【未完結】異世界帰りした英雄はソシャゲ運営で最強ビジネスはじめます!

ノベルバユーザー542862

第14話 アビリティ・ツリー


「す、凄いです、なんだか頭が痛くなるくらい、色んなものが理解できますよ、これ! もしかはしたら、私は宇宙の真理にたどり着いたのかもしれません!」

「能力移植のさいに、手にはいる一時的な全能感だ。よくある初期症状に過ぎん。すぐにおさまる」

ハイテンションで脱法ハーブに侵された顔するスズへ柴犬フェイスマスクを被らせ直し、周りから変な目で見られるのを阻止する。

ここはグンホー本社、その一階のロビーだ。
出入り口の警備員には当たり前のように止められたが、俺の能力があれば突破はたやすかった。

「ああ、えっと、そこの方。あなたここの社員ですか?」

男が怪しげな者へむける顔で、話しかけてくる。
暑くなってきたせいか、シャツ一枚でクールビズする男は、公用チェアに座する俺の隣に腰をおろした。

男が席につくなり『能力化コンプレッション』を発動させる。まず奪うのは『重課金アギトの質問に答えない能力』。

「ん」

これで、彼はもう俺の質問を無視できない。

次に俺は再度『能力化コンプレッション』を発動させ、男から『嘘をつく能力』を剥奪する。
人間の言語の特徴は、他の生物と違って嘘がつけること。それを奪えるアドバンテージは大きい。

手元に2本のスクロールがくれば、準備は完了だ。

これで俺はどんな情報でも、この男が知っている限り、聞きだすことができる。

相手の質問には答えず、こちらから質問をかえす。

「あなたはアプリ開発に携わっていますか?」

手始めにする質問はこんな感じ。

男は質問を無視した相手からの問いかけに、素直に「Yes」と答えてくれた。

この男がプログラマーである可能性が高くなってきた。

だが、まだ能力は奪えない。

この男がプログラミング技術を、もっている事を確定させなければいけない。

ゆえに俺は質問を重ねて、彼自身の口から、彼がどんなスキルをもっているのかを吐かせる。

「ーーシステムデザイナーですか。いいですね。その能力、いただきます」

ついに本人に役職と、保持するスキルを喋ってもらうことに成功し、男へ収穫の『能力化コンプレッション』をかける。

最後に『直近30分の出来事の記憶を保持する』を能力として奪いとれば、これまでのやり取りは忘れてくれるだろう。

このように『能力化コンプレッション』はいくらでも応用が効くから恐ろしい。
奪取目標として、本人のいずれかの能力を定めて仕舞えば、そこまで繋がるように質問を中継することで、いかようにも相手の内側から能力を奪えてしまう。

異世界で編みだしたアビリティ・ツリーと呼ばれる技法だ。

過ぎ去っていくシステムデザイナーの背中を見送り、スズへ『システムデザイナー・ランク3』を『施しチャリティ』する。

と、その時、

「珍妙なことをしてくれるな、大英雄」

大きな、重苦しい声がロビー全体に響きわたった。

聞いたことのないその声は、ポストモダンかつ清潔感溢れる広さを揺らして、確かに俺に向けられていた。

相手は俺のことを知っているらしい。

ふりかえり、俺の名を呼ぶその人影をーーロビーの奥から出てくる黒スーツに身をつつんだその男を睥睨へいげいする。

いつからか、もはやロビーに人影はなく、ただひとりただずむ穏便でないその男の姿は、空間に異様なほど不和と尋常ならざる空気を刻みこんでいく。

その風貌は圧巻の一言に尽きる。

黒髪、赤い瞳。筋骨隆々、かつ引き締まった印象をうける無駄のない鋼のようなたたずまい。
広い肩幅、長い足、背丈は190センチに迫ろうかという日本人離れした体躯。

とても特徴的だ。
だが、見覚えはない。

大英雄と言ったか。ともすれば、一方的に俺のことを転生者、あるいは帰還者だと知っているのだろうか。

奴もまた、異世界からの帰還者ということなのだろうか。

「グンホーの警備主任を任されている、氷室阿賀斗ひむろあがとという者だ」

男ーー氷室はジャケットめくり、懐から銃を取りだす。

「たった今から、お前を殺す」

有無をいわさぬ断言。
躊躇ちゅうちょなき撃鉄、ロビーの静謐せいひつは不当にも今破かれたのだ。

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