記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第166話 超不安建築学院


犯行現場の目撃者シェリー・ホル・クリストマスを加えて、いざ禁止区域へと足を踏みいれる。

アホによって破壊された入り口の金具は、それとなく溶接しておいたので、遠目に見る分にはバレないだろう。

これでしばらくは気付かれないはずだ。
いや、まったく自信はないけれど。

「前々からドラゴンクランの下階は古くさいというか、上階の方より雰囲気が違うとは思っていたのですが……ここは、ずいぶんとまた風変わりな空気をもっているのですね」

クリストマスはそう言い、うぐいす張りもかくやと、ギィギィ嫌な音をたてる木の床をテクテク歩いていく。

立ち入り禁止とされていた扉の先に、続いていく校舎。当然の光景、しかし、どう見ても扉一枚挟んだ、向こう側とこちら側が同一の建物には見えない。

建物の新旧に大きな差があることが、素人目にも容易に見て取れる。

廃墟……、それが最初にこの校舎へ抱いた感想。

気づいた不可思議のひとつは、この古びた校舎全体がほんのりとか弱く、淡い青白いひかりのようなものに包まれていること。

光源は背後の扉の隙間からだけなのに、不思議とここでは視界に困らない。

かすかに息がつまり、窮屈な感覚も覚える。
これは空気が淀んでいると言うやつだろうか。

これはなんとも奇妙だ。
現実離れした、夢の一端に触れた気分てある。

「クック……たしかに俺の長年の調査によれば、我らがアーケストレスは、その魔術のチカラによってこの山に大都市を築きあげた。そして、またその人の英知は大魔術学院の時代に合わせた増築を可能にした。つまり、ドラゴンクランは上の階にいくほど、新しい校舎となり、下の階層ほど古い時代に作られた校舎という、かなり不安になる建築によって、成り立っているのだ」
「そういえば、このシェリーさんもどこかで聞いたことがあるのですよ。増築しすぎて、本来は王都第2階層にあった学院が、第3階層まで伸びてしまったって」

クリストマスは指をたてて、笑いながらチューリへ共感する。

建築学など、学んだわけではないが、古い時代の建物に上から積み重ねて建築するなど聞いたことがない。

それも、昨年600年記念を迎えたレトレシア魔術大学より、さらに古いドラゴンクランの校舎などで言ったら……すくなくとも数百年は継続してる気まぐれ増築なはずだ。

魔術の論理に相当な自信があるのは結構だが……いつ崩れるか、肝の冷える思いは抱かざるおえない。

「うぅ、1階にいるのが、途端に怖くなって来たんだが」
「クク、安心しろ魔剣の英雄、ドラゴンクランはだからこそ、下の階の教室を積極的に使わないらしい」
「いや、安心できねぇよ、なぜ上なら安全だと思った……ッ! それ下層に自信ないことの表れだからな!」

威厳ある学院の意外なポンコツ見つけてた気分だ。
やれやれ、そこまでするなら、建て直せばいいのにな。

「……ん?」

ふと、抱いた気づき。
俺はこの不自然極まりないドラゴンクランの校舎のあり方に、正しい答えを導いてしまったのでは?

まだ某県の普通の高校生をしてたころ、うちの学校には旧校舎なるものがあった。

そこは、文字通り古い校舎で、ただ昔を懐かしむだけの役目しかない、使われなくなった建物だった。

古くなった校舎は、新しい建物にくらべて建築上の不安がある。それに、成長した学校が要求する、拡大しつづける使用用途に対応しきれないだろう。
だから、古い校舎は使わない。
使わない校舎は壊すか、破棄する。

ただそれだけの話では、ないのではないか。
意外性もない答え、されどこれが論理的帰結というやつだろう。

権威的な意味だったり、大きい校舎ほど格式が高いだとか、世界最古の学び舎として、もろもろ諸事情はありそうだが、それでも。うむ、それでもわからないな。

そこまでして、このが。

「うっふふ、シェリーたちの魔術王国は、魔法魔術はもちろん、建築、都市の開拓においても他国よりもすごいってことなのですよ、アルドレアくん! うん、きっと!」
「クク、脳内お花畑のご令嬢はこれだから……この事実は、俺たち竜の学徒が、いついかなる時でも人質にされる可能性がある、という学院からの挑戦的態度だとなぜ気づかないのか……理解に苦しむな」

国民の間でも意見に相違があるご様子。

まぁいいか。
今すぐにでも壊れるものでもない。

やれ国家を信じるシェリーと、王政府の陰謀論まで展開させるチューリの議論を横目に、古びた旧校舎をより観察するために杖先に明かりをともす。

「≪≫」

超高難易度魔術をもちいて、いく道を照らす。

さて、探索をはじめよう。
一連の事件に関する疑い、空からの落下物にまつわる何かが見つかるとも思わないが、まったく何もないってこともないだろう。

そう、俺の直感が告げている。



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