記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第189話 幸先が悪い
淡くひかる廊下のさきから、スキンヘッド宣教師が近づいてくる。
かつて見たアルハンブラ神父や、顔に傷のあるバレルアーチ神父ではない。この地の聖職者だろう。
それにしても、宣教師という奴はみながこうもデカいのか。
威圧感が半端ではない。
≪魔力蓄積≫で体格を抑えている俺よりも、二回り以上大きい体は、必然的にそれだけの火力を備えている。
俺も半吸血鬼の血と、血反吐を吐く幼少の頃からの鍛錬によって、筋力と剣圧の成長は通常人類とは比較にはならず、その出力も上々だ。
だが、今回はあまりそちらに頼らない方がいいかもしれないな。
ーーと、頭のなかで所感を認識に切り替えて、鞘から刃を抜きはなつ。
「アーカム、剣士として未熟な私でもわかる。あの男、完全に私たちを殺しに来てるだろう」
「魔剣の英雄、援護はまかせておけ」
戦意をたしかに、心強い味方の声にうなづく。
ただ、それよりも話が出来るならしておかなければならないだろう。
宣教師はたしか狩人とも協力関係にある。
トニー教会と狩人教会は、ともに人を守るという大義のために戦う正義の組織なはずだ。
彼は何か勘違いしてるのかもしれない。
ゆっくりと歩き、コートニー達から距離を開けつつ宣教師に話しかける。
「トニー教会の方とお見受けしますが、僕たちはあなたと事を構える気がありません。僕たちはただアーケストレスの現状を憂いて、解決の糸口を探しに来たドラゴンクランの学生です」
俺の言葉をうけて、宣教師は足をとめずに答える。
「ならば尚のことよくないですね。今、この時期にドラゴンクランの地下に足を踏み入れようとしたことは、愚かしい判断の誤りです」
宣教師はそういい、口元を歪めた。
実行にうつす意思。
ダメだ、来る。
戦闘は避けられない。
腹をくくり、柄を強く握りこむ。
旧校舎の木床が弾けた。
速いっ。
巨影が鼻先にせまる。
水平に空を薙ぐ、鮮烈な死のビジョン。
金属杖の鉤爪を、顔と死のあいだに刀を垂直に差し込んでガード。
「ぐっ!」
床を削りながら踏ん張り、踏ん張り、踏ん張ろうとしてーーまずい、なんて、馬力だ、吹っ飛ばされる!
どっしり構えた体が、ふわりと浮く。
「グヘェぁ!」
すぐ横、礼拝堂の壁を突き破り、長椅子を弾き飛ばし、バラバラにして壁を頭をうちつける。
鈍く、痛い。
が、こんなもの、なんて事はない。
痛いだけなら、幾らだって我慢できる。
俺には守らなくちゃ、いけないモノがある。
すぐに『縮地』でもって、礼拝堂から廊下へもどる。
「喰らえ、我が炎熱、≪火炎弾≫!」
「≪風爆弾≫」
圧縮されはなたれる火と風の属性魔力が、およそ術者の認識を越えた速度で飛んでいく。
人体が受ければ、鎧圧など意味をなさずに、抵抗なく貫通するだろう弾にたいして、宣教師は瞬きすらせず、ただただ最速最短まっすぐに突貫。
右手の3本の鉤爪の杖で火炎の熱弾をうちはらい、同様に左手の得物で風の魔力を引き裂き、霧散にした風圧に前を髪を揺らして、なお加速する。
「くっ!」
「ヒッ、≪火炎ーー」
背後へステップして距離をとろうとするコートニー。
二発目を詠唱するチューリ。
どちらも間に合わない。
シェリーは手のひらを宣教師へ向けて、杖を握り、何かを魔法を唱えようとしてるが、それも遅い。
宣教師の尖った杖先がせまる。
「させるかァア! オラッ!」
狼姫刀を全力で投擲。
宣教師とチューリの間、ギリギリ間に合わせて挟みこむ。
宣教師は自身へ投じられた刀を、見ることすらなく、急ブレーキをかけて、偏差的に投じられた俺の刀を回避、木床を弾いて後方へと跳躍した。
狼姫刀は礼拝堂とは反対側の壁を、盛大に破壊してどこかへ消えていく。さっそく主武器を紛失。幸先が悪いな……。
チューリの火属性式魔術が唱えられるが、またしても軽く弾かれて、明後日の方向へと火の弾はとんでいく。
その隙をもって、俺はふたたび3人の前へともどってきた。
今度は俺の番だ。
アーケストレスの作杖師のもとで新調した杖『黒古竜』をぬいて、速攻の≪喪神≫を放つ。
魔力も込めやすく。
連射も効く。
使い慣れたように手に馴染む最高品質にまんぞくし、瞬きさせない6連射。
「ッ、速いッ、グッ!」
一瞬、面食らった様子の宣教師。
だが、彼はそのすべてを両手の杖をもちいて、水をかきわけるように魔力を霧散させ、意味のないものへと変えてしまった。
まあ、効果はあったようだ。
「……ん、完全に塞いだはず……。精神に作用するタイプの魔法ですかね。それは、まともに喰らえば危なそうだ」
頭をふり、掌底でおでこを叩く宣教師。
「嘘だろ……、魔剣の英雄の高速でも効かないのか?」
「驚愕するしかない反応速度だ。この男、何者なんだ」
「ぁ、あの人、怖すぎます……人間じゃないのです……」
コートニー達は、焦りの色を顔にうかばせ、じりじりとさらに後方へと距離を開けていく。それでいい。あれは危険すぎる。はやく距離を空けるんだ。
「どうにも、あなただけは随分と動けるようです。……ただの学生さんではなさそうだ」
宣教師は緋の眼光するどく、俺を睨みつけてそう言った。
左手に杖を、右手にカルイ刀を抜いて油断なくかまえる。
アヴォンなら手首で剣をくるくる回転させるだけで、魔法を斬り払ってきたので、俺の連射に対応されたこと自体には驚かない。
厄介なのはこいつがソロモンと戦った時ような、ムカつくことをしてくること。
端的に言えば、まともにガードする余裕がない。
俺の踏ん張りが効かないパワーの差があることだ。
狩人として対応できる技量は積んでるし、自分より力の強い相手と戦うことは初めてじゃない。
というか、こういうのが本業みたいたものだ。
やりようは幾らでもある。
もし飛ばされても俺の鎧圧なら、鋼鉄に音速で頭をぶつけても、そんな痛くない。痛いけど。
ただ、まあ、今回はそういうわけにはいかない。
守るべき者がある。
細心の注意をはらい、戦わねば。
腕力で劣るなら、技で舞おう。
魅せどころだぞ、アーカム。
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