記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第190話 宣教師 対 狩人


「≪喪神そうしん≫」

魔法を放ち、その後ろを走って追従する。

透明の神秘魔力越しに睨みあう、緋眼あかいめ

喪神そうしん≫の着弾をはかり、時間差をわずかに残して、魔法の射線から外れた足元へ、カルイ刀を滑るように斬りこむ。

スキンヘッドの宣教師は、俺の失神魔法を金属杖の鉤爪で払い、つづくカルイ刀も杖を床に突き立ててガードした。上手い。

低位置に体が来た不利をおわらせず、そのまま床に手をつき、宣教師の顔へ両足でストンプを喰らわせる。

宣教師は3本杖で顔をガード、蹴りは届かない。

姿勢を直すとともに、カルイ刀を振りまわし、牽制しながら三歩離れる。

その間に、宣教師は剣筋をかいくぐり、二歩せまった。

三杖さんじようの袈裟懸けを、『縮差しゅくさ』で距離をずらし、まさに振り下ろそうとする腕の根本をつかむ。

このままる。

「離せ」

ーーバギィッイッ!

「ごふっ!」

空いてる腕の肘打ちおろしで、俺のガラ空きの背中が割れた。一撃で鎧圧が沈むとは。

何本かヒビが入ってそうだ。

だがなーーかわりに離さなかったッ。

「一本もらうぞ、フラァア!」
「っ、寝技か……!」

宣教師の足をはらい、床に一緒に倒れこむ。

野郎は腹から、俺はこいつを下敷きにして背中から。

馬鹿みたいに筋骨隆々な上腕三頭筋をホールドして、肩へ関節技を全筋力を動員してめる。

「ぐ、ぅ、ああ! このガキめ……!」

宣教師は杖をほうり捨てて、片腕を木床につき、倒れこむ木床をメシメシ言わせて、立ち上がろうとする。

寝技といっても、人を超えたパワーを持っていると、もはや既存の技はそのままでは使えない。

極めるといっても、時間は刹那。
込める腕力は瞬間にこそ、意味をなす。

貰いたいのは、ギブアップじゃない。

「寄越せェエ!」

ーーバギッ

肩と腕の結合を無理やり破壊。

苦悶の声をあげ、宣教師が木床に顔をうめる。

まだだ、好機を逃すな。

ーープチィチッッ

「うぐ、ぁあ……ッ!?」

宣教師の外れた肩関節へ、背面から鎧圧がいあつを角ばらせ、局所的な圧力を高めたひじをグリグリねじこむ。

硬度高めの合金の角を、外れた肩関節に重機械で押しこむのようたもの。

当然、灰色のオーバーコートは背中から真っ赤に染まりだす。

「調子に、乗るなァっ!」

宣教師が空いた片腕を振りかぶり、デカイ握り拳でバキバキに割れて陥没した旧校舎の床をたたく。

すると、旧校舎の床はあっけなく崩れて、浮遊感が俺たちを襲った。

地面という拘束具がはずれて、宣教師は落下する途中で、俺の顔面をぶん殴ってくる。

すかさず、手で受け止めようとするが、間に合わない。

メキィッ、と嫌な音が脳内に響いて、下方へ吹き飛ばされる。

痛い、痛い、痛い!
表情筋をすこし動かすだけで、ほっぺの下でジャリジャリ骨が不協和音を鳴らしてる!

精神世界のなかで、そわそわする同居人たちの感情の揺らめきが、ひしひしと伝わって……あ、片目が見えない。修行サボるんじゃなかった。体が鈍ってる。あれ、そういえば、何しようとしてたんだっけ。

「くっ!」

いや、違う、そうじゃないだろ。
頭にダメージが入ったのか?
思考がまとまらない。

「″アーカム! しっかり! 来てるよ!″」

半透明の腕にペチペチと頬を叩かれ、正気にもどる。

瓦礫とともに舞い降りてくる、オーバーコートの男。

緋眼がまっすぐにこちらを見つめ、奴がさっき手放した金属杖を2本空中でつかみ、霞むような早手で投擲とうてきしてくる。

「投げんのかいっ!」

バックステップで回避。

宣教師が降りてくる。

強い。
俺も気力なら自信があるが、こいつもヤバい。

腕をダメにされて、瞬きの迷いなく全力の拳を入れてくるなんて。

ああ、ダメだ、ダメだ。

前ならきっと反応できたとか、鍛錬してなかったから高速戦闘を忘れてるとか、自分への無意味な言い訳が、ぷかぷかと心の底に浮かんでくる

切り替えていけよ、アーカム。
なに、剣気圧の成長は相変わらずだ。
パワーは確実に今のほうが優れてる。

言い訳なんかカッコよくないぜ。

クールにクレバーな男。
今できる最善こそが、人間の実力だ。

「おしっ!」

足もとのカルイ刀と『黒古竜ゲートヘヴェン』をつま先ですくいあげ、それぞれ両手に握る。

「失礼、あなたの事を色々と勘違いしていましたね」

宣教師はなだらかな頭をひとなで、口を開きはじめる。

「聞いたことがありました、魔剣の英雄。つい最近、アーパンテムの森でドラゴンを討伐した魔術師にして剣士。あなたでしたか、ああ、いけない、これは本当にいけない」

ぶらりと左腕を垂れ下げ、スキンヘッドの宣教師はゆっくりと歩きよってくる。

その隙に、あたりの様子を確認。

見た感じ旧校舎と雰囲気は変わっていない。

どうやら、この校舎地下にも同じような趣の建物が続いていたらしい。

うえの会にコートニー、チャーリー、シェリーの気配はある。
そして、彼らを取り囲むように謎の気配の塊たち。

きっと、シェリーがスカウトした透明の使い魔を、肉壁として設置しているのだろう。

なかなかに賢い戦術だ。

「となると、あなたアーカム・アルドレア、ですね。ええ、知ってますとも、教会の間でもすこし話題になりましたから。いわく、″死から蘇った狩人かりうど″がいるとね」

血式魔術を背中に集中させながら、正眼に緋眼あかいめをみすえる。

どうやら向こうは、俺のことを知ってるようだ。

眉をひそめ、無用の杖をホルダーにしまう。

片手は空けておこう。

「狩人、狩人、ああ、狩人です。よくもまあ、ドラゴンクランに正体を悟られず潜入できていたものです。大魔術学院は狩人協会をあれほどに忌避しているというのに。いかに、協会のチカラが強かろうと、そこまで及ぶとは思ってませんでした。……やはり、滅したほうが良いのではないですか、しゅよ」

宣教師はすぐ足もとに落ちている得物、鋭利な金属杖を手にとることなく、ふところから辞書のようなモノを取りだした。

金具のあしらわれた使い古された本だ。

片手で器用にひらき、声にならない声で口もとを動かし、ページに目を走らせている。

「″ん、あれ、戦い終わったの?″」
「しっ、まだだ」

油断しそうになる銀髪アーカムを内側へおしこむ。

やがて、宣教師は金具の装飾があしらわれた黒い革本を、ふところにしまい、代わりにをとりだした。

宣教師は、片手の指の間にはさんだ、3本の柄からスーッと杖身じょうしんを展開しながら歩いてくる。

啓示けいじなんじの名を指し示した。ーーさあ、では、場所も変わった事ですし、第二審問の開始と参りましょう」

宣教師は優しい笑顔でそう言った。

なんとなく予感がする。

この男は、やばい……。

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