記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第170話 解読委託
チューリ、シェリーとの立ち入り禁止区画調査から1週間、特に学校側から呼び出されることなく時間がすぎた。
朝のクラーク邸。
「シヴァ、おすわり」
「わふわふ」
神妙な顔つきで騒がしさを尾だけに宿す巨柴犬の手前へ、白食器をゆっくりとスライドさせる。
「よし」
「わふわふ!」
「ここのところシヴァ公はよく食べるようになったな。毎朝欠かさず、アーカムの皿から追加の食べ物を所望しているではないか」
「そうですね、たぶん、外出が多くなったからじゃないですかね。俺たちが学校行っている間、よく街中をパトロールしてるみたいですから」
「ああ、その噂なら私も聞いたぞ。露店通りで大きな犬が無言の圧力をかけて、店主たちから食べ物を頂戴していくとな」
コートニーは含み笑いしながらシヴァを見つめる。
自分のことを言われていると気付いているのか、シヴァはそんなコートニーの視線を一瞥するなり、顔をそらすと俺を盾にするように移動した。
「シヴァ……もうちょっと上手くやらないとだめだろう。こら、可愛い声で鳴いたってだめだからな」
「くーん、くーん」
やれやれ、仕方のない相棒だ。
ー
午前のドラゴンクラン。
廊下先で見つけたるは、腰まで伸びる黒長髪の男。
そろそろ暑苦しい季節なのに、さらに黒ローブを着込むその者を捕まえて、ドラゴンクラン1階立ち入り禁止エリア付近の人気のない場所まで連行する。
「どうした、来たる黎明の救世主よ。我は今から旧友のもとへ赴かなければならないのだが」
「忙しいところすみません、ゲートヘヴェンさん、実は緊急のお願いがあってきてもらったんです」
努めて真面目な顔で古代の智慧者に対峙する。
「ふむ」
ゲートヘヴェンは俺の顔を見て、ただ事ではないと悟ったのか、あたりを軽く見渡すように確認して口を開いた。
「緊急、か。……もしやまた犬王様の運動に付き合って欲しいとかでは、あるまいな? うーむ、我は彼女から気に入られているようだが、我からはどうにも好意を抱けんのだ。もちろん、安心安全、善良な精神をもつ正しき者とは知っている。そこは認めるのだ。おなじ列強種同士、仲良くできるのは好ましいことに他ならぬ。しかし、だ。しかしなのだ、アーカムーー」
渋い顔して噛み締めるように、苦しそうに声を発する彼の姿に、俺は罪悪感をいだいていた。
数日前、学校にシヴァがついてくるもんだから、そのまま校内に入れてしまった事件のこと。
あれは失敗だった。
校則の問題ではない。
もっと個人的な問題だ。
ゲートヘヴェンの事を覚えていたシヴァから、熱烈なアプローチをしかけることを止めさせれば、本来は戦う野生の種族である彼も、柴犬に喉元へ鼻を近づけられて、擬似的な死の恐怖を受けることはなく、心底震えあがることもなくなるだろうと言うのに。
悪いとは思っているよ。うん。
「先日の件とは別件です。実は、これなんですが……」
「ほう、紙切れとな」
ポケットからハンカチの包みをとりだす。
触り心地よい布地から出てくるのは、シミだらけの古紙。ゲートヘヴェンに証拠品提出するようにそっと手渡す。
この1週間、解読しようと図書館での勉強の傍らで頑張ってみたものの、結局わからず仕舞い。
俺の次にチューリ、そして最後に天才少女のシェリーが解読に挑み、最後に俺のところにまてまた帰ってきてなお、まだ分からない。3人寄らば文殊の知恵よろしく頭を絞りあい、図書で古いエーテル語について調べたりしたが、それでもどうにも読めない。
書かれている言語はエーテル語。
しかし、思ったよりもずっと古い言葉だったのだろうか、俺たちには解読することは叶わなかった。
チューリの仮説に従えば、あの立ち入り禁止区画のさき、旧校舎と思われる空間にあったこのメモはあったゆえ、100年前、200年前の言葉は大前提、さらにもう数百年前のエーテル語に遡らないと読めないのではないか、とのこと。
そうして、俺たちほ最後にはある結論にいたった。
「それなんて書いてあるか、わかりますか、ゲートヘヴェンさん」
ドラゴンの智慧にたずねれば、まあ、十中八九答えが返ってくるだろう、と。
うむ、最初からこうしておけばよかったんだ。
「どれ。ん、これはまた随分と懐かしい……いや、これはっ。……アーカムよ、汝、この紙切れをどこで手に入れたのだ?」
数秒見つめたあと、メモから目を離し、ゲートヘヴェンがギャロっと不気味にこちらを見つめてくる。
素直にいうべきか。
「じー……」
穴空けそうな意志感じる黒い視線。
そうか、そうだった。
この竜には嘘ついても意味がないんだよな。
天空で大嵐のなか戦った時、話を円滑に進めるのためのささやかな嘘ついたせいで、余計に話がこじれたのを忘れてはいけないな。
「観念しますか。えっとですね。ちょうど、そこです」
すこし先にある立ち入り禁止の勧告表示がある扉を指差す。
「っ、……あそこに入ったのか?」
「はい、入りました。でも、その、深いわけがあったんです。いや、ほんとですよ?」
「……よい、話を聞こうではないか。その深い訳とやらをな」
ゲートヘヴェンは困った顔で鼻頭をかきかき、威厳たっぷりに「ふん」と鼻を鳴らし腕を組んだ。
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