔、するんだ…。)

「そうだー、今週飲みに行こうよ」
「はい、それは…クライアント先とか?」
「いやいや、プライベート。サシで」
「ふ、二人?!」

驚き、目を見開くが涼は何故琴葉が驚いているのかわからないようだ。
涼にとっては、異性とか同性とか関係なくただ琴葉を仕事上のパートナーとして誘っているだけだというのはわかっている。しかし、異性に耐性のない琴葉にとってそれはハードルが高すぎる。

「いや~えっとそれは…」
「なんで?彼氏いるの?」
「いないです」
「そうなんだ。琴葉ちゃん可愛い顔してるから長く付き合ってる彼氏いそう」
「…っ」
“可愛い”
言われ慣れていないその言葉は琴葉を刺激するには十分すぎる。
綺麗とも言われ、可愛いとも言われた。サラッとそんなことを言える涼は相当女性に慣れているのかもしれない。
中高生でもあるまいし、こんなことであたふたするなんて恥ずかしい。それなのに上昇する体温をどうすることもできずにいた。


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