記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第168話 ……シェリーさん?
なにかがいる。
俺の知覚がそう訴えかける。
場の緊迫感を察したクリストマスは、緩んだ頬を締め、似合わない真面目な顔でかがみ、チューリの手をひいて仕掛け扉のこちら側へ戻ってくる。
純正魔術師2名を後方へもどしつつ、剣知覚でゆっくり近づいてくるそれに精密な探りをかける。
廊下の奥、遠くはない、人間サイズだ。
気配は希薄で、のそりのそりと足取りはまばら。均整が感じられない妙なリズムだ。
これは、なんというか……嫌な感じがする。
この距離、十分視認できるか。
そう判断して、俺は像の装飾の隙間から視線をとおし、向こう側をうかがった。
「あれ?」
されど、剣知覚で気配を感じるあたりには何も見えなかった。
気配の距離を考えても、そこにいるはずなのだが。
俺の目が狂ってるわけじゃないと信じたいが、ここはせっかくいる仲間の目もかりてみよう。
「なぁ、ちょっと見てみろよ、アレどう思う?」
チューリの手をひき、見えぬ気配を指差す。
「?」
向こう側をのぞき、特にこれといった反応を示さないチューリ。口元を自分でおさえながら、首を傾げて「何言ってるかわからない」と意思表示してくる。
やっぱり、なにも見えてない。
では、もうひとりの方はーー。
「わお、これはなかなか衝撃的な使い魔なのですよ。うへぇ、いったい誰がこんなところに放っているんでしょうか?」
ややズレた感想をもらす声が聞こえるなり、俺とチューリは顔を見合わせた。
そして、チューリはすぐ自身の頭に顎を乗せる少女を振りはらい、その小さな鼻先へ指をつきつけた。
「何を言っている、貴様、シェリー・ホル・クリストマス! そこには何もいなーー」
口走るチューリの気道をふたたび殺す。
クリストマスは続ける。
「どうしてみんなお爺ちゃんのような姿なのでしょう? 戦闘用に調整された使い魔ではないのですかねぇ〜。いや、他の用途であっても、あれほど醜悪な見た目にする意図がシェリーにはわからないのですよ。……そうは思いませんか、2人とも?」
「……あー、えっと、そうですね」
言葉に詰まるなんてもんじゃない。
そして、得体の知れない何かについて、同意を求めるんじゃない。
「あれ? えっと、二人ともどうしたのですか……? なんだか、ぼーっとしているのですよ」
「シェリー・ホル・クリストマス……お前、魔眼を持っていたのか……!」
「はひ?」
首をかしげる少女へ、チューリの迫真の言及。
って、違うんじゃ。
結論を急ぐんじゃない。
話がこじれる、馬鹿やろう。
「こほん。あの、クリストマスさん」
いったんチューリの発言を流して仕切り直す。
「今更ながら、シェリーで構わないのですよ、アルドレアくん。クリストマスさんなんて他人行儀ですからね♪」
「おほん、では、シェリーさん。チューリの気持ちも代弁しますとね……あなたには、なにが見えてるんですか」
「……? あの、チューリといい、アルドレアくんと言い、どうしてそんな怖い顔で見てくるのですか……? シェリーなにかおかしな事言いましたか?」
なるほど、自覚がないときた。
うーむ、ここで追求してもいいが、ちょっとその放逐されてる『使い魔』とやらが気になって仕方がない。
「決めた。いったん撤収だ」
「クク、それが正しいだろう。この女を弾劾すべき時が来た……!」
俺はチューリとシェリーさんを教授室に押し込みながら、仕掛け扉をゆっくりと元に戻した。
ちょっと話を聞かせてもらいますよっと、シェリーさん。
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