記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第185話 魔術マウント


特に誰かが蒼花に変わることなく、かと言って我らが敬うべき鳥チュンさんが死に絶えることなく、例の扉のまえにやってくる。

壊れた錠前部分は相変わらず。

幼稚園生が知恵を振りしぼったようなお粗末な隠蔽に、コートニーは俺とチューリの顔を見て「お前らこれで隠してきたつもりなのか……?」と、正気を疑う目をむけてくる。

くだんの責任者、チューリを見つめる。

「むぅ、仕方がないであろう。土属性なんて苦手だ」
「右に同じくです」

チューリのに便乗して答え、土属性一式魔術のはじまり、≪≫とおなじく究極の初等魔法である≪つち≫すらも使えない事実を巧妙にかくす。

口笛をふき、シェリーもチュンさんも知らん顔するなか、コートニーはおもむろに杖を取りだして、チューリに爆破された扉の鍵部分にむける。

「≪金操きんそう≫」

なんということでしょう。
かつて熱に火照るほどの火力で破壊され、もう二度ともとには戻らないと思われていた金具が、流体のように変形して、もとの鍵穴に戻っていくではありませんか。

こんなのまるで魔法です。

「アーカムやクリストマスはともかく、グスタム……貴様はもうすこし頑張った方がいいんじゃないか」

コートニーは鍵穴を完全に修復し、なんならちょっと光沢あるくらい綺麗に仕上げて、こちらへ振りかえった。流石はドラゴンクラン四天王だ。

「クク、人には得手不得手えてふえてがある。ただ、それだけのことだ。見ていろよ、コートニー・クラーク。さっそく見せ場が出来て息巻いているのはわかるが、いざ決闘のような高速の魔法戦闘となれば、このチューリ・グスタマキシマムが輝く!」

チューリはカッと目を見開き、コートニーを押しのけて扉の取手に手をかけた。

悔しさをバネに勢いを取りもどしたようだ。

ーーガチャガチャっ

「……」

ただ、勢いは一瞬で鎮火されたが。

取手を引っ張ったり、押したりして扉が開かないことを再確認。

チューリはゆっくり振りかえり、したり顔の優等生に助けを求める視線をむけた。

「頼みごとがあるなら、口にだして言うべきだぞ、グスタム。高位の魔術師を自称するなら、礼節もあってしかるべきだ」
「ぐぬぬ……なんで俺だけに厳しいんだ、この堅物女……こほん。鍵がかかった状態で復元したのだろう。頼む、鍵開けの魔法で開けてくれ」

チューリはかるく手をすり合わせ、コートニーに道をあけた。

「いいだろう、承った。……とは言っても、鍵なんて掛かってないがな」
「なに? それは、どういう事だ、コートニー・クラーク」
「一般論的技術の問題だ。鍵のような精巧な物を完全に復元するのは、難しいし、時間がかかる。いくつかのパーツからなり、連結する動作をする仕掛けなら尚のこと。……もちろんそのくらいの知識、持っているとおま思うが、ふっ。つまり、あくまで見た目だけを、ごまかしてるにすぎないということだ。だからーーこうするしかない」

コートニーは杖を向けて、金属の操作する魔法で金具の内部構造を変化させ、そよ風でもって静かに扉をおし開けてみせた。

チューリはため息をひとつ、白い目でコートニーに向き直る。

「必要以上に知識と手管をさらすとは、クク……そこが知れるというものだな、コートニー・クラーク」
「ふむ、確かに下級魔術師相手に大人気なかったかもしれん。すまんな、グスタム」
「……ふ、フハハハハ、クッハハハハ!」

すこし言いかえし、高笑いをしながら、さっさと扉の向こうにすすむチューリ。心中察します。

いやぁ、魔法でのマウントの取り合い。
ドラゴンクランって怖いですね。

「ふふ、安心するのですよ。クラーク先輩とチューリは、一緒に行動するとだいたいあんな感じなので、まったくもって平常運転なのです♪」
「……平常運転、ねぇ」

チューリがコートニーを避けて、恐れる理由がわかった気がする。

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