記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第175話 なんか馬鹿にされた
「アオノ、コツ、ポルタ……一丁あがり。ふふ、またつまらぬ物を斬ってしまったな、ふふ」
気持ち良い余韻を味わいながら、棒状に変形させたダングポルタを袖に納める。
背後で倒れかける巨影へ目をやる。
やつには魔法が効かなかったが、物理はなんの問題もなく意を成した。
思うに魔法攻撃の魔力を、吸収するような機構術式が搭載されていたんだろう。かつて、王都ローレシアでアヴォンから教えてもらった古代の魔物に、そんな芸当をもつ、おかしな魔物がいたと記憶している。きっと、この巨人も似た事ができて、セレーナたちの魔法攻撃を防いでいたに違いない。
知識から攻撃を物理だけに絞るべきと判断できれば、このとおりという訳だな。
存外に簡単な敵であった。
ま、それにしても怪物と言う割には、あまりにも拍子抜けの弱さだが……。
地上へスーパーヒーロー着地で舞い降り、セレーナたちが逃れていった方へ向きなおる。
俺の勇姿を見てくれているかな。
「……誰もいない」
やれやれ、どうやら速攻で決めるよりも、彼女らの逃げ足のほうが早かったらしい。
「あら! アーカムちゃん! もうめっちゃ急いで来たのに、もしかしてひとりで対処しちゃったのかしらぁん?」
やってくる数人の冒険者、その一団の先頭、見覚えのある濃厚なメイクで顔を飾る男ーーインファ・メス・ペンデュラムは、艶めかしい唇をはじいてそう言った。
冒険者ギルド、いや、この場合は狩人協会か。彼らも騒ぎを聞きつけてやってきたようだ。
「こんにちは、ペンデュラムさん。市民に危害をくわえ、街がみるみるうちに壊れていったので、僕の判断で討伐しちゃいました」
まあ、破壊のほとんどはどこかの魔術師たちのおかげだけど。
「そうなのぉ……この子の調査難航してたから、生きている個体がいるとありがたかったんだけどねぇん……ま、仕方ないわね♡ アーカムちゃんは学業優先なのによくやってくれてるから、責められないわよん♪」
それはありがたい。
「ご、ぅ……ご……」
「ん?」
噛み合わせの悪い歯車のような音が耳にはいる。
見れば、首のない巨人が、倒れこんでいた建物を支えに、ゆっくりと動きだしているではないか。
高い生命力だ。
流石は悪魔に怪物認定されるだけある。
「ペンデュラムさん、下がっててください。奴の熱線は狩人でもなければ相当な脅威です」
蒼骨剣を展開し、数歩まえへ出て、腕を持ちあげる巨人を迎撃せんと構える。
「ふん、下がるのは貴様だ、たわけめ」
「おわっと!?」
背筋を駆け抜ける鳥肌。
肩をグイッと乱暴に引っぱられ、尻餅をつく。かわりに怪訝な声がまえへと進みでる。
一団の先頭に躍りでた堂々たる背中は、黒い装束に身をつつんだ背の高い男のもの。青髪をうなじでひと結びにし、手には中杖を握り込んでいる。
こいつは魔術師か?
「っ」
いけない、この男、魔術が巨人に効かないことをわかっていない!
「気をつけて! その巨人には魔術が効かないーー」
「ふん、くだらぬ。≪変質する獣骸稀液≫」
男のつぶさな囁き。
それは邪言だった。それは自信だった。
俺にしか聞こえないようなわずかな言葉に、魔術の深淵を汲みとる威力が秘められていたのだ。
これは!
瞼をおおきく開く。
眼前の男の足もとに設置されていた、膝ほどの高さの黒い塊ーーきっと液体ーーが、意思をもったようにうねり、くねり、表面に波紋をともなって、振り下ろされる巨人の腕に食らいついていったのだ。
いったい何が起こった、と疑問を口にするよりも早く、巨人の腕を押さえて、からみついた紅黒い流体は、その触手のように伸びた連帯を、勢いつけるがごとく左右にふり、巨人の体を通りの建物へ叩きつけてしまった。
建物群が爆散し、空から巨大質量が落下するにも引けをとらない轟音がアーケストレスの第二段層に響きわたる。
圧巻の光景に開いた口がふさがらない。
「ぁ、え?」
「ふん、三流魔術にしか触れたことない小僧めが。狩人なら何が起ころうと毅然と振る舞わんか」
なんか馬鹿にされた。
「もう! わざわざ街を壊すような事しなくていいわよんっ! まったく、これであたし好みのイケメンじゃなかったら酷いんだからね、アンバサちゃん!」
「ふん、この私がわざわざ出張ってやったのに、獲物が残っていないなど。怒らないのは私のほうだよ、インファ・メス・ペンデュラム」
青髪の男は髪の毛を撫でつけ、不機嫌に吐き捨てると中杖をひとふり、冷気のかたまりをひくつく巨人に叩きつけて、建物群ごとあたりを氷景色に変えてしまった。
あんな無造作に……詠唱はもちろん、トリガーも、複数の魔法を組み合わせることすらなく……。
どういう領域の魔法だ?
この氷結ひとつとっても、ドッケピのそれより規模から何まで上回っているじゃないか。
「ああ、もう、また雑な事して……うふふん、アーカムちゃん、ごめんねぇん、彼かなり気難しい性格だから、さっきのことは気にしないで頂戴ネ♡」
ペンデュラムに耳打ちされ、ついでに温かい吐息をかけられ、脇に手を差しこまれて立たされる。耳たぶに残る、冗談じゃないレベルの恐怖に、身の毛をよだたせている間に、我らがギルド顧問はテキパキと連れてきた冒険者ーーっぽい、ギルドエージェントたちに後始末の指示を出していく。
「さあ、みんなぁん、封印の時間よん♪   この街で凍結は凍結はドッケピちゃんの専売特許なんだから、目撃者増えるまえに片付けるわよーん! さあさあ、離れてーんっ!」
スムーズに行われる処理。
邪魔にならないようはじっこに避け、俺は気難しい彼と隣だって現場を見守ることにした。
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