記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第152話 黄金のドラゴン


「ドラゴン……ッ、本当にいたのか」
「猫級は下がれぇ! セレーナ、彼らを頼んだ!」

ポルタ級冒険者たちは、鬼気せまる声をあげて、猫級冒険者たちを後方へ下げさせていく。

紫髪の女性冒険者セレーナが、お守りとして俺たちとともに後方へ来てくれた。

主戦力のポルタ級たちは、前方ですぐに陣営を組みはじめる。

ドッケピ凍極団は中杖を構えるドッケピを中心に、大杖で狙いをつけるドゴランとエッズ。

ドリフターズは、大剣を構えたエビデと、大盾のジョン・クラーク、
幅広い刃の双剣をたずさえた若い青年と、大杖を持った女性冒険者の順番で立ちならぶ。

全員が、対人用の武器ではない。
それらは、より大きな魔物、そしてより大きな脅威を討伐するための装備だ。

十分な火力があれば、ドラゴンを倒すこともありえるだろう。

まぁ今回に限っては、倒されては困るのだが……。

「くるぞぉ! ドラゴンブレスだぁぁ!」

エビデは叫ぶ。

「散開しろ! ドラゴンの高度をさげない限り、ドリフターズの力を借りれない!」

ドッケピの言葉で散った、ドゴランとエッズ。

同時に山なりに飛んできた火炎の球が、先ほどまで冒険者の固まっていたあたりを、火の池に変えた。

幼さののこるエッズはローリングして木の影にかくれると、天を飛ぶドラゴンに大杖で狙いをつけた。

桃髪の隙間から覗く眼光はするどく、見た目に惑わされてはいけない、ベテランの香りをやどしている。

無詠唱の魔法は、素早く放たれる。

槍のように鋭く朱い魔力の塊が、ドラゴンにせまる。

貫通力をもった高威力の火属性。
殺意の形をもったあの攻性魔法があたれば、竜ですら致命傷は裂けられないだろう。

「もーらいっ!」

命中の直前に拳を握る、エッズ。

「がぉぉおおおー!」

吠えるは竜の咆哮。

ーーほわっ

突如としてドラゴンに命中しようとしていた、朱い槍は、構築していた魔力を霧散させて消えてしまう。

「はえっ!? わ、わたしの魔法が!?」

これまでにない経験だったのか、エッズは瞠目どうもく
ドラゴンは自身へ魔法をはなった合法ロリへ、のっそりと首を傾けた。

口がパックリと開けられる。

「ッ! エッズ、避けろぉお!」

ドッケピがエッズへ手を伸ばす。
しかし、彼女と彼の距離はとおい。

その手は届かない。

「リーダー、わたしーー」

ーージュワア

彼女の言葉は最後までつむがれず、灼熱の遮断幕によって、ドッケピとの間の宙は塗りつぶされてしまう。

灼熱があけた後、エッズのいた場所は、真っ赤に火照り、地面は溶けていて、そこには布切れひとつ残ってはいなかった。

先ほどのドラゴンブレスとは、速さも、威力もわけの違う、地面を蒸発させる強力な熱線が、彼女を、跡形もなくこの世から消し去ってしまったのだ。

「ッ、グッゾォォォォオオ!」

怒り、悲しみ、絶望。

喉をからすような、男の雄叫びはリーダーのドッケピからはっせられる魂の痛みだ。

数日前、俺がジョン・クラークの身辺調査をした時、酒場で偶然にも俺は彼らにあっていた。

その時の記憶をたどれば、ドッケピとエッズと呼ばれた女性が親しい関係にあったのはわかる。

まさか彼もこんなところで、仲間を失うだなんて思っていなかっただろう。

「ドッケピ、落ち着くんだァ、俺たちが取り乱してどうする!? 今は前をむく時だ!」

ドゴランは降ってきた火の玉を避けながら、ドッケピを鼓舞した。

ドッケピは溢れる涙を、腕でぬぐいはらう。

その瞳に、もはや迷いはない。

彼は全身に魔法による身体強化をほどこし、巨木の幹を足場に壁キックで上昇。

ひとりだけドラゴンと最も近くのそらを飛び、眼前の天空の覇者の視線を一身にあつめた。

「ドッケピ、無謀だぁあ! さがれぇえ!」

竜に単身いどむ恐ろしい光景に、ドゴランは叫ぶ。
同じく仲間をうしなったばかりの彼の心境は、どれほどの焦燥に駆られていたか。

それを察する余裕は、不可能へ挑戦するドッケピの頭には浮かんではいなかったのだろう。

仲間の必死の制止もかれには届かない。

ゆっくりと空舞うドラゴンは、そんな彼に向かって、パックリと口を開いた。

その時ーー魔感覚が複雑に練られた、水属性式魔術の発動を察知する。

「っ、これは……っ!」

ドラゴンの口から放たれたのは、息もつかせぬ絶死の熱線。

一方、火傷するほどに熱い怒りをいだく魔術師。
その中杖にこめられた白き魔力も放たれる。

ーーパキキィ、キギィ!

「「「ッ!?」」」

空気の体積が収縮し、窒素が悲鳴をあげる。
巨木の葉っぱたちはまっしろに。
凍てつく波動が、肌をさす。

究極の凍結魔法。

瞬きの後に、猛威を奮っていた黄金のドラゴンはーー氷の彫刻に変えられていた。

落下する美しき氷の彫像。
ともに落ちてくるドッケピは、さきに地上に降りたち肩であらく息をつく。

信じられない。

まさかドラゴンの攻撃よりはやく、あの巨体の全身を凍結させるとは……あれ、この男、そうとう強くね?

かなり不安になってくる。

「大丈夫だよね……?」

俺は焦りに感じて、凍らさせたまま間抜けな面をさらして落ちてくるドラゴンを見つめる。

まさか負ける?
あれ、負けちゃうの?

「はぁぁあ、いくぞぉお、≪穿うが大地だいち羅刹らせつ金剛弾こんごうだん≫!」

俺の焦りも知らずに、ドゴランの複雑怪奇、オリジナル魔術式が展開される。

彼の大杖は、その魔力をつたえ、地面の下から岩石と土を掘りかえし、人間の頭ほどの岩の弾を創りだしていく。

それは、先端が極めて鋭利で、魔力でひかり、渦を巻いている。
光沢のある硬質金属のそれは、すぐに回転しだし、対象までとどくのに、十分な推進力を蓄えた……と同時ーードゴランの体は反作用を受けて弾かれるように激しく後退。

螺旋をえがき、空気を斬り裂き、森の闇をつらぬく光陰の無双砲が、凍ったドラゴンへ一直線。

「ゲートヘヴェンさん!?」

あまりにも死の予感が強すぎて、俺はとっさに叫んで、杖を構える。

まずい!
あの鋼鉄の魔弾を撃ち落とさないと!

「案ずるなーー」
「ッ!?」
「なに!?」

短く、低い声。
この数日で聞き慣れたそれが、空気を震わせた時、魔感覚が強烈に刺激された。

すべての魔術が機能を停止する。
絶対にして無敵の魔法がある。
竜の魔法は現代魔術の起源だ。

源をたどれば、すべてはそこに通ずる。

そういうものなのだ。

「ありえん、お、俺の金剛弾が……っ!」
「凍結が、チリになっていく……?」

まばゆいまでに輝く黄金の鱗。

ドッケピとドゴランは唖然とし、目を見開いた。

煌めきに目を奪われたからか、あるいは己が研鑽の集大成が、効力を発揮する直前で、
魔力の粒子に変わり、自然へ還っていくのが信じられなかったのか。

どちらにせよ、それは致命の隙だ。

「ッ、なにしてる、ドゴラン、ドッケピぃぃ! 足を動かせぇぇ!」

ドリフターズのエビデが声を張りあげる。

木の上でドラゴンが降りてくるのを待機していた、彼は、砕けて粒子に変わっていく氷のなかから、平気な顔してでてくる黄金のドラゴンへ、すぐさま飛びかかった。

だが、それでは遅い。

ドラゴンは口をパクリと開けて、2発の熱線を照射。

強烈な光の光線は、巨木を抵抗なく焼きはらい、すべてを溶かし、蒸発させてふたりの冒険者を消し飛ばしてしまった。

「貴様ぁぁあッ!」

ドラゴンの頭上、両刃のグレートソードが振りあげられ、落下とともにそれを叩きつけるエビデが叫ぶ。

だが、ドラゴンはそんな彼の攻撃を、身をひるがえして、いとも容易く避けてしまう。

着地したエビデ。

ドラゴンはその隙を見逃さず、口をパクリと開く。

「リーダー!」

切羽詰まった男の声。
高速の「縮地しゅくち」によって、ドラゴンとエビデの間に割って入ったのは大きな盾。

ジョン・クラークの鉄壁だ。

ドラゴンは彼の大きな大きな盾を見るや否や、口を閉じて、巨体をぐるり水平に回転させた。

ジョン・クラークの一瞬ほうけた顔。

しかし、すぐにそれが巨木のような筋肉の塊ーー尻尾による、死のなぎ払いだと知ると、盾の角度をわずかに傾けて、受けの調整をした。

ーーバゴォンッ!

約束された衝撃。

「ぐぁあ!?」

ジョン・クラークが盾を放りだして、身ひとつで森の奥へいっきにフェードアウト、吹っ飛ばされていく。

「ジョォォォォンーッ!」
「リーダー! 僕が行きます!」

相棒を失い、動揺するエビデの後方。
幅広いの双剣を手に、風のように疾走する影。
ドリフターズの3人目の戦士だ。

「パトリィィック! 待てぇぇ!」
「この高さがチャンスです! 空に上がられたら、僕たちでは手の打ちようがありません!」

茶髪の青年ーーパトリックは地面を蹴って跳躍し、黄金のドラゴンへ一気にせまる。

ドラゴンは前脚を無造作に振りおろし迎撃。

パトリックは高度な空中制御で、足裏をドラゴンの前脚につきあわせ、後方へくるくると連続後転してかわす。

いったん着地した巨木を足場に、ふたたび跳躍するパトリック。

今度はより、ゆるい角度から飛びかかっていく。

ドラゴンがパックリと開ける。

これまでに何人も犠牲になってきた、即死の閃光が、その凶悪な牙の生えそろった口から溢れている。

「ここ一番ッ!」

パトリックは叫び、その光る山吹色の瞳をカット見開いた。

宵闇を斬り裂く銀閃。
前転をともなった「斬撃ざんげき」が飛んでいき、ドラゴンの鼻頭をたたく。

「がぉ!?」

するとドラゴンは誤って口を閉じて、焦った様子で首をひねる。

すぐのち、ドラゴンの口から放たれる熱線。
しかし、それは誰にもあたらず、夜空へと消えていっただけ。

パトリックは1の力で、1000の熱量を回避したのだ。

「リーダぁぁあ!」

パトリックの叫びに、エビデが動く。

ドラゴンの頭に着地したパトリックは、双剣をその両眼に思いっきり突き立てる。

彼の得物では、ドラゴンを絶命させるには力不足だと知ったうえでの判断。

だが、

ーーカキンッ

「ぐっ! まぶたまで硬いのか!」
「がおー! がぉおー!」

前腕に血管を浮き上がらせ、額に汗を滲ませて力いっぱいに刃先を押しこむパトリック。

しかし、ドラゴンの目は破壊できない。

ドラゴンは目を閉じて、まぶたの内膜だけでパトリックの剣先を防いでいるのだ。

「どりゃぁぁ!」

地上から跳躍し雄叫びをあげる大男。

エビデのグレートソードが、視覚を失ったドラゴンの喉元にせまる。

俺はそれを見て、わずかに不安を感じ……そっと「哀れなる呪恐猿ⅡReBorN」を持ちあげる。

「だから、案ずるなと言ってるだろうーー」

ーーガギンッ

「な、ぐぁ……ッ!?」

空中に弧をえがいて、強靭な鋼がとんでいく。
エビデのグレートソードは、ドラゴンの魔法の鱗を突破できずに、はじかれてしまったのだ。

己の相棒を手放してしまった手を見つめ、消沈して落下するエビデ。

ドラゴンは雄叫びをあげて、目が見えないにもかかわらず、正確にエビデへ首を向け、パックリと口を開けて熱戦をはなつ。

空中を落下するエビデは、ひかりに呑まれ、その背後の溶けていく地面と同じように、跡形もなく消えてしまった。

「そ、そんな……リーダーまで……」

わなわなと震えだす、最後の戦士。

ドラゴンの前脚が自身にせまっていることを悟り、すぐに頭を蹴って空中に避難する。

視界の回復したドラゴンは、ゆっくりと落下するパトリックをまっすぐに見ている。

パトリックもまた同じだ。
そんなドラゴンのことを、悔しさに涙を浮かべて睨みつけている。

自分の運命を悟ってしまったからだろう。

またしても開かれるドラゴンの口。

これで派手な戦いも終幕だ。

「させない! ≪煉獄れんごく発火連弾はっかれんだん≫!」

巨木の影からスッと飛びだした銀髪の少女。
黒いローブに背丈にあわない大きな杖を持っている。

「がぼぉー!?」

彼女が現れた途端、ドラゴンの下顎が突如として爆発した。
それによって、ドラゴンは再度狂った熱線を夜空へはきだす……が、それだけでは終わらない。

「がお、が、がぉ、おー!?」

ドラゴンをひるませる程の強力な爆発が、連続して巻き起こりだしたのだ。

それは巨大に纏わりつく蛇ように、ドラゴンの体を爆発させまくって一向にやむ気配がない。

「パトリック! いまのうち、逃げるの!」
「ローグ、まて、まだ、サブリーダーがっ!」
「だめ! これ以上、ここにいるわけにはいかないわ!」

黒いローブをまとった銀髪の少女ーーローグは、パトリックの手をひいて一目散に走りだした。

パトリックは迷いながらも、こちらや、ジョン・クラークの消えていった森を交互に眺め……迷ったすえに、ぐっと口をむすんで地を蹴って走りだす。

「おい! ドッケピのところの生き残りと、猫級の冒険者たち! はやく逃げるんだ! もう戦線は崩壊してる! あのドラゴンは強すぎるッ!」

パトリックは大声でそれだけ叫ぶと、双剣を鞘におさめ、ローグをお姫様だっこで抱えて走りだした。

それを聞いて、最後のドッケピ凍極団、セレーナは泣きながらうなづき、猫級たちを先導して撤退の指揮をとりだす。

「……俺も逃げておくか」

ひときわやる気のあったチューリでさえ、萎縮。

「ん、魔剣の英雄、まさかとは思うが、ひとりで挑もうだなんて馬鹿な真似だけはしてくれるなよ……?」

チューリは動かない俺をいぶかしみ、うろんげな声で確認するように言ってきた。

彼の蒼穹の瞳を見つめ、俺は透かした顔をして答えた。

「誰かが、奴の気を引きつけないとだろう、チューリ」

足下に落ちていた、エビデの残したグレートソードを足ですくいあげる。

チューリはそんな俺を見て、目を見開くと、大きくため息をついて、中杖を握りしめて隣にならんできた。

「なにやってる」

黙ってならんできたチューリに声をかける。

「わからないのか。この俺もいっしょに死んでやるって言ってるんだぜ」
「……やれやれ。こんな瀬戸際で好感度あげに来るなよな」
「クク……それはお互いさまだと、言わせてもらおうか」

チューリはそう言い歩きだした。

勇敢な男だ。
ふだんはただの精神疾患者だが、こういう時に本当の勇気をみせることができる。

「本当にお前は勇敢な男だよ」
「クク、覚悟は決まったか? それでは伝説をつくりに、いざーー」

手刀しゅとうで眼前の首裏をうつ。

「ッ、な、なぜ、だ……」

お前の勇気はありがたいが、残ってもらっちゃ困るんだよなぁ。

チューリは膝をつき地面に倒れると、薄っすらと消えていく意識のなか、俺を見上げていた。

「お前は逃げろ。そして、伝えてくれ。コートニーさんに帰りがすこし遅くなる……ってな」

そう言い、チューリの取り落とした中杖を彼の腰にさし直して肩をたたいた。

「なにしてるの!? あなたたちも早く逃げなさい!」

ほかの猫級冒険者を逃がしおえたセレーナは、最後に俺たちのほうへ近づいてきた。

「僕がしんがりとして、ここに残ります。セレーナさん、僕の友人をお願いします」
「ッ、なにを馬鹿なことを! あなたひとりでどうにかなる訳がないっ!」
「それは……やって見ないとわからない」

俺は薄く笑い、グレートソードの手に、その柄に爽やかに口づけをひとつ。

我ながら最高にカッコいい演出だと思う。
軽口をたたいて、散っていく剣士……痺れるね。

「あなた、名前は……?」

セレーナはチューリをかつぎながら聞いてくる。
散りいく剣士の名を後世に伝えてくれるというのか。

律儀な女性へふりかえり、俺は口を開く。

「アーカム・アルドレア……ただの魔法剣士さ」
「魔法、剣士……アーカム・アルドレア……っ」

セレーナは俺の言葉を繰りかえし、手に持つ大杖をぐいっと差しだして来た。

「これを使って、必ず、必ず、生きて帰ってきてください」

大杖を受け取る。
セレーナは「約束ですよ……!」と、最後に言うと、チューリをかついで森を引きかえしていった。

「さってと、俺も仕事しますか」

大杖を左手に、大剣を右手もって肩にかつぐ。

天空でこちらを静観する黄金の覇者。
俺は、これからする全霊をかけた戦いのために、呑気にそいつに歩みよった。

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