記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第169話 撤退しましょう


ひとりだけ、なんか見えてるらしい少女への追求は粛々と行われた。

まず、正直に俺とチューリには、なにも見えてないことを自白し、そのうえでシェリーさんの霊視的なソレについて訪ねた。結果、彼女からは「逆になんで見えないのですか?」と、困った質問を返された。

一理はある。

彼女に特別に見えているのではなく、俺たちが特別に見えていない可能性。

ただ、ここは民主主義にのっとっていこう。
2人には見えてないのだから。

「そんなこと言われても、シェリーには見えるんですから仕方がないのですよ……なんなのですか、チューリ、その疑いを隠さない不躾ぶしつけな目はっ!」
「ふん、誠意を見せてもらいたいのだよ、シェリー・ホル・クリストマス。貴様が空からあの落下物を落とした終曲の回し手なのはおおむね予想済みだ。だからこそ、そう、だからこそな。いや、無駄だとは思うが、足掻いて欲しい、ただそれだけさ。クク……にしで、我らの行手をはばもうとして、自らボロを出すとは! ほんとうに滑稽だな、クハハ!」
「はぁ……チューリでは話にならないのですよ。アルドレアくんは信じてくれますか? シェリーは世界の終わりなど望んでいないと、ただ冤罪であると!」
「いや、そもそも俺はそんなふうに疑ってないっす。そのアホと同じ感じで接されると傷つきます」
「っ、そうですよね! これは、申し訳ないことをしたのですよ、ごめんなさい。精神疾患者扱いされるのは、さぞ不快だったでしょうに」
「待て、貴様ら、どういうことだ。魔剣の英雄は俺の仲間ではないのか!?」

話が進まないので、となりの男は無視だ。
現状で不思議現象が起きていることが、何よりも興味を向ける事案であるからな。

推測として『夜空の眷属』と呼ばれていたらしい存在と、先日の空からの落下物が同一で、この地になんらかの理由で落ちてきたところまではいい。それが、終末とやらの続きかはわからない。ただ、まぁ、なんか理由があるのは認めてあげてもいい。

ただな、チューリ。
そうだからと言って、そもそもドラゴンクランの生徒立ち入り禁止エリアに、その理由を求めることには、なんの根拠もないんだぜ。

必然的にシェリーと『夜空の眷属』を結びつけるのも難しいというものだろう。

今は単に「なにが見えてんの」と「何がいるのだね、シェリー女史」というここに注視すべきだ。

「で、とにかくチューリと俺には見えてない者が、シェリーさんには見えている。ここまでオーケーだ。それで、いったい何が見えてるって言ってましたっけ? なんかおっさんが何とかって言ってたような……」
「おっさんじゃないのですよ。お爺さんなのです」
「お爺さんですか……。その、俺の剣知覚の感じだと2メートルくらい身長あるような気がするんですけど、あってますか?」

精度をあげた俺の剣知覚にもとずけば、近距離の対象の身長はわかる。
その気になれば体重、顔の輪郭、スリーサイズまで赤裸々に見なくても把握できる。

「わお、これは凄いのですよ! 見えていないのに身長まで分かってしまうのですか! アルドレアくんは、とっても優れた戦士のチカラを持っているのですね! レトレシア杯で、こーんな大きな魚を投げたって聞きましたが、嘘ではなさそうなのです!」
「ああ、ドローゴーンですね。ふふ、まぁあんくらいの巨大魚なんて余裕ですとも。ワンパンです、ワンパンです、ふふ」

なんだか照れ臭い。

「魔剣の英雄、籠絡させられそうになってるぞ。その女の色香に惑わされるなよ」
「……だ、大丈夫に決まってんだろ。んっん、シェリーさん、続きを」

「あれの姿についてでしたね。ええ、とりあえず2メートルお爺ちゃんなのは間違いないのです。ただ、人ではなかったのですよ。あれは使い魔ですね。今となっては珍しい物なのでお二人は見たことないかも知れませんね。でもですね、シェリーの家では何匹か使役してるので、使い魔か使い魔でないかは、だいたい見ればわかるのですよ、えへへ♪」

問題の単語「使つか」。

使い魔に関する学術分野は、現代魔術では「四大属性式魔術」に含まれてない。
つまるところ神秘属性式魔術に分類されるために、他の分野より発展が遅れていると聞いたことがある。

特別に使い魔を使役したい願望がなかったのと、見る機会がなかったし調べてこなかったが、俺はまだ使い魔という物を見たことがないのである。

ただ、これは眼前の少女が言っているとおり、俺に限った話ではないはずだ。

なぜなら、レトレシアに使い魔を連れて歩いてる奴なんていなかったからな。話題に出してくるやつもいなかったし。みんな知識として存在は知っている程度なんだ。時代の流行という観点から言うならば、この「使い魔」は、現代魔術の流行ではないと言えるだろう。

現代に入るまえーーそれこそ、近代魔術、古代魔術が魔法魔術の主流だった時代には、魔術の分野として召喚術と、使い魔の使役は認知度があったらしいが……。

「使い魔を使役してるなんて、シェリーさんの家、クリストマス家は古い魔術にも精通しているんですね」

ちょっとした興味を抱いて褒めてみる。

「えっへへ、いやいや、そんなことは結構あるのですよ〜! なんせ『星刻せいこく』は、シェリーの家に代々使えている使い魔をコントロールするための盟約みたいな物なのですからね! 古典系統の魔術の研鑽も欠かさないのです! まぁ、シェリーは体質的にも神秘属性式魔術が大得意なのですがね!」

む、神秘属性?
これは仲間発見。
なるほど、使い魔に特化した家系ならその手の魔術が得意なのも頷ける。

これは魔法使い友達として絆を深めるチャンスだな。

「ふふ、あのですねシェリーさん、実は俺も声を大きくする≪拡声かくせい≫という魔術をですねーー」
「ほら、見てください、シェリーは神秘属性三式魔術≪飛行ひこう≫を使えるのですよ! ここに風属性式魔術を併用すれば、どこへだって飛んでいけるのです!」

ぷかぷか浮いて、空中に立つ少女へ暗い眼差しをむける。

ああ、俺とレベル違うタイプだったわ。
なんか裏切られた気分なんだけど。

「んっん、いや、忘れよう……ささ、話を戻しましょう」

才能を見せつけてくる嫌味な魔法少女から目を離して、もう一度仕掛け扉へ手をゆっくりかざす。

「あの使い魔には敵意はなかったんですよね?」
「そうなのですよ、あの可愛くない使い魔たちは、不思議な状態でした。まるで目的を与えわすれて放置しちゃった時の使い魔の感じによく似ているのです。使い魔たちは、ただ待機、だけでもいいからちゃんと命令を与えないと可哀想なのです」
「うむ、それにしてもだ、魔剣の英雄。どうして使い魔なぞがこんな場所にいるのだ。自然に湧いてくるものでもないのだろう。そこのところどうなのだ、シェリー・ホル・クリストマスよ」
「そうですねぇ……むむむ、やっぱり立ち入り禁止区画の監視役、が一番納得できる話なのですよ。シェリーには目的が与えられてないように見えましたけれど、かのドラゴンクランの放った使い魔ならば、このシェリーの経験判断など役に立たないかもしれないのですからね」

うむ、たしかに。
使い魔がいるなら、それを放った魔術師がいるのは道理というわけか。

やはり危険だな。

「……はぁ、ここまでだ」

俺はゆっくりと皆に聞こえるようにそう言った。

これ以上は危ない。
というかここまであまりにも気にせず進みすぎた。

そうだよな。
学校の魔法的監視があっても、何もおかしくないんだ。
それこそ何かを隠しているだとか、生徒を立ち入り禁止にするくらいなら、そういう処置を施して然るべきだろうし。

遊び感覚で進んでいいのは、ここまでなんだ。

「魔剣の英雄、ここまで来て諦めるのか!? もうすぐそこに大魔術学院の秘密が隠されているんだぞ!」

まぁ、お前はそういう反応だよな。

だが、すまんな、友よ。

「チューリ……すこし眠れ!」
「待て、魔剣のぐぁあ!?」

気流巻き駆ける手刀。

三度チューリの気道へ攻撃を仕掛け、今度は瞬間的に意識を刈り取る。

事件現場を目撃したとばかりに、口元を押さえるシェラーが手前、気を失い倒れるチューリを受けとめる。

「悪いな、チューリ。お前はこうしないと言うこと聞かないからさ……おや?」

帰るためにチューリを肩にかつごうとしゃがむと、ふと自分の足元に一枚の紙切れが落ちていることに気がついた。

「おや、それはどうやらメモのように見えるのです。その仕掛け扉に挟まっていたのかもしれないのです!」

ショックからころっと復帰したシェリーさんが、メモに飛びつくように拾いあげる。

メモには何やら慣れない言い回しの言葉がかかれている。

まったくの別言語というわけじゃない。
たぶん古い時代のエーテル語だろう。

「ふっふふ、やったのですよ! 何かわからないですが、同じエーテル語なら頑張って解読できるはずなのです、えぇ、きっと、たぶん! これでチューリも少しは納得するでしょう!」
「ですね。さっ、収穫もありましたし、早くここを撤退しましょう。あの扉の感じだと、いつ犯行がバレるかわかったもんじゃありませんから」

その意見には賛成だ。
手早く撤退するとしよう。

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