【完結】やりこんだ死にゲーに転生、ただし【モブ】です〜ご存知″フロムハードウェア″の大傑作『フラッドボーン 』に転生した件〜

ノベルバユーザー542862

第16話 船出


マーシーと婚約して、ベタベタに幸せな時間が過ぎた。

「エド、どうして王都に行くの?」

塾の帰り、夜風の気持ち良い公園でマーシーとふたりきり。

彼女は首をかしげて聞いてくる。

「世界を救うためだよ」
「……そっか、エドには悪の秘密結社との戦う使命があるんだもんね」

マーシーは悲しそうに言った。

彼女に俺をからかうつもりはないのはわかっている。
マーシーは純粋すぎるから、エドウィン青年の頭の痛い妄想を信じ込んでいるのだ。

ただ、それが俺の王都へむかうフットワークを助けてくれるのだから、ありがたいことだが。

「エド、気をつけてね、ずっと待ってるから」
「ああ……マーシー、必ず俺が君を救ってみせるから」
「? 救うのは世界じゃなくて?」

この街は地獄に変わる。
それは確定した未来だ。

ならきっと『フラッドボーン』の世界では、プレイヤーが意味わからない生命体たちと戦ってる間に、彼女は……死んでいるんだろう。

あの世界を何周したかわからない。
何回、マーシーを見殺しにしたかわからない。

だけど、必ず今回は救う。
モブキャラの夜明けを導くんだ。

「マーシー、愛してる」
「っ、ひゃ!」

マーシーの手を握り、彼女の金髪に顔をうずめて、首にくちづけをする。
マーシーはくすぐったがりながらも、俺の頭を抱きしめるようにして、自身の品のある控えめな胸を押し当ててきた。

「エド、わたしも大好きだよ」
「……いや、俺のほうが好きだ」
「むっ。それは違うよ、絶対にわたしのほうが好きだもん」
「いいや、俺のほうがーー」

我ながらアホだと言わざるおえない会話を、俺たちはいつまでも続けていた。


⌛︎⌛︎⌛︎


翌日、早朝。

ベッドから降りる。

「すやぁ、すやぁ……むにゃむにゃ」

気持ちよさそうに寝てるマーシーを起こさず、服を着る。

部屋を出るべく、ドアノブに手をかける。

が、ふと、俺はふりかえり、ベッドのそばに寄った。

自身の婚約者の白い首筋。
艶やかな美しい金髪。
寝顔が可愛すぎる。

「マーシー、行ってきます」
「むにゃむにゃ、もう、エドったらいつまで舐めてるの、ふふ……♡」

寝言がややエッチな気がしたが、気にせず彼女のほほに口づけをして俺は部屋をでた。


⌛︎⌛︎⌛︎


「エドウィンくん」
「おはようございます、クラフトさん」

静かなリビングにおりると、そこではミスター・クラフトが待っていた。

「チェリーおじさんは死にました」
「な、なにをいきなり言い出すんだね、エドウィンくん」
「すみません、とりあえず宣言しとこうと思って」

リビングに流れる静かな空気。

「……昨晩はちゃんと、避妊しました」

俺はボソッとつぶやく。
ミスターはきっとそこが不安だろう。

「あはは、いや、そんなこと気にしてはないさ。私はエドウィンくんを認めている。それに、今、自分からそんなこと言ってくれる事もふくめて、やはり私の目に狂いはなかったと確信したよ。……君にしかマーシーは任せられない。改めてよろしく頼んだよ」

ミスターは俺の肩に分厚いてをおいて言った。

俺はうなづき、覚悟を新たにする。

「では、行こうか、エドウィンくん」
「はい」

ミスター・クラフトと連れ立って、俺は早朝の街へ足を踏みだした。


⌛︎⌛︎⌛︎


一旦家に帰り、旅支度を済ませたカバンを取って、ミスター・クラフトと共に街はずれの湖へむかう。

そこでは、バーナムと外の世界を繋ぐ唯一の移動手段である船が出ているのだ。

船場に到着すると、豪華客船……ほどではないがそこそこ立派な船が停泊していた。

この船は、これから数日かけて王都へむかう船だ。

今日を逃せば、しばらくこの港から船は出ない。

「懐かしい船だ」
「クラフトさんは乗った事あるんですか?」
「ああ、王都で妻と出会って……そのまま逃げるようにこの船に飛び乗って、この街へやってきたのさ」

波乱万丈な″駆け落ち″だったという。

「凄いですね……」
「そうだろう? 私の輝かしい伝説さ」

大きな船を見上げてミスター・クラフトは言った。

ーーブゥォォオン

腹の底に響く重低音が、船場をおおった。

船が煙突から黒い煙をだして吠えたのだ。

俺はマーシーからもらった懐中時計を開いて時間を確認する。

「時間ですね。そろそろ、行きます」
「エドウィンくん」

ミスターの声にふりかえると、彼は寄ってきて、ふところから何かを取りだした。

「エドウィンくんが、どうして『銀人』の動きができるのか疑問に思っていた」
「……それは」
「いや、言わなくてもいい。私は君を信用すると決めているからね。……これは餞別せんべつだ。『銀人』ならその使い方がわかるだろう」

ミスターの手に持つ古びた木箱を受け取り、やけに重たい感触に顔をしかめる。

なにが入ったいるのか聞こうと思ったが、彼の気持ちゆえ、やめておくことにした。

あとで確かめればいい。

「では、必ず戻ってくるんだよ」
「はい。……必ず帰ってきます」

ミスター・クラフトと握手をかわし、俺は船に乗り込んだ。


⌛︎⌛︎⌛︎


今回乗る船で、俺は個室付きのチケットで搭乗している。

よって、数日の湖やら川やら海やらを渡る旅は、快適に過ごせるわけだ。

「ミスターは何くれたんだろ」

俺は部屋に入るなり、カバンを部屋の隅に置いて、外套をフックにかけて、ベッドに飛びこんだ。

古びた木箱を開けると、中には5つの汚れた金属瓶きんぞくびんがおさめられていた。

金属瓶のふたをすこしだけあけてみると、なかから″灰″の匂いがした。

その匂いに、これが何か、ピンとくる。

なるほど。
これは『洪髄の灰』だな。

水銀弾に混ぜて使用すれば弾の威力をあげれる、玄人くろうとの対人戦では必須だが、なかなか値段が高く、貴重なアイテム。

「これは使える。ありがとうございます、ミスター」

俺は木箱の中から3つほど金属瓶を取り出して、外套のなかに入れておくことにした。

次にやることは、銃の手入れだ。

カバンを開いて8丁の『魔獣狩りの短銃』をベッドにならべる。

柔らかい布で、銃身をふき、綿棒でバレルの中を掃除して、ハンマーに油をさす。

続いてカバンから取りだすのは、水銀弾20発だ。

俺は短剣で指先を斬って、流血させ、したたる血を水銀弾に順番に混ぜていった。

20発に血を混ぜ終え、8発を銃に込めて、残りを腰の帯弾ベルトに差していく。

「よし」

粗方の準備を終えて、指先の血をぬぐい、俺は短銃のひとつを手に取った。

リロードしてみる。

ーーガチャガチャ、カチャカチャ

「……8秒、ってところか」

どっかの目が死んだ男のように、高速リロードを2秒で済ませたかったが、上手くはいかないものだ。

俺は個室にいる時間を、より素早く次弾装填するための訓練にあてることにした。

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