【未完結】魔弾の狙撃手〜怪物ハンターは漏れなく殺そうとした美少女たちに溺愛されていきます!〜

ノベルバユーザー542862

第5話 撤退しかありえない


マラマタの町を出て、しばらく走った森のなか、治癒霊薬のために素材を乱獲していく。

気配を消しながら、魔物を避けて、黙々と暗闇のなかで草をつむ。

たまに木々の間から月明かりが差し込んでいて、そういった場所も避けて通るようにする。

そうして、また黙々とみつけた薬草の群生地に手をのばす。

馬より自分の足のほうが速いので、みんな錬金術ショップにあずけてきたが、今にして思えば、あの店主は信用ならなかったかもしれない。

頑固で偏屈なじいさんのことだ。
もしかしたら、うちのキナコ二世に破廉恥ないたずらを……。

「はやく戻ってやらないと。うちの子が危険だな」

草汁でよごれた手を布でぬぐい、腰をあげて、魔銃を背負いなおす。

収穫は上々、不足しているという素材は十分に集まった。では、帰るとするか。

「……ん」

何か、妙な気配がする。

肌の表面をあわだたせる、嫌な感じ。

産毛がぬけるよそ風に揺らされ、夜の香りを鼻腔に運んでくる。

「っ」

その時、俺は背後から死の接近を感じとった。

反射的に振りかえり、腰からサーベルをぬいて暗い輪郭をもつ鋭利を受けとめる。

ーーギィンッ

危機一髪。
目の前で火花が散る。

照らされるのは真紅の瞳と、大きく開いた口からのぞく発達した犬歯、そして美しい少女の顔だった。

「ぐ、吸血鬼だとッ!?」
「きゃははは! 死人みたな目をしてるな、貴様ァ!」

鼻先で高笑いする少女、その特徴がしめす存在はただひとつーー吸血鬼だ。

世界最強の怪物種にして、もっとも有名な悪。
人間にとって致命的な特性を秘めた最悪の敵。

まさか、こんなところで出会ってしまうなんて。

ーーギギギィ

吸血鬼のとサーベルが壮絶におしあう。削れてるのは俺のほうか。

体幹を崩され切るとまずいな。

「ぐっ!」

一撃を受けとめただけで、地面に足がめり込む。

怪物と腕力勝負などしてられない。

俺はつばぜり合いに刹那の後に見切りをつけ、サーベルの先をずらし、吸血鬼の力の方向から身をかわす。
万力まんりきの押しこんでいた白い細腕は、俺の残像をかすめ、暗闇に穴を開けた。

ここだ。
一瞬確保できた視界をもとに、がら空きの吸血鬼の腹へ膝蹴りを打ちこむ。

「ぐひゃっ?!」

うめき声とともに吸血鬼の体がはるか彼方へ吹き飛んでいった。

ずいぶんと軽かった。
獲物に襲いかかるにも詰めが甘い。

それにわずかでも、真正面からの筋力抵抗ができたことを考えると、あの個体はかなり弱い吸血鬼なのかもしれない。

しかし、だからと言ってこんな夜に、森のなか、ろくな装備もない状態で、吸血鬼とやり合うなんて自殺行為だ。

さっきの一撃でサーベルも歪んでしまった。
による保護をしていたにも関わらず。

鍛錬により身につけられる、剣気圧けんきあつならば、肌や物の表面に剣気の膜をはることで、防御力として肉体や武器や防具の強度をあげたり、攻撃力として筋力をあげたりすることができる。

戦士が人を越え、獣に立ち向かうためのわざだ。

人類中ならば、俺も最高峰の剣気圧をあつかえるが、それでも人及ばぬ怪物のまえでは、達人だろうと、素人だろうとどんぐりの背比べだ。

弾を使えば殺せるが、仲間が潜んでないとも限らないしな……悔しいが、ここは撤退しかありえないか。

剣気圧のおおくを脚力にまわして、町の反対方向にとばした吸血鬼から、俺は最高速度で距離を離していった。

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