【未完結】異世界帰りした英雄はソシャゲ運営で最強ビジネスはじめます!
第5話 大帰還転生
「ねぇ、お父さん。その子なに」
不機嫌極まりない娘の声。
「この子は道端で拾ったんーー」
「もう警察に通報してるけど、構わないよね?」
「いや、構う構う! ウェイト綾乃、ウェイトッ!」
綾乃のスマホを取りあげて、致命のコールを阻止、冷や汗をぬぐって、ことの事情を簡潔に説明する。
「う、ぅう……しゅう、くりーム……」
腹ペコ丸出しの寝言をつぶやきながら、謎の少女が目を覚ました。
綾乃とさほど変わらない年齢の茶髪の少女は、目をパチクリさせ、ぼんやりとこちらを眺めてくる。
「……ぁ、転生者じゃん。やった、仲間みっけ」
「やっぱり、それっぽいこと言ってるな」
聞き間違いではない。
腹の虫がうるさい少女に、雑炊を食べさせながら、ことのしだいを聞くことにする。
綾乃にはいろいろ聞かせたくなかったので、とりあえず部屋に戻ってもらうことにした。
「モグモグ、わたしの名前は遥香。あなたと同じ転生者、モグモグ。あなたが魔神をたおしちゃったから、モグモグ、わたしたち他の転生英雄たちはお払い箱、みんな現代社会に帰されちゃったの! モグモグ、これって、モグモグ、酷くない!?」
「なんだ、そのモグモグは。ツッコミ待ちか? ツッコミ待ちなのか? リスみたいな顔しやがって。というか俺が倒したおかげで帰ってこれたんだろ、あの地獄からな。『絶望の一年』のあと、不可能だと思い知った魔神討伐を、諦めずにやってやったのは誰だ。というかお前誰だ、なんで俺のこと知ってる」
「そりゃ、転生者たちの間じゃ、あなたは有名だもの。暗澹むさぼる昏き虚の崩壊者、かの大魔神を神話の軍隊を率いて討ち取った話は、あなたが現世界へ帰った事とともに、異世界にいた全ての転生者に伝わったの」
「賢者のしわざか」
「そう、賢者のおかげ、かな。彼、『君たちはもう必要ないから、帰っていいよ〜』、だなんて言いだして、わたしを含めた全転生者は、みな帰らされちゃって」
「なるほどな。まぁ、いいじゃないか、死なずに帰ってこれたんだから。一斉帰還方式だったんだな。なにか能力はもって帰ってきたのか?」
少しの興味を抱いて聞いてみる。
もし何か使えそうな能力を持っていたなら、奪取して俺に移植する算段だ。
ちなみに、俺がスクロールにする事ができるのは『能力として認識できる事象』のみなので、相手が概念系能力だったり、見た目で判断できない能力を持っている場合、その能力をスクロール化することは出来ない。
聞きだすか、観測しなければ。
「……能力を、持ちかえる? なに言ってるの、それは禁止事項だって賢者は言ってたじゃない」
なるほど、そういう感じか。
「ですよね。うん、いや、今の質問は忘れてくれ」
やはり、能力の持ち帰りは魔神討伐の特別報酬に過ぎなかったか。
もし能力をもっているなら、帰還者狩りでもして、将来的な懸念を排除、ついでにアビリティパワーを補填してもよかったが、この分じゃあまり意味はなさそうだ。
英雄たちのなかには、個として俺を越える者もいるとか聞いたから警戒してしまったよ。
「よし、とりあえず一応のことはわかった。それで、俺が転生者たちの間で有名って言ってたけど、まさか顔もバレてるのか?」
「いや、流石にバレてないと思う。わたしがわかったのは、帰還者たちには、おなじ帰還者を見分けられる直感のようなもののおかげ。指がふれた瞬間に確信したの、あなたが大英雄だって」
「ふむふむ、なるほど。じゃ、野垂れ死そうになってた理由は?」
「ふふ、そりゃ、『東の三英傑』として名を馳せていたわたしが、コンビニバイトと廃棄弁当の暮らしなんて、するわけにはいかないでしょ? だから、英雄にふさわしい仕事を探していたのよ」
こいつ馬鹿か。
元の世界と異世界での立場を混同するなよ。
「いいか、お前はここじゃフリーター。その三英傑とかいうくくりの一角じゃない。能力を失ってステータスもなくなったお前は、もう英雄じゃないんだ。現実を見ろ」
「うぅ! 嫌だ、嫌だもん! わたしは英雄だったのにー! もういい、大英雄、わたしを養なってよ!」
「……待って、話が見えない」
「だって、あなたのせいでわたしは、この何の面白味もない世界に帰ってきてしまったんだから、あなたには、野垂れ死にそうになった帰還者のお世話をする義務があるはずよ! 特に『東の三英傑』として英雄ランク10位以内に入ったことのあるわたしには、贅沢三昧の生活をさせるべきなのよ!」
内容はともかく、無駄に喋り方だけは気高いフリーターだ。
本当なら相手にせず、さっさと蹴りだしておしまいだが、存外にこれは悪くない機会かもしれない。
なにせ、我が社の社員が増えるのだから。
「仕方ない、雇ってやる」
「はは! やった! 贅沢三昧の……ぇ、雇う?」
「そうだ。お前にはこれから吉祥寺中にガチャを設置する事業に参加してもらう」
「ガチャって……ガチャガチャ? うえぇー将来性なさそう」
「うるさい、今に見てろよ。よし、腹は膨れたな? なら、さっそく今日から働いてもらおうか。とりあえずこの紙に生年月日とか、マイナンバーとかもろもろ書いといておけ。何か手続きが必要になったとき役に立つだろう」
「あれ、これ羊皮紙じゃない? なんでこんな物が?」
「細かいことは気にするな。紙には違いないだろう」
書きあげられた簡易的な個人情報と、履歴書を確認。
小鳥遊遥香、19歳。
私立高校を卒業後、フリーターか。
「卒業と一緒に、両親が他界しちゃって、保険で入ったお金と財産で、それなりに裕福に暮らせていたんだけど、ついにお金が底を尽きてしまったってわけです。転生した時は、まさに神の救いが舞い降りたと喜んでいたのですよ、大英雄くん」
「計画性をどこに置いてきたんだ。まったく、これだから最近の若者は」
不安なやつを雇ってしまった、が、一度雇ってしまった手前、いまさら放り出すのも忍びない。
まぁ、物は試しだ。とりあえず、どれくらい働いてもらえるのか、見てみようじゃないか。
※第1話、後書きに主人公の基本能力値一覧を追加しました。
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