エリート魔法使い、サイコパスにつき:殺そうとした彼女は、勇者の末裔だったらしい

ノベルバユーザー542862

第7話 デートに行こう



クリスが私の家に住みついて以来、私の行動は大きく制限されることになった。

朝の起床からはじまり、登校、帰宅、夕ご飯にいたるまで、彼女は積極的に私と、ともにいようとする。

いつ気が変わって、私の犯行を国の憲兵たる、騎士団に届けるかわからない手前、私には彼女にさからう事などできない。

かと言って、まったく隙がないわけでもない。

傲慢なる私の教え子、クリス・スレアの束縛生活がはじまり昨日でちょうど1週間が経過した。

1月13日〜1月19日の1週間のサイクルのうち、昨日だけは、つまり週末の後半、半日ほどは自由に時間を使えることがわかった。

クリスが猫愛好会などという、くだらないサークルの部長を務めていて助かった。

「先生〜、何書いてるのー?」
「ッ」

背後から聞こえる声。
皮表紙の日記をたたき閉じる。

「クリスか。いい加減に気配を消して近づくのやめなさい。それは先生として許容できない」
「いいんじゃん、あたしたちはカップルなんだよ?」
「殺人鬼とカップルなのは、果たして誇るべきことかな。豪胆すぎて、私よりよっぽど、君の気が心配になってくるよ」
「えへへ、勇者ですから!」

それを言えば、なんでも解決すると思っているな。

人を弱みを握り、命運を自分次第でコントロールできると知っているから、こんな余裕を持てるんだ。

クリス、君は私より、よっぽどおぞましいよ。

やはり、サイコパスか。

「先生、それでそろそろ、先生の右手のこと教えてくれる気になった?」
「なんだいきなり。教えたくないって、ずっと言っている。先生の言うことを聞きなさい」

私の右手に白い指を伸ばしてくるクリス。
スッと手を引っ込めて、ポケットに突っ込む。

これだ、このよくわからない勇敢さだ。

具体的に説明したわけではないが、おそろくクリスは、私の右手が、作品作りのかなめだと気づいている。

当然か。
彼女のまえで大々的に能力を使いすぎたツケだ。

殺人において極めて優れた力だとも、気がついているだろう。
また、同時にそれが彼女自身に効かないこともだ。

こちらの手のうちばかりバレる。
私はクリスの、勇者の秘密をなにも知らないのに、クリスは私のことを知っている。

ストレスだ。
私の精神衛生が他人に侵害されている。

このストレスを解消するためにはーー、

「クリス、私は君のことをもっと知りたい」
「っ、先生、いきなり、だね」

クリスは頬を染め、私の左手に細い指先を伸ばす。

左手も引っ込めてポケットに避難させる。

「私も先生のこと、いろいろ知りたい。先生、この1週間ずっと辛そうだったもん。
ねぇ、教えてよ、先生の病気って本当に治らないの? これまでは毎日のように人を殺してたのに、この1週間は人を殺してないんだよ?
それってつまり、殺人衝動なんて、先生の思いこみとかなんじゃないの?」

いいや、つい昨日、マフィアを40人ほど血祭りにあげてきたばかりだよ、クリス。

「先生のことを教えて! 絶対に治るよ!」

ふむ、ずいぶんとポジティブな思考をしてるな。

流石はいい子で、いい子で、いい子すぎて殺したくなってしまうクリス・スレアだ。

「ねぇねぇ、お互いのこともっと知るためにも、あたし、先生とデートしたいなぁ〜」
「毎日、デートしてるようなものじゃないかな。これだけ監視されていては」
「違う、そうじゃなくてちゃんとしたいの!」

わがままな子だ。
話し合ってなにかが変わるなど……ありはしない。

「ねっ、先生、お願い!」

まん丸の緋瞳で上目遣いしてくる。

あざとい、実にあざといぞ、クリス・スレア。

「……むぅ」

とは言えだ。

確かにこれまでと比べて、変化が起きている。

一昨日までの私の殺人数が、劇的に減っていたのも事実だろう。

これは勇者の秘密を知り、弱点を見つけるためにも、一度しっかりと話をするのがいいかもしれない。

「わかったよ、クリス。それじゃ次の週末にでもどこかへ出かけようか」
「やったー! 行く場所はあたしが決めるね!」
「あぁ、いいとも」

どこで話そうと変わりはしない。

最近オープンしたあのカフェでも、女学生に人気の花庭園でも行ってやろう。


⌛︎⌛︎⌛︎


ーー5日後

「じゃ、最初はここ! 聖トニー教会ね!」

私たちは教会へやって来ていた。

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