記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第197話 チェンジバースのお話 その2
嘘をつく宣言をしてから、チェンジバースは淡々と話しはじめる。
「『蒼花儀式』、それは暗黒の亡命者たちが秘密裏におこなう暗黒に類する魔術儀式の名。地上に巨人が降ってきたであろう、あれがその目的だ」
「彼らが巨人を呼びだしている、ってわけですか」
「そうだ。ドラゴンクランにいたのならば知っていると思うが、生徒が蒼花に変えられてしまう怪奇現象、あれは、異界化した修道院でおこなわれる巨人招来の副作用のようなものだ」
頭のなかで線が一本に繋がる。
ゲートヘヴェンが言っていた、″今起きている事件″とは、巨人が降ってくる怪現象ではなく、闇の魔術師たちによる危険な儀式のことを言っていたんだ。
禁止区域となっていた旧校舎、もとい前時代の修道院にその根源は潜んでおり、彼は、きっと俺が望むのならば、救世主としてのチカラを示してみせろ、と事件への関与を歓迎していたのだろう。
蒼花の顕現は、巨人落下事件は結果
納得はできた。
しかし、彼は嘘をついていると言う。
「一体どのあたりが嘘なんですか?」
「……順序たてて話そう、小さき者よ。藪から棒にすまないが、竜は君を″救世主″だとは考えてない」
チェンジバースは真摯に俺の瞳を見つめて、はっきりと言った。
案外、気があうな。
俺もそう考えてないもん。
「10年前、ビジョンパルスの超越的未来予知により、竜たちはドラゴンクランを発った。その経緯はゲートヘヴェンから聞いていると察するので省かせてもらおう。して、竜は竜の存在をかけて絶対に救世主だと断言できる、素晴らしい人間を見つけている」
チェンジバースは楽しそうに頬を緩ませ、俺へ「残念だが、君より風格もあり、力もある」と、全然残念には思っていなそうに自慢げだ。
じゃあ、いっすよ。そいつが救世主で。
「現状帰還しているオールド・ドラゴンは皆が、確信を持って救世主と考える存在を見つけている。小さき者よ、君はゲートヘヴェンが考える候補にすぎない。ゆえに、竜は嘘をつく。暗黒魔術教団の狙いは、巨人招来することではないが、そういう事にして君に一定の納得をしてもらうために」
「なるほど、たしかに、納得できましたけど……」
「でなれば、よい。さて、では、そろそろこの留学生たちも目を覚ますだろうし、助言をしよう」
チェンジバースはいっぱく置いて言う。
「小さき者よ、帰りたまへ。ここから先は君には荷が重い。もちろん、彼らにも」
眠る三人の魔術師が指し示めされる。
「″んぅん〜困りましたねぇえ〜! このまま潜らないと我輩、あの宣教師を殺さないのですがぁあ〜。殺さないとなると、契約を果たせないのですがあ〜!″」
悪魔は珍しく焦りを声に乗せて、言外に「このまま行きましょう!」と俺へ提案してくる。
だが、それは悪魔の都合。
俺個人には関係ない。
巨人が降ってくる謎現象の理由も知れた。
なんてあれが神造兵器なんていう、物騒なカテゴリーに含まれてるのか、聞いてみたいが、それを言うと俺の繋がる狩人協会の香りを感づかれるかもしれない。
ので、今回の調査としては、ここは妥協点となり得る。帰るか、進むか、ターニングポイントだ。
「……ひとつ、いいですか?」
帰るのはいい。
ただ、彼らのことを聞いておこう。
「チェンジバースさん、あとたぶん、ゲートヘヴェンさん、古代竜の方たち。あなた達が『暗黒の亡命者』を倒すまで、巨人は降ってくるんですよね」
「おそらくわ。召喚者たちを倒さなければ、ずっとやってくる。それに、術式の回転速度も増すゆえ、加速度的な脅威の増加が予想される」
なるほど、それはヤバそうだ。
「率直に言って、すぐに倒せますか?」
「……なに? これは異なことを言う。オールド・ドラゴン4柱集まって破壊できないモノはない。……それに、おそらくすぐに学院側でも手が打たれる。″魔術王″とレティス・パールトンが動けば、事態は早急に収拾がつくであろう」
魔術王、アーケストレスの国王にして古典魔術の専門家。
そして、うちの校長とならんで『現代魔術の最高峰』とうたわれるレティス・パールトン。
今更だが、彼らはこの事態になんのアクションも取ってないのか。
「こんな緊急事態なのに、どうして彼らは動かないんですか?」
「それは、竜たちが禁じたからだ」
オールド・ドラゴン達が、だと。
違和感しかない対応に、自然と首をかしげる。
「……学院側と竜たちは、基本は同じ頭をもち、共通の理念にそう。ただ、今回は関わっているモノが″極めて危険″だ。それは、深淵に触れた魔術師ならば、毒される二次的な災害の種をはらんでいる。ゆえ、アーケストレスには外殻を守らせ、竜たちが対処している。言葉が通じずとも、その危険を察知したから、ほかのオールド・ドラゴンたちも戻ってきている」
「そんなに危険なことが……一体なにがそんなに危険なんですか……?」
「それを言ったら、さきほど竜が嘘をついた意味がなくなるのでな、黙らせてもらおう」
妙に不穏な気配がただよいはじめた。
人間には秘密で、古代竜たちだけで対処したい事態。
だけれど、いまだに『暗黒の亡命者』には至っておらず、魔術王やレティス・パールトンの援助を匂わせたことから、言動ほどに古代竜たちには自信がない。
彼らは、彼らだけで対処可能じゃないと、どこかで思ってるんじゃないか?
なにか、俺が気づけていない要因が、この異空間には潜んでいるんじゃないのか。
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