記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第182話 竜学院への道中
2人の少女、片方がもう片方へ身振り手振りで言葉をかさねる。
俺とチューリは黙って紅茶をすするだけ。
やがて背の小さい方の少女は「なのです!」と説明をしめくくり、大きめの少女は難しい顔になった。
「そういうわけで、これこれ準備が必要なのですよ」
「ふむ。まったく良くないが了解だ。それで、ドラゴンクランにはどう入るつもりだ。知ってると思うが、今、我らの学院は封鎖されている」
「ドラゴンクランの敷地内への侵入は、チューリが常日頃から拡張してる秘密基地の隠し通路をつかうのです」
その質問を待ってたと言わんばかりに、自慢げなシェリーは両手をパラパラさせて、チューリへ注目を投げつけた。
それ受けてチューリが、親に彼女とイチャつく現場を見られた子のごとき驚きの顔になる。
「ば、馬鹿か、シェリー!? 1年の頃から俺にばかり態度がキツい真面目堅物女のまえで、そのことをバラすんじゃないっ! シェリーお前、わざとやってるんじょないだろうな!?」
「安心しろ、グスタム。貴様がなにをしようと私は構わない。ただ、この事変が終わったらその隠し通路とやらは、塞いでおこう」
「グハ……ッ、このチューリ・グスタマキシマムの学院に刻んだ全遺産が危機に瀕している……!」
上機嫌のコートニーと目を泳がせ正気を失うチューリ。
対照的なふたりを楽しみながら、この日の作戦会議は着々と準備は進んでいき、しばらくの後にお開きとなった。
探検隊の始動は明日だ。
ー
翌朝。
今日は旧校舎探索の決行日。
「″うーん、今日はなんだか我輩の肩が重いですねぇえ〜″」
「昨晩の拡張作業が効いてるんじゃないか」
途絶えない意識が、肉体に充足されるなり、悪魔ソロモンが愚痴をこぼしてくる。
基本的に精神世界でのナンバー1は銀髪アーカムであり、彼女の悪魔への対応はひどくつめたい。
いまだに何で俺のなかに勝手に住み着いてるかわからないこのソロモンは、毎日のように精神の空間をより確保するための拡張作業に従事にしているのだ。
「″いえいえ、我輩は貧人とは違い、存在レベルではるかに高次元の存在ゆえ、肉体的負荷とはまったくの無縁でぇす〜″」
「ふーん。じゃ、どうして肩こりなんか」
着替えながら適当に問いかえす。
「″さぁて、我輩もなにが何やら……もしかしたら家主である貴方に性質を引っ張られているのかもしれませんなぁあ〜。ほら、マスターだって初めは男子だったようですしねぇえ〜″」
「そういうもんか。それにしては順番が逆な気がするけど」
「″さあ? どうしてだかぁあ……変革は凶運の兆し、ということですかねぇえ。こういうのは得てして、巧妙に日々のなかに紛れこむものですからねぇえ〜。我輩にもわかりまぇえんねぇ〜!″」
「そうかいそうかい。よし、あとはベルト付けてっと。ほら、寄生虫悪魔、今日の俺はどうかね」
くるりと周り、服装をチェック。
「″う〜ん、10点! あはっ! ああぁ〜もちろん10000点中ですけどぉお〜っ!? あーっはははははっははははッ!!″」
やかましい悪魔の頭を鷲掴みにして、俺の腹に叩きこむ。
「……嘘つけ。そんな悪くは、ないよな?」
姿見でしっかりと身だしなみを確認することにしよう。
ー
朝食後。
シヴァをたくさんもふって、夏毛仕様にかわりつつあることに若干の悲しみをいだき、コートニーと共にクラーク邸をあとにする。
「アーカム、そのカタナを持っていくのだな」
「ええ、これがあれば何かあっても、存分に戦えますから」
左手に握った狼姫刀の柄をそっとなでる。
念には念をいれておいて、カルイ刀も蒼骨剣も仕込み済みだ。
こいつらを使う機会が、おとずれなければいいが。
ー
「ぁ、アーカム、ここら辺でもういいぞ」
「了解です、下ろしますね」
お姫様抱っこでかかえたコートニーをゆっくり地面におろして、いましがた連続跳躍で駆け上がってきた段壁を見下ろす。
運行休止中の魔球列車があれば、のんびりいくが、今は常ならざる状況だ。仕方あるまい。
わざわざ階段を使うのは億劫だしね。
「悪いな、アーカム。手をわずらわせた」
「全然平気です。ローレシアにいたころは、似たようなことやらされてましたからね」
「む、似たようなこと? 誰かをこんな風に運んでいたのか?」
「ええ、同居人が寝坊界のスペシャリストだったんですよ」
「……女子か」
「え、なんで、わかったんです?」
「勘だ。……ふんっ」
コートニーに足を踏みつけられる。
なんて理不尽な攻撃だ。
俺のどこに落ち度があったって言うんだ。
「まあ、いい。にしても剣気圧による筋力強化とは凄まじいものだな。魔術師たちの魔力適性による身体能力の向上とは、わけが違う。私も今のまま、たくさん練習すれば、数百メートル級のこの段壁を駆け上がったり出来るのだろうか?」
「段壁をかけあがる、ですか……」
うーむ。
どうなんだろうか。
断言はできないが、出来るんじゃないだろうか。
戦士の御用達、基本移動術「縮地」は、熊級冒険者のなかには、それっぽい動きをする者たちがいるし、段壁のかけあがりは一足一足に急激な剣圧をかけているだけなので、技術的な問題点はそこだろう。
あとは単に剣気圧の出力が十分にあればいける。
自惚れるわけではないが、たぶんこの年齢で狩人になれてる時点で俺は恐ろしい大天才だ。いや、ほんと。
ゆえに自分と同じ基準で語るのは嫌味だろうから、このアドバイスはしない。
「ええ、出来ますよ。コートニーさんはピヨコの仕分けをコツコツ出来るだけの忍耐力がありますから、毎日高めればかならず出来ます。俺なんかより、積みあげる才能に関しては、ずっと優れてますよ」
「そ、そうか。出来る様になるか。ふっ、ふふん」
頬を染め、おもむろに毛先をいじり始めるコートニー女史。
「どうしました? 髪にゴミでもつきましたか?」
「……はぁ。もういい、行くぞ。奴らを待たせても悪いだろう」
ん、一瞬上機嫌だと思ったが。
すぐいつものむすっと顔に戻ってしまった。
気遣ったつもりだったけど、やっぱり難しいものだな。
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