記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第189話 幸先が悪い


淡くひかる廊下のさきから、スキンヘッド宣教師が近づいてくる。

かつて見たアルハンブラ神父や、顔に傷のあるバレルアーチ神父ではない。この地の聖職者だろう。

それにしても、宣教師という奴はみながこうもデカいのか。

威圧感が半端ではない。

魔力蓄積まりょくちくさき≫で体格を抑えている俺よりも、二回り以上大きい体は、必然的にそれだけの火力を備えている。

俺も半吸血鬼の血と、血反吐を吐く幼少の頃からの鍛錬によって、筋力と剣圧の成長は通常人類とは比較にはならず、その出力も上々だ。

だが、今回はあまりそちらに頼らない方がいいかもしれないな。

ーーと、頭のなかで所感を認識に切り替えて、鞘から刃を抜きはなつ。

「アーカム、剣士として未熟な私でもわかる。あの男、完全に私たちを殺しに来てるだろう」
「魔剣の英雄、援護はまかせておけ」

戦意をたしかに、心強い味方の声にうなづく。

ただ、それよりも話が出来るならしておかなければならないだろう。

宣教師はたしか狩人とも協力関係にある。
トニー教会と狩人教会は、ともに人を守るという大義のために戦う正義の組織なはずだ。

彼は何か勘違いしてるのかもしれない。

ゆっくりと歩き、コートニー達から距離を開けつつ宣教師に話しかける。

「トニー教会の方とお見受けしますが、僕たちはあなたと事を構える気がありません。僕たちはただアーケストレスの現状を憂いて、解決の糸口を探しに来たドラゴンクランの学生です」

俺の言葉をうけて、宣教師は足をとめずに答える。

「ならば尚のことよくないですね。今、この時期にドラゴンクランのに足を踏み入れようとしたことは、愚かしい判断の誤りです」

宣教師はそういい、口元を歪めた。

実行にうつす意思。

ダメだ、来る。
戦闘は避けられない。

腹をくくり、柄を強く握りこむ。

旧校舎の木床が弾けた。

速いっ。

巨影が鼻先にせまる。

水平に空をぐ、鮮烈な死のビジョン。
金属杖の鉤爪かぎづめを、顔と死のあいだに刀を垂直に差し込んでガード。

「ぐっ!」

床を削りながら踏ん張り、踏ん張り、踏ん張ろうとしてーーまずい、なんて、馬力だ、吹っ飛ばされる!

どっしり構えた体が、ふわりと浮く。

「グヘェぁ!」

すぐ横、礼拝堂の壁を突き破り、長椅子を弾き飛ばし、バラバラにして壁を頭をうちつける。

鈍く、痛い。
が、こんなもの、なんて事はない。
痛いだけなら、幾らだって我慢できる。

俺には守らなくちゃ、いけないモノがある。

すぐに『縮地しゅくち』でもって、礼拝堂から廊下へもどる。

「喰らえ、我が炎熱、≪火炎弾かえんだん≫!」
「≪風爆弾ふうばくだん≫」

圧縮されはなたれる火と風の属性魔力が、およそ術者の認識を越えた速度で飛んでいく。

人体が受ければ、鎧圧がいあつなど意味をなさずに、抵抗なく貫通するだろう弾にたいして、宣教師は瞬きすらせず、ただただ最速最短まっすぐに突貫とっかん

右手の3本の鉤爪の杖で火炎の熱弾をうちはらい、同様に左手の得物で風の魔力を引き裂き、霧散にした風圧に前を髪を揺らして、なお加速する。

「くっ!」
「ヒッ、≪火炎かえんーー」

背後へステップして距離をとろうとするコートニー。
二発目を詠唱するチューリ。

どちらも間に合わない。

シェリーは手のひらを宣教師へ向けて、杖を握り、何かを魔法を唱えようとしてるが、それも遅い。

宣教師の尖った杖先がせまる。

「させるかァア! オラッ!」

狼姫刀を全力で投擲。
宣教師とチューリの間、ギリギリ間に合わせて挟みこむ。

宣教師は自身へ投じられた刀を、見ることすらなく、急ブレーキをかけて、偏差的へんさてきに投じられた俺の刀を回避、木床を弾いて後方へと跳躍した。

狼姫刀は礼拝堂とは反対側の壁を、盛大に破壊してどこかへ消えていく。さっそく主武器を紛失。幸先が悪いな……。

チューリの火属性式魔術が唱えられるが、またしても軽く弾かれて、明後日の方向へと火の弾はとんでいく。

その隙をもって、俺はふたたび3人の前へともどってきた。

今度は俺の番だ。
アーケストレスの作杖師のもとで新調した杖『黒古竜ゲートヘヴェン』をぬいて、速攻の≪喪神そうしん≫を放つ。

魔力も込めやすく。
連射も効く。
使い慣れたように手に馴染む最高品質にまんぞくし、瞬きさせない6連射。

「ッ、速いッ、グッ!」

一瞬、面食らった様子の宣教師。

だが、彼はそのすべてを両手の杖をもちいて、水をかきわけるように魔力を霧散させ、意味のないものへと変えてしまった。

まあ、効果はあったようだ。

「……ん、完全に塞いだはず……。精神に作用するタイプの魔法ですかね。それは、まともに喰らえば危なそうだ」

頭をふり、掌底しょうていでおでこを叩く宣教師。

「嘘だろ……、魔剣の英雄の高速でも効かないのか?」
「驚愕するしかない反応速度だ。この男、何者なんだ」
「ぁ、あの人、怖すぎます……人間じゃないのです……」

コートニー達は、焦りの色を顔にうかばせ、じりじりとさらに後方へと距離を開けていく。それでいい。あれは危険すぎる。はやく距離を空けるんだ。

「どうにも、あなただけは随分と動けるようです。……ただの学生さんではなさそうだ」

宣教師は緋の眼光するどく、俺を睨みつけてそう言った。

左手に杖を、右手にカルイ刀を抜いて油断なくかまえる。

アヴォンなら手首で剣をくるくる回転させるだけで、魔法を斬り払ってきたので、俺の連射に対応されたこと自体には驚かない。

厄介なのはこいつがソロモンと戦った時ような、ムカつくことをしてくること。

端的に言えば、まともにガードする余裕がない。
俺の踏ん張りが効かないパワーの差があることだ。

狩人として対応できる技量は積んでるし、自分より力の強い相手と戦うことは初めてじゃない。

というか、こういうのが本業みたいたものだ。

やりようは幾らでもある。

もし飛ばされても俺の鎧圧なら、鋼鉄に音速で頭をぶつけても、そんな痛くない。痛いけど。

ただ、まあ、今回はそういうわけにはいかない。

守るべき者がある。
細心の注意をはらい、戦わねば。

腕力で劣るなら、技で舞おう。
魅せどころだぞ、アーカム。

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