記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!
第162話 左向きの書
風化した羊皮紙面のうえの変な匂いのするインク絵。
今まで誰にも借りられていないとまで言える、忘れられた古書の挿絵に描かれていたのは、金属の鎧をきた人型だ。時代を思わせる平面な絵だが、たしかに特徴は捉えている。
なで肩からさきに長い腕がついていてやや不格好ながら、全体的にはフルプレートの鎧をきた騎士をおもわせる姿。
細部の装飾は違えど、チューリの古書の挿絵は、数日前、街中に突然おちてきたあの巨大な有機体にそっくりだった。
この挿絵は、あの落下物のことを示しているに違いない。
偶然とは言え、まさか狩人協会よりはやく有力な正体にたどりつくとは……驚愕だよ、チューリ。
「『夜空の眷属』が終焉の戦いを再開するために、このアーケストレスにやってきた……もしそれが本当だったら、とんでもない事態なんじゃないか?」
俺はもうチューリを疑うことをせず、彼の調査が暗示する大事件の予感に胸を躍らせていた。
神話の続きが起こるかもしれないーーそう少年心をくすぐられ、すこし楽しくなってきていたのだ。
「クック……魔剣の英雄よ、貴様と俺がこの危機に気づいたのは偶然ではない。遥かなる天空より、眷属がやってきたように、俺たちは導かれているのだ。神は言っている、世界の終わりを止めろとな!」
「この世界いろいろ危機に見舞われすぎな気がするけど……まぁ細かいことはいいか。とにかく今は、世界を救うために動かないとな」
「そのとおりだ。神話の戦いの終焉の地となったアーケストレス。俺はむかしから不思議に思ってたのさ、クク……ドラゴンが住んでるからって、わざわざこんな山肌に都市を築くのだろうか、とな」
「それはつまり?」
「魔術王国の始まりは、竜の魔術の探究からはじまった。すなわちアーケストレスの始まりは、ドラゴンクランの始まりだ。知っているか、魔剣の英雄。第二段層と第三段層にまたがり、第二層の地上から9階、場所によっては13階まである、この長大な学び舎ドラゴンクラン大魔術学院、その一階には、立ち入り禁止の区画がおおくあることを。おそらくはこの禁止区画に、太古の歴史につうずる何かがある!」
「ならほどな」
春、ドラゴンクランに入学したとき、モンラッツェ・ルフレーヴェ副校長に1階のいくつかは、生徒立ち入り禁止となっていると言われた気がする。
もっとも、俺が春よりこの3ヶ月ちょっとの間に使ってきた教室や設備は、ほとんど上階に集中していたので、気にかけることもなかったが……あれには、チューリの考えとおり、歴史の秘匿という意味があったのかも知れない。
「だけど、禁止区画にはいるのは普通にアウトーー」
「校則違反は間違いないであろうな、魔剣の英雄。しかしだよ、魔剣の英雄、貴様と俺しか、この事態を解決できるものはいない、魔剣の英雄。ともすれば、なにをすればいいかわかるな、魔剣の英雄」
「……そうか? オールド・ドラゴンのゲートヘヴェン、とか凄い協力してくれそうだけどな」
世界の危機がせまっていると伝えたら、禁止区画のこととか、何でも教えてくれそうだ。
古代竜たちほど、この学院の歴史ことに詳しい者もいないだろうし、むしろ俺たちよりずっと適任なんじゃないか。
「それはやめておけ、魔剣の英雄。古代竜はあくまで学院側の存在。奴は人間の嘘を見破れるが、俺たちは竜の嘘を見破れない。奴がまことを語る保証はない」
まぁ、一理くらいは、理屈としては危惧すべき可能性かもしれないな。
「なにより、この運命に抗えるのは真に選ばれた俺と貴様だけだ、魔剣の英雄。この学院がかくしているモノを暴き、そして、俺たちが眷属の集合するまえに、終焉のつづきを止めるのだ! このアーケストレス魔術王国をふたたび冥府の炎に染めさせるわけにはいかない!」
ドラゴンクランは完全に敵サイドか、チューリのなかでは。
絶対にゲートヘヴェンとか頼った方がいいと、俺は思うんだけどなぁ……。なんなら狩人でもいいし。
「まぁ、いいか」
事実がどうであれ、『夜空の眷属』とやらが空から降ってきたのは、もう確定した事実だ。
事態が重たくなったら、学院側のゲートヘヴェンでも、協会のペンデュラムでも頼れる存在はいくらでもいる。
事件を重たく見て、アクションをとるにしろ、まだまだ初期対応にあせって動く段階ではないだろう。
「いいぞ、それじゃ、俺とチューリで世界の終焉を、そして学院の隠匿を打ち破ってみようじゃないか」
なにより、こういう非日常への入り口は大好物だ。
「クク、そうこなくては、魔剣の英雄。もう一度、俺たちでこの街を救うぞ」
古書を叩きつけ閉じて、チューリはにやりと笑みを深めた。
表紙に刻まれた皮の文字が、ふと目にはいる。
「その本『左向きの書』って言うのか」
変な名前だな。
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