記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第172話 二つ目の落下物


7月4日、ちょっと暑くなってきた王都アーケストレス、その昼下がりの街中。

ゲートヘヴェンによる解読結果を聞き届け、秘密を暴く者としての暗躍を決意した30分後、俺は真昼に
にぎわう明るい帰り道ではらわたを震えさせる爆発音に出会っていた。

揺れる地面、慌てふためくアーケストレス市民たち。
その多くが立ち止まり、激震の主人の方角へ皆が顔を向けている。

さてさて、野次馬、人だかり必定、混乱・どうこく間違いなしの現場へ、いざ殺到するべきか、それとも得体の知れないソレから一刻も早く駆けて走って遠ざかるべきか、あるいはさじな日常の一つと肩をすくめ商いにもどるべきか。

大分してほどほどの行動があるだろうに、皆の行動は不思議と一致していた。
通りいくつか向こう側への興味に、あらがえる者はおおくなかったのだ。

これも二度目だからか。
空からの落とし物に慣れてしまうとは恐ろしい。

こんなものは日常茶飯事、などとデンジャラス・シティ在住のタフガイを気取る気はないが、ここのところこの街はよく何か落ちてくる。

「イベント発生」

そのほか大勢ときっと変わらずに、そんな風なことを思いながら、俺は今しがたハッキリと目撃した、雲のさらに上方から、スーッと白い尾を引いて落ちてきたソレのもとへ向かうことにした。

ものの数歩、剣士としての足に屋根を蹴らせて現場に急行。

市民がわらわらと隣の通りから、ソレのところへ集まっていく。

その光景に息苦しさと、自分が快適な通り道を使えることへのささやかな愉悦を感じながら、俺はシュタッと現場に到着だ。

4階の屋根より見下ろすは、瓦礫に傷付けられ荒れ果てた通り、怪我人を運ぶ近隣住民ーーそして、半壊したビルを背もたれに地面に座する巨大な人型だ。

「やっぱり、あの巨人ーー」

いや「夜空よぞら眷属けんぞく」と呼ばれる謎の有機的存在。

アーケストレスの狩人協会に最初の個体が確保されていまなお、その起源や正体について大した報告が上がっていない困った落とし物である。

「ふむ」

見たところ前回と同サイズ、装飾も細やかな違いはある気がするが、大差はないように思える。

ただ……今度は片腕が根本から存在せず、もう片方も膝から先がちぎれたように欠けている。顔も半分潰れているようち見えるし、五体中がぼこぼこで傷だらけだ。

全体的な損傷がかなり激しい。
これは前回より状態の悪い個体だ。

「以前の個体は胴体にぼこすか穴が空いてたりしなかったが……ん?」

ひどい怪我を負った人々を声をかけあって助ける者、運悪く下敷きになった赤色から視線をそらす者。

皆が各々の興味で野次馬するのを、一次元高い場所から見下ろしていると、俺はあることに気がついた。

眼下の巨人の体、その破損した腕からのだ。

あれは……。

「ッ」

流れる液体に気がついた瞬間。
産毛がそわそわと意志を持ち出す。
肌が泡立つ、ひりひりした空気。

生まれてこの方、何度も味わった危険ゆえに、身についた直感的知覚が目のまえの危険が、そっと息を吹き返したのを教えてくる。



「ぐ、ご、ォ……」

「うわぁあ! 動き出したぞ!」
「これ動くのかよ!?」
「離れろ離れろ! 建物が崩れるぞー!」

集まってきた人々が、流れを押し返すように惨状の爆心地から離れはじめた。

人々が蜘蛛の子を散らすがごとく逃げだす一方、空からの強行入国者は「ご、ご、ご」と鈍く重たい音をたてて首を右へ左へむけている。

あたりを観察中、といったところか。

さて、とうするべきか。
武力が必要なら俺が対処するべきだろう。
しかし、狩人協会としては生きてる個体を回収したがるかもしれない……では、どうするべきか。

「あなたたちは下がっていなさい! ここはわたし達が受け持ちます!」

「あれは……冒険者たちか」

大混乱の大通りのなかで、武具をまとった数人を押しとどめる、目の覚める快活な声が聞こえた。

果敢にも武器を手にとったいあわせの冒険者たち。
その先頭の艶紫の髪は見覚えがある。

ドッケピ凍極団のところの後衛魔術師セレーナ、ドラゴン退治の折に大杖をかしてくれた女性だ。

巨人に挑もうとする下級冒険者たちを、先頭立って逃がそうと努めているらしい。

「エッズ、あなたはリーダー達を呼んできてください!」
「セレーナちゃんを置いていけないよ! それに、先手必勝、今ならわたしとセレーナちゃんの火力で十分に倒せるよ!」
「いいから、早く行ってきなさい! あと、人前でセレーナちゃんはやめてって言ってるでしょ!?」

む、セレーナを憂うあの桃髪のロリはおなじくドッケピのところのエッズ……たしかエッズ・ロペンスとか言う名前だったか。

ドッケピがいれば確かに巨人を拘束するのに適した魔術を使ってくれただろうな。
けれも、この現場にはドッケピ凍極団の女子達しかいないと見える。

「ええぃ! もうわかりました、わかりましたよ! エッズ、私たちの最大火力でこの謎の魔物を爆砕してやりましょう!」
「そうこなくっちゃ! アーケストレス随一の火属性魔法でやっちゃおっ!」

他の冒険者達が遠目に退去し見守るなか、瓦礫を浴びながら動きだす巨大へ、セレーナとエッズが向かいあう。

ーージィ

俺の魔感覚が、赤い粒子にヒリつく。

決闘的魔術ではない、相手に魔法の発動をさとらせない工夫、発動速度、そのほか一切合切を切り落とした、ただ強大な魔物を殺すために練られた冒険者的魔術ーー。

より巨大な脅威を倒すために洗練された人の業。

それは、生身では決して相対することすら叶わない巨人をまえにして、勇敢な、そして野性味あふれる自信に満ちた笑顔を少女達にあたえるのだ。

出しゃばるのは野暮。
ここは彼女らに任せて、お手並み拝見といこう。

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