記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第136話 大事なのは個性


俺たちが決闘場に到着した時、そこには数十人の生徒たちが集められていた。

いかにも何かはじまる予感を覚えながら、とりあえずサティを発見して彼女の隣の観客席に腰掛ける。

「え、なになに、何が始まるの?」
「筆記試験に決まってるじゃない。聞いてないの?」

さも当たり前のように言うサティ。
意味がわからない。
筆記ってなんだ、なんのための筆記だ。

「これなんの授業? 事前に何も伝えられなくて試験やるなんてことあるか? 俺、何も準備してないんだけど」
「落ち着きなさいアーク。思うにアークなら十分に解ける力がるから、ここに呼ばれてるんだから」
「なんでサティはそんな冷静なんだよ」
「だって私はひと月前から知ってたし、準備もしてきたからね」

俺は開いた口が塞がらなかった。
隣で黄金の目をまん丸にしてるカティヤと顔を合わせる。かわいい。

「あたしは何も知らなかったけど。なんでサテラインだけ知らされてるわけ? ズルくない、それ」

おや、これはカティヤさん、やや不機嫌か。
ムスッとしても可愛いんだけど。

「そりゃ留学の機会があるなら行かない手はないと思って、ちゃんと申し込みしたからよ」

サティは懐から折りたたまれた髪を見せてきた。

「ドラゴンクラン大魔術学院への交換留学の申請書……こんなのもらってないけど」
「そりゃ自分から行かなきゃもらえないわよ」
「あたしももらってない」
「だから、自分から行かなきゃもらえないって! あんた達は授業終わったら、
掲示板も見ずに直帰するタイプだから気づかなかったのね。ずっと貼ってあったのに」
「うーん、留学とか意識高い系の奴がいくアレだもんなぁ……」

サティは首を横に振り、紙を折りたたんでローブの懐にしまい込んだ。

「それで、ドートリヒトとアーク、あんた達に留学の意思はあるの? 言っとくけどあんまり軽い気持ちで行かないほうがいいわよ。来年の春から1年の留学なわけだし、費用も格安とはいえ結構かかるから」

「急すぎてちょっとって感じだけど……カティヤはどうすんだよ」
「あたしは……それよりあんたはどうすんの?」

カティヤさんに質問を質問で返される。

うーん、カティヤさんが行くなら行く的な感じでいこうと思ったが向こうも特に意思は決まってないらしい。

いや、当たり前か。今日の今日だもん。

ふむ、それにしてもまさか俺に例のドラゴンクランの留学チャンスが巡ってくるとはな。
まさかレトレシア杯での焼き魚が効いたのかな。

まぁいいか。
来年の春までは時間はあるし、試験受けてから決めれば。

「とりあえず試験だけ受けてみようかな。受かったら、またその時考えればいいさ」
「ふーん、それじゃあたしもそれでいいや。試験、早く受けさせなさいよ」
「なんで私に言うのよ。急がなくたって、どうせすぐに……ほら、先生来たわよ」

サティは決闘場の入り口を指差して立ち上がった。

見ればカービィナ先生と魔術言語学のイングリッシュ・オールドマン先生が、紙束を持ってリングに降りて来ていた。

「お待たせしましたね。これより30分間、皆さんに筆記試験を受けてもらいます。決闘魔法陣の中へお入りなさい」

カービィナ先生は杖をリング脇の手すりと打ち合わせ、パンパン、と叩き乾いた音を響かせる。

すると何もなかった魔法陣の上に複数の机と椅子が出現し、机たちは自ら意思を持っているかのように規則正しく並び始めた。

さらにカービィナ先生は杖を一振り。

オールドマン先生の手から紙たちが勝手に動き出し、机の上に配られ並べられていく。
ペンでさえ全自動で自分から飛んでいく。

「ここには急に呼び出された生徒が何人かいる事でしょう。もちろん試験を受けるも、帰るも自由です。
ただ、忘れないでくださいね。これはあなた方の人生においてそう何度も訪れない機会だということを」

カービィナ先生はそれだけ言うと、最後にチラリと俺の顔を見てから決闘場を出ていった。

「あんた言い方されたら受けるしかないな」
「ん、じゃあ、あたしも受けようかな」
「決まりね。お互い頑張りましょ」

観客席をくだり適当な席に腰を下ろす。
サティもカティヤさんも俺からは離れた席に着いた。

避けられてるようでちょっとショックだ。

オールドマン先生は皆が席に着いたのを確認すると、懐から時計を取り出した。

俺もまた懐からトール・デ・ビョーンを取り出し、フタを開けて机の脇に置く。

先生の合図で試験は開始。

一斉に綺麗な白紙の高級用紙をめくり、サラッと問題に目を通す。

見たところかなり難しい。
ていうか、これ俺の学年で解ける問題じゃなくね。

「ぅぅ……」

チラッと周りの生徒たちを見てみる。
スラスラペンが走ってるやつはいなそうだ。
サティや犬生の先輩たちでさえ、死んだ目でテスト用紙を眺めているだけ。

やはり難しいのだろうか。

手元に視線を戻す。

とりあえず解けそうな魔法陣から推測される「現象」を、記述で答える問題から取り掛かろうか。

制限時間は30分。
多分、この問題が最初で最後の問題になるかな。





「はい、そこまで。ペンを置いてください」

その声を皮切りに生徒たちが一斉にペンを放りだした。

オールドマン先生は懐中時計を懐にしまい杖を一振りすると、手早く用紙を手元に集めてしまった。

「はい、今日の試験は終了です。お疲れ様でした。それではまた後日、改めて面接があります。
詳しくはこれから配布する資料によく目を通すこと、いいですね?」

オールドマン先生は例にならって杖を振り、用紙を皆に配るといち早く決闘場を出て行ってしまった。

「アーク、どうだった?」

サティがポケットに手を突っ込んで聞いてきた。

「魔法陣の問題はギリギリ終わった……かな? あと魔力の最大効率求める奴は……絶対間違えてると思う」
「ふーん、まぁ魔法陣は魔術言語得意なアークなら行けたかもしれないわね」
「サティはどうだったんだ?」
「私は一応全部埋めたけどほとんど自信ないわ。とてもじゃないけど30分で解くなんて不可能よ」
「全部埋めたの……? 流石っすね……俺、魔術師やめようかな……」

誇張抜きの天才に表情筋が痙攣してしまう。

「あ、ドートリヒトが無言で帰ろうとしてるわね。ふふ、テストどうだったか聞いてやろうかしら」
「やめて差し上げろ、サティ。あの背中を見て察しろよ」

哀愁漂う背中が、本試験のカティヤさんの出来栄えを言葉以上に俺たちに伝えてくれた。

カティヤさんは別に座学が得意ではないから仕方ない。
有り余る決闘魔術師としてのセンスと可愛さがあるから、それだけで十分なんだ。

人は全てを得意になる必要なんてない。
タングじいさんだったらそういうはずだ。





冬休み、実家でまったりした時間を過ごす。

幾らか体の大きくなったシヴァともに、これまたすくすく大きくなっているエラとアレクたちの、癒される光景が我が家にはある。ここがエデンさ。

「さぁアーク、たくさん食べるのよ!」
「いただきます」

床上でシヴァを枕にして眠る双子を傍目に、シチューをすする。

あぁ、やはりエヴァの作ってくれるシチューはとっても美味い。

隣で「うま、うま」言いながら妻の愛情を噛みしめるアディへ、俺は先日の国外留学の話をする事にした。

「父さん、もしアーケストレスに留学する機会が会ったら行くべきだと思いますか?」
「アーケストレス? アークはアーケストレスに留学したいのか?」
「いえ、別にそこまでしたいわけじゃないんですけど、なんか交換留学制度の候補者に勝手に先生側から推薦されてて……ほら、母さん、カービィナ先生が僕のことを推してるんですよ」

向かい席の母親に話を振ると、エヴァは感心した様に声を上げてうなづいた。

「あのカービィナ先生がね。凄いじゃないアーク、あの人は神秘属性式魔術研究の第一人者なのよ。同じ神秘魔術の使い手としてアークを気に入っているのかもね。
それに彼女が推薦してくれたって事は、きっとそれはアークにとって何か得られるものが、アーケストレスにあるって事じゃないかしら?」
「なるほど。たしかにそう言われると、あの先生、結構僕に協力的なところがあるんですよね」

まぁ、恐ろしく人気のない純魔力学の授業を取ってるおかげかもしれないけど。

「私はドラゴンクランに留学に行った事があったけど、あの時の経験は私の魔術師としての人生に、大きな影響を与えたと今でも思ってるわ。
アークも好きなようにすればいいんじゃないかしら? お金はアディが出してくれるから気にせずよく考えるといいわね」

エヴァはニコリと微笑みシチューを再び食べ始めた。

「アーク、別に魔法習うだけならレトレシアで全くもって問題ないからな。
あの魔術大学だって大魔術学院とかのガチガチ学校に比べたら見劣りするけど、凄いんだからな。無理して行く必要はないぞぉ〜」

青ざめた顔で迫ってくるアディ。
もうこの人には威厳とか期待してないから、特別なコメントは必要ないかな。

「えぇ別に父さんを困らせる為に行くわけじゃないですから、安心してください。僕も訳あって少しはお金あるんで留学の費用は自分で出しますよ」

パッと明るくなるアディの表情に、やや頼りないと思ってしまうが同時にうちの父親らしいと、俺は薄く笑った。





冬休みが明けた。
秋学期の残りわずかな授業を受け、単位をもらう為に、俺ははるばるクルクマから王都に戻ってきた。

用紙を片手に廊下を歩く。

とある空き教室の前にたどり着き、俺はドアをノックした。
入室を許可する声が内側から聞こえ、俺は一言「失礼します」と、告げてから中に入室した。

「そこにお座りなさい」

中に待っていたのはカービィナ先生。
手元には数点の書類とファイルがいくつか置いてあった。

指示に従いカービィナ先生の向かい側に腰を下ろす。

「それでは簡単な面接をさせてもらいます」
「あの、カービィナ先生、僕はーー」
「えぇわかっていますとも。あなたは私たち学校側に勝手に候補生にされた事に不満を持っているのでしょうね。
ただ、これははあなたとっても良い機会です。是非とも面接を受けて行ってくださいね。時間は取らせませんよ。ひとつ、ふたつ確認するだけです」

早口にまくし立ててカービィナ先生は肩をすくめて言ってきた。

まだ何も言ってないのに、そんなに推し推しすることあるのか……?

「それでは面接をはじめましょう。まず、あなたに留学の意思はありますか?」
「えぇあります。母さんが行くべきだって言ってたんでちょっと行ってみようかと」

「よろしい。それではあなたは自分は交換留学制度を受けるに値する生徒だと感じていますか?」
「……ま、まぁでも学校側に推薦されたんで……はい、あります」

「そうですね、この質問は不毛でしたか。それでは最後の質問です。あなたはドラゴンクランに留学をして、何を得て、何をしたいと思っていますか?」
「魔術の勉強、あとレトレシア杯でドラゴンクランの生徒が、聞き慣れない神秘魔法使ってたんで、あれを覚えようかなって。
魔法のレパートリーを二桁にするのが当分の目標です。あとは……まぁ他の国の文化に触れて自身の見聞を広めたいですね、はい」

とりあえず無難な答えを並べ立ててみた。

高校入試と大学入試くらいしか面接を受けた事なかったが、おもったより冷静にスラスラ答えられたんじゃないか。

「よろしいでしょう。それでは最後の質問です」
「……ん、さっきのが最後じゃーー」

「あなたは魔術師としての自分にどんな強みがあると思いますか?」

カービィナ先生はわざとらしく咳払いをして、真顔で俺の目を見つめてきた。

「まだ続くんですね……えーと、魔術師としての僕の強みは、魔術言語や魔法陣の解読が、同級生たちと比べて得意ではあります」

「魔力量の事は言わなくていいのですか?」
「あ、そうですね、魔力量には自信があります」

「同級生たちと比べて神秘魔法が得意なのは、強みと言えるのではないですか?」
「たしかに、そうですね。比較的神秘属性の魔法が得意です」

「オリジナルスペルの保有について言及はしませんか?」
「あ、そっか、僕は珍しい魔法が使えます。ん……あれ?」

なんだこの誘導尋問みたいなのは……。
この人、俺以上に俺の強みわかってるじゃねぇか。

カービィナ先生は目元の用紙に、カツカツと記入をおえて顔を上げてきた。

「よろしいです。それではアーカム・アルドレア。新暦3056年度はあなたにドラゴンクランに行ってもらいましょうか」
「ぇ…………今のでもう決まったんですか?」

困惑してカービィナ先生の老眼鏡の奥を見据える。

「えぇ、バッチリですとも。100点満点の回答でしたよ」

カービィナ先生はそう言い、ニコリと笑うと、部屋を退出するように俺に告げた。

どうやら俺は留学生に選ばれてしまったようだ。

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