【完結】ロリコンなせいで追放された魔術師、可愛い愛弟子をとって隣国で自由気ままに成りあがるスローライフ!

ノベルバユーザー542862

第128話 最後の決闘


すべてを浄化せんとする無慈悲の咆哮。

立ちはだかる与えられた試練は、困難で、途方もなく高い。

だが、俺にはできる。

俺はサラモンド・ゴルゴンドーラだ。

いずれ世界の魔法普及率100%を成し遂げ、幼女たちに尊敬のまなざしを向けられる存在。

「ここで終わるわけには、いかない!」

手作り魔導書のページが、暴風にまかれペラペラと狂ったような速さでめくれていく。

ゲイシャポックよ、ゲイシャポックよ、前回召喚してやったことを少しでも感謝してるなら、この呼びかけに答えよ!

加重に悲鳴をあげる大杖を砕けないように、抱きしめ、魔力の嵐のなか、神頼み半分で叫ぶ。

「来たれ、来たれ、きたれぇぇぇぇえぇぇえー!」

あ、来たーー。

大杖と短杖、ノートに記載された3つの魔法陣。

軍神を召喚するには役不足がすぎる。

到底不可能だと、俺自身信じていなかった。

だが、意外に無理はやってみるものだ。

魔力の大風が吸い込まれていく、中空に出現した巨大魔法陣はみるみる輝きを増していく。

プラクティカの放った『星ノ両断』のエネルギー、すべて喰らい尽くしても、まだ余力ある召喚魔法陣。

あたりを包んでいた極光がおさまり、魔法陣がはなつ神聖な輝きだけが荒れ果てた魔術大学を照らす。

地面に突き立てられた、巨大な柱のオブジェクトにプラクティカは眉をひそめ、肩をすくめた。

「あら、凌いだのね、やるじゃない。すごいわ……えぇ、本当に。けど、同時にがっかりね。てっきり大逆転のために、かの大軍神とやらを召喚してくれると思ったのだけれど」

「へへ、残念だが、こんなんじゃちっとも魔力が足りない。ゲイシャポックの燃費の悪さを舐めないでもらおうか」

ただの指先だけ召喚された軍神を指し示し、肩で息をする。

ふらりと、めまい、大杖に寄りかかる。

ーーボキッ

「ッ、し、師匠……っ!」

「ふふ、そう……それもそうよね。戦場を焼き尽くしたっていう話ですものね。戦場の大規模魔法陣群ならいざ知らず、そんな貧相な装備では、そもそも軍神そのものを召喚することなんて、不可能よね」

あぁ、なんてことだ。
師匠から受け継いだ杖が、杖が!

これだけは絶対に壊さないとしてたのに!
流石に今回のは乱暴に使いすぎたのか……。

よく見たら、パティオからもらった杖もボロボロじゃないか。

あとどれだけ魔法が放てるか……。

「サリィ、あなたはよく頑張ったわ。もう楽になりなさいなーー」

プラクティカは不適に微笑みながら、再び剣を持ちあげた。

彼女の体内から、具体的には同化している死の悪魔から魔力が溢れだし、魔剣へ集約されていく。

させない、やらせない、撃たせない。

俺は最後まで諦めない。

「≪汝穿なんじうが火弾かだん≫」

悲鳴をあげる杖から飛びだした、紅の槍が魔剣によって叩っ斬られる。

まだだ、まだだ、近づけ、近づくんだ。

杖が壊れないよう慎重に、されど苛烈に火華を散らして撃ちまくる。

近づけ、近づけ、近づいて、この杭をその心臓に突き立てるんだ。

剣をくるくる回し、巧みに弾くプラクティカ。

俺が近づくたびに、すこしずつすり足で後退している。

あれでは、杖が壊れるまえに彼女に辿り着けない、まずい、はやく、この機会を逃したら、俺はーー!

その時、魔感覚をかすめる微かな気配が、鼻先をかすめた。

「っ、」

それは空を斬り、色あせた世界にさす真紅の線閃。
それは、もはや慈悲をすてた者の覚悟。

緋糸あけいとーーエゴ……ッ」

魔女の言葉が最後まで紡がれることはなかった。

一瞬の出来事だった。

プラクティカの上体が落ち、完全に動きがとまった。

同時、瓦礫のしたから真っ赤なシャツを着たふらふらの紳士が現れた。

「エゴスさん!?」

「ぁ、ぁぁ、サラモンド殿、よかった、間に合って。すこし肩をかしてはくれませぬか……」

よろよろ歩いてくるエゴスに駆け寄り、肩を抱く。

「さっき死んだんじゃ……」

「サラモンド殿、サラモンド殿、話はあとです……奥様は悪魔化してしまっている。もはや手段は選んでおれませぬ!」

エゴスは立ちあがり、転びそうになりながらプラクティカの別たれた体のもとへ。

血らしきものが一滴も流れていない、異様な死体……いや、きっと死体ではないのだろう。

「さぁ、聖遺物を、パティオ殿から奪取したのでしょう?」

せかすエゴスの言葉にうなづき、俺は聖遺物を握りしめた。

「でも……こんな状態で体から悪魔の力が抜けたら……」
「……サラモンド殿、エゴスは何とか、何とか奥様の五体を維持したままの、
悪魔の滅殺をしようとしておりました。これはわたくしめの力が及ばなかった、最悪の一歩手前の結末でございます。
お願いです、サラモンド殿、どうか、どうか、奥様の魂までもが、悪魔に侵されるまえにーー!」

普段絶対に見せない、強き老人の涙。

その覚悟のほど、胸の痛みのほどは俺にわかるはずもない。

最期の時まで、忠義をつくそうとする紳士がため、そして、俺自身が彼女への最大の感謝を伝えるため、できることはたった一つしかない。

聖遺物ーーエルコタの聖杭を天高くふりあげる。

残されたわずかな魔力を、最期の踏ん張りで怪腕の力に変え、そしてーー。

「それはワタシの体だーー」

「ッ!」

傍に落ちていた魔剣が形態変化、黒礼服の悪魔が、腕を振り抜いてくる。

まずい、吸血鬼とタメを貼る怪力だ。
こんなもの食らったら、俺の頭なんて弾け飛ぶ。

尻餅つきながら、なんとか首をのけぞらせる。

ダメだ、体が重たい、回避が間に合わない。

「虫がッ!」

低く、短く、重い声。

悪魔の顔面を鷲掴みに、血の解放された本物の怪腕が片腕で地面に巨大なクレーターを作りだす。

衝撃はおさまらず、地割れは残っていた校舎まで巻き込んで広がる。

「サラモンド殿!」

訴えかけてくる瞳に確かな意思を感じ、俺は手に持った聖遺物をエゴスへ投げる。
パスされた薄緑の一撃は流れるように、悪魔の胸に突き立てられた。

「ぐぁあああぁああ、ッぁ、ァァアアッ!!」

歪んだ時の影響で、地面の沈下がゆるりと止まる。
数メートルほど沈んだひび割れクレーターの中心で、青い炎をあげる悪魔がエゴスに抑えられながら燃えさかる。

「エゴぉぉおス、ゥ、ゥ……ッ!」
「さらばだ、パット、地獄があるならそこで悔い改めることです」

抵抗力のなくなった悪魔から手を離し、エゴスは滅びゆく悪魔の体を見下ろす。

「ごほっ、ぐぅ……サラモンド殿、油断なさらず。この魔剣は悪魔の一部、分割体にすぎませぬ。
はぁ、はぁ、奥様の剣技、不死性、それは行動、感情を強制する呪いの領分を越えております……おそらく、悪魔のもう半身はすでに奥様と融合してしまっている……」

「では、やはり、プラクティカ様自身にも聖杭を……、っ、エゴスさん!」

「っ!」

エゴスの注意がこちらへ向いた僅かな瞬間、蒼炎のなかで悪魔が自身を穿つ聖杭に手を伸ばしたのを見逃さなかった。

ーーパキ、ィ

「貴様ァ!」

歯を食いしばるエゴスの鋭い蹴りが、悪魔の崩れかけた腕をちぎり飛ばす。

そして、気がついた。

吹き飛んど手のなかで、聖遺物が粉々に砕かれてしまっていることに。

「ぁ、ヒヒヒ、うほほほ、おほ、らほほほ、アハハハハハ……ッ!」

悪魔の半身は不気味に笑いながら燃え尽きていった。

膝をつき、吐血するエゴス。
うつろな目ですぐ傍で、ゆるりと立ちあがる主人を見上げる。

「はぁ、はぁ、これ、は、参りました……ぶぉへ!」

執事は吹き飛ばさら、壁に思いきり背中を叩きつけて、血の塊を口から吐きだした。

地面から拾いあげた杖を片手にプラクティカが、のそっと動く。

「あぁ、ぁぁ、サリィ、エゴス、よくも、よくもやってくれた、わね……あぁ、カルナ、カルナ、もうこんな小さくなってしまって、可哀想に!」

苦しそうに両足で地を踏みしめ、プラクティカは杖を俺へ向けてくる。

億劫で言うこと聞かない肉体に鞭を打ち、なんとか俺も立ちあがる。

「はぁ、ぁぁ、はぁ」

「うぁ、ぅ、ああ、はぁはぁ……」

お互いに満身創痍だ。

プラクティカの体の悪魔、自分自身である魔剣を滅ぼされたのがかなり効いていると見た。

おそらく聖遺物がなければ滅殺はできないだろうが、一時的な無力化が今ならば可能なはずだ。

「はぁ、はぁ、無駄なのよ、この時間の歪みが終われば、人間であるあんたは死ぬ。聖遺物はもうない。何をしたって無駄、無駄、無駄、なんの意味もないのよッ!」

咆哮とともに撃ちだされる、炎の飛鳥。
反対魔法の≪水壁すいへき≫でレジスト。

続いて角度と軌道を微妙にかえて、撃ってくる同魔法を正確に返答するように、水の盾で弾いていく。

次は、俺の番だ。

この体、この杖よ。

頼む、この一時だけもってくれ。

荒い呼吸を整え、踏みこみと一緒に風の弾を撃つ。

俺の踏みこみと同時、一歩引かれて魔法が受け流される。

風の弾は彼女の背後の、瓦礫の壁に穴を空けただけ。

帝国での修行時代を思いだす。

身寄りのない俺を、魔術師に育てようとした物好きな師匠は、俺をよく魔法省直属の育成機関である、
ゲオニエス帝国魔法魔術学校の放課後サークルに連れていってくれた。

そこで俺は、魔術師の決闘を学んだのだ。

ーービシャンッ

「ふっ! はぁッ!」

「無駄、へぇアっ!」

撃てば凌がれ、撃たれれば凌ぐ。
打ち消し、受け流し、カウンター、撃ち返しーー。

呼吸と踏みこみと共に、魔法を放つ。
心、技、体、魔法は頭のなかで暗記した詠唱を唱えるだけではダメなんだ。

全てがそろって決闘魔術。

時が息を吹きかえせば死ぬ、そうわかっていながら、俺はとても穏やかな気持ちだった。

だから、だろうか。
いつも以上に良く視えたんだ。

ーーピキィ、

くるくる、くるくる回り回って杖が飛んでいく。
手からすっぽ抜けた杖を、俺とプラクティカは唖然として眺めてしまう。

風の殴打に叩かれて、晴れた手の甲。

信じられないという眼差しで、彼女は空手のひらに視線を落とす。

俺はそんなプラクティカへ、決別の風魔法を撃ちこんだ。

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