記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第150話 魔剣の英雄


クモとよばれる嫌われ者界のトップランナー。
そんな彼にらによく不遇な魔物たち。

「グモォオッ」

安直な叫び声をあげ、その巨体をぞんぶんに生かし、覆いかぶさるように飛びかかってくる。

眼前。

人間を優にこえる大きさの胴体から、伸びる8本の節足がうねる槍のように、両側面からせまる。

おそい、遅すぎる。

本当にあくびが出るような速さだが、ここで鎧圧まかせの脳筋ガードするわけにはいかない。

そういうことするのは卓越した剣術の達人か、どこかの秘密結社にぞくする工作員たちくらいだ。

「せいっ!」

俺は立ち止まり、手首をかえして二閃ーー。

されど、暗きに烈風を刻みこむ……一筋で流れる曲線にむすんだ剣の二連。

8本の足を斬り飛ばして、胴体だけになったクモみたいな虫の魔物を、ヤクザキックで蹴り飛ばす。

ゴロゴロ転がっていく寸胴の有機体。

「グモ、ォオッ……」

地面に転がるそいつにむけて、弱めの「斬撃ざんげき」をはなってトドメをさす。

「ォ……ッ、ォ」

クモの魔物は、粘性の体液をまき散らし、真っ二つになっていき絶えたようだ。

これくらいなら並みの剣士の戦いなはず。
よし、一刀両断しすぎないように行こう。

「うわぁあ! 来るなぁあ!」
「グモォォォッ!」

聞こえるは命の危機をおかされた叫び声。

左後方へ首をふれば、決壊した土壁からなだれ込むように魔物たちが、要塞のなかへ侵入していくのが見えた。

「させるか!」

逆袈裟ぎゃくけさで剣を振りあげ、不可視の刃を飛ばす。

「3ォォ……ッ」

要塞に侵入しようとしていた、クモ的な虫は側面から侵入した刃に、足をなかばに、足と胴体をぶんかつして切断された。

あとに残るのは要塞の壁のシミばかり。

「信じられない、あの魔物をたった一撃で……ッ!」
「なんて高練度の斬撃波……あの猫級、いったい何者だ……?」

要塞の中、外からうろんげな声が聞こえてくる。

思ったよりみんな驚いてるのか。

俺としては称賛されるのはとても嬉しいが、狩人として、そして魔術師学生というキャラとして、
なによりジョン・クラークに怪しまれない為にも、彼らにあまりわっしょいしてもらっては困るポジション。

うむ、悩ましいな。

「ふつ!」

とか思ってる間もクモ的な魔物たちは、飽きもせず向かってくる。

「グモォォォッ、ッ」

ーーグシャッ!

飛び散る体液。
体ごとふって避ける。

やれやれ、どうやら実力を隠すとか言ってる場合じゃなさそうだ。
人命第一、救える命はすべて救う。
ここにいる奴ら誰も死なせない。

「ま、まずいぞ! あっちに大きな影が!」

虫をふたたび斬り捨てたところで、またしても誰かの叫び声が聞こえた。

見れば、もはや半壊してる要塞から、傷だらけの冒険者たちが、斬りたおされた木々のしげみを、はくしんの表情で指さしていた。

葉っぱとあいだから伸びるのは茶色い触覚。
そいつはくりっとした目のついた愛らしい顔を、木々のあいだから覗かせている。

「ゴキュゥ」

しかし、そいつがゆっくり前進して、しげみの暗闇から姿をあらわすにつれて、
冒険者たちのあいだで悲鳴と、恐怖で失神する者たちの倒れる音が聞こえはじめた。

なんということだ。
俺の苦手な分野がきてしまった。

「あれはまさか……ジャイアントローヂ!?」
「いやぁああぁあああ!」
「最悪の魔物がどうして王都近郊の森にいるんだ!」

慌ててこの場より逃げだす冒険者たち。
しかし、クモ虫たちが包囲する多足のオリを抜けられない。

オーガ級冒険者の魔術師たちが高威力の範囲魔術をもちいて、それなりに戦っているが、それでも物量がやっかいだ。

頼みの魔術師たちも、高級魔法のせいで魔力枯渇におちいった者もすくなくなさそうに見える。

「″アーカム、これはそうそうにデカイの潰したほうがよさそうかも″」
「″我輩もそう思いますねぇえ〜。あるいは戦えない人間を見捨てて逃げるのも、良策だと思えますがねぇえ〜?″」

「ふざけろ。俺は狩人だ。ああいうバケモン倒さなくてどうすん……どぅあッ!」

地面を爆破させて踏みきり、「縮地しゅくち」で、ジャイアントローヂーー巨大ゴキブリのもとへ。

「なんて踏み切りだ!」
「だが、猫級冒険者がジャイアントローヂに挑むなんてむぼうすぎる、ぼうず無茶するなっ!」
「今は目の前の魔物に集中しろ! 次来るぞぉお!」

懸命にたたかい続ける冒険者たち。
彼らの気持ちを無駄にしてはいけない。

前を向き、引き伸ばされた視界のなかで敵を観察。

全長8メートル、足は6本、松明のあかりに艶ぴかりする甲殻こうかくはみたところ……それなりに硬そうだ。

鼻先にせまる巨大ゴキブリ。
くりっとした愛らしい顔なのが余計に気色悪い。

あ、コイツ、口開いた。

「ゴキュっ!」
「ツェイ!」

高速で瞬間移動する運動エネルギーを、空中前転からのかかと落としで、方向を下方へ変換させる。

頭の上で、硬質な牙どうしが噛みあわさる音。
口が閉じられた、なかに俺はいない。

「あぶなっ、間一髪っ!」

反撃開始だ。


筋肉たちをその筋繊維一本一本を意識して、膨大なカロリーを消費してパワーをうみだす。
全身に剣気圧をみなぎらせ、俺は戦うための高度な集中状態へいこうした。

時間はふだんより、ずっとゆっくりに感じられる、上位の戦士たちだけが、会得する究極の主観時間。

まのびした時のなか、俺はスッと目をほそめ攻撃を開始する。

まずは頭上。

巨大ゴキブリの強靭な顎の下に着地して、すぐさまブロードソードを上方へはしらせる。

暗闇に銀の筋を残る。

次は、剣を巨大ゴキブリの下腹に突き立てたまま、とめて、柄をしっかりと握りしめて、ゴキブリのケツ目掛けて「縮地しゅくち」をおこなう。

剣は音もたてずに、煌めく筋だけ残して、なんの抵抗もなく空気を切り裂いた。

まだ終わらない。

巨大ゴキブリの後方から六脚をめがけ、剣圧を纏った不可視の刃を二振りーー。

そして、巨大ゴキブリの背中へ飛び乗り、ブロードソードを乱舞して斬り裂きまくる。

最後は、虫の体液が噴出するよりも、はるかに速く背中を離脱する。

「ーーとっ!」

まのびした時間がおわり、正常な音響が耳に、正しい光が、風景のあり方が目にかえってくる。

すると、その瞬間。

ーーグシャァア!

「ゴキュ、ゥ、ッ!?」

巨大ゴキブリが崩壊をはじめた。

強靭なアゴは外れてくだけ散り、腹は大きく広がって地面にきたない華を咲かせる。

人間の胴体ほどもある脚は、弾かれるように飛んでいき、空中に虫汁の弧をえがいて地面に突き刺さった。

そうして、俺はいちれんの攻撃結果を見届けて、絶命したジャイアントローヂのまえに着地した。

「ふぅ……久しぶりにこんな速く剣を振ったな」
「″もうずっと椅子に座って、本読んで、杖振ってるだけだもんね。ちゃんと修行しないと……″」
「″クックク、以前と比べてあまり成長が見られませんねぇえ〜! アーカム・アルドレア、怠惰怠惰ぁあ!″」

煽ってくる悪魔をぶんなぐり、精神世界に押しこめる。

だが、言ってる事はもっともか。
しっかり修行しなければなるまい。

日ごろの自己反省もほどほどに、俺は要塞で持ちこたえる冒険者たちのもとへ走る。

限界の近そうな冒険者の前線に加勢して、虫たちをどんどん斬り払っていく。

戦いはそれなりに長引いた。

時間が経過するごとに、魔術師だけでなく、前衛の剣士などの戦士たちの、疲労も限界ぎ来たため、後半はほとんど俺が対処する事になった。

ただ、チューリのひかえめな援護射撃もあったおかげで、俺たちはは要塞にほとんど魔物を近づけさせずに、虫たちを殲滅することに成功した。





夜も深くなったころ。

優しい灯火に照らされる、土要塞のなかでは傷ついたおおくの冒険者たちが額に汗をにじませていた。
看病するパーティメンバーたちも、皆が疲労を顔に浮かべている。

「とてもじゃないが、これ以上の進軍は厳しいと言わざるえない。思わぬ魔法生物に遭遇してしまったな、アーカム・アルドレア」

背後からやってきたチューリは、すぐちかくの、土で作られた簡易的なベンチに腰をおろした。
俺は壁に背をあずけたまま、傷ついた冒険者たちから彼へ向きなおる。

チューリの顔にも相当な疲労の色がでていることを、俺は見逃さない。

本当に厄介なことになったものだ。

ーーカチッ

時刻は23時15分。

夜も深い。
チューリの言うとおり、これ以上の進行は彼らにとって自殺行為だ。
そして、この状態で引き返すこともまた困難を極める。

「チッ……さっきの虫は何だったんだ。一種だけ、しかもあんな量が襲ってくるなんて。そういう習性の魔法生物なのか。チューリ、なにか知らないか?」
「ふっ、残念ながら、とだけ答えさせてもらおうか。もっとも、おかしなのはそれだけではない。先ほどのジャイアントローヂも奇妙だ」

チューリはキリッと引き締まった顔で、銀髪の隙間から青目を覗かせて見つめてきた。

「ポルタすら捕食するという、極めて危険なあの魔物は、本来は王都から半日歩いた程度の森には現れないはず。
それなのにどうしていたのか。これはなかなかに、ミステリアスな香りがする奇妙な現象だ」

そう言いきりチューリは、肩をすくめて涼しげな微笑みをうかべた。

「もっとも、ドラゴンクラン四天王を魔法で負かし、剣術でジャイアントローヂすら斬り伏せる、
不思議な留学生、いや……魔法剣士がいればどうってことないと思うがね」
「ふふ、感謝しろよ」

遠回しなお礼の言葉にちょっと気分が上がる。

「あ、あの!」
「ん?」

すぐ近くのひとりの男が話しかけてくる。

「本当に、本当にありがとうございました、魔剣の英雄アーカム・アルドレア! あなたのおかげで仲間を守ることができました……っ」

男は涙をながしながら、後方で安らかに休眠するパーティメンバーを指し示した。
よく見れば彼のうしろには、多くの冒険者たちが立ちならび、キラキラした目で俺の見つめてきていた。

俺は壁から背をはなして立ち、彼らひとりひとりから差し出される、そのゴツい手に握手して応えていくのだった。

魔剣の英雄……悪くない肩書きじゃないか。

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