記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第135話 竜学院のススメ


俺たちのレトレシア杯は終わった。
浅瀬に散ったスクランブルエッグの代わりに、焼き魚一年分を用意したが、グリードマン先生が首を縦に振ることはけしてなかった。

今思えば天空から焼き魚がふってきて突然調理場を襲撃するなんて、十二分に予想できることだったのに、俺はそれを回避できなかった。

朝の日差しが爽やかな窓辺に腰掛け、俺はベッド上で楽しそうにする少女へ話す。

「敗因は結局のところ俺の不注意、かな」
「ふふ、やっぱりマリの弟子たるアーカムでもレトレシア杯制覇は厳しかったかぁ〜」
「なんかいけそうな雰囲気はあったんだけどな……うーん、悔しい。ドラゴンクランの奴らが決勝まで行ったのも腹ただしいし」

昨日の決勝種目は「サン・デ・ローレシア」「シルバヴェアボルフ」「クリムゾンヴァンパイア」、そしてドラゴンクランの魔術師たちの四つ巴によって始まった。

特殊決闘場での決闘風景は実に華やかで、見ているだけでも十分に楽しめるものだった。

最後はしっかりとレトレシア勢が優勝を納めてくれたので満足だが、それでも失礼なよそ者に決勝まで行かれたのは本当に悔しい。

やはり湖の底で、腕の骨折くらいはさせておくべきだったかな。

「でもでも、アーカムはあの伝説の魔物ドローゴーンをひとりで倒しちゃったんでしょ?」
「ドローゴーンって言っても、魔術学院が文献から再現して培養した、ドローゴーン(笑)だけどな」
「それでも生徒に倒されるような、軟弱な沼の主は作られてなかったはず。それをやっつけちゃうなんて、流石は悪魔すら倒しちゃう私の弟子だね!」

マリはキャピキャピ楽しそうに、病床の上で足をばたつかせる。子どもらしくて可愛いな。

ただ、注意は必要か。

「マリ、あんまり悪魔や俺の仕事の事は話題出すな。クレアさんから言われてるはずだろ。
喋ったらダメだ。あれはそんな簡単な問題じゃなかったんだんだから」

悪魔、人狼、狩人、そして宣教師たち。

アヴォンから少しだけ教えてもらったこの世界の真の構造。
そこに触れる機密に、マリはわずかだけれど、首を突っ込んでしまっている。
彼女の身のためにもあの事件への言及はなるべく避けたほうがいい。

「はいは〜い、わかってるって。それよりアーカム、レトレシア杯で大活躍しちゃったんなら、もしかしてお声とか掛かったんじゃないのー?」
「ん、何のことだよ」

マリはニコッと、イタズラっぽく笑い指先で空中をなぞりはじめた。

「知らないの〜? レトレシア杯で優れた才能を見せると、魔術の総本山ーー竜の学院からお声がかかるって言う、う・わ・さ!」

そういえばどこかで聞いたなそれ。
でも、まぁ声がかかる事はまず無いだろう。
だって、俺たちドラゴンクランの連中に恐ろしく嫌われてるからな。俺とサティなんか特にそうだ。

「はは、ないない。それに俺がマリを置いてよその学校に浮気するわけないだろ?」

キメ顔でウィンク。

「えへへ、まぁそりゃそうだろうね。アーカムはマリ・トチクルイの下僕だからね。勝手に行くって言っても行かせないよーだ」
「この数十秒のうちに弟子から下僕に格下げされてる件について」

お腹を押さえ病床で転げ回るマリ。
順調に回復してきている。
レトレシア杯に行かせなかったのは正解だったな。



レトレシア杯の熱気が残る中、俺たちレトレシア学生は、今年度の最後の授業を順調に処理していった。

「んで、ナケイスト魔法学校でやる『魔法王トーナメント』見に行く日はどうするよい!」

ほっぺに米をつけながら、オキツグは元気に食堂机を叩く。騒がしいことこのうえない奴だ。

「やれやれ、我々の希望たる子犬三大魔皇のひとりでも決勝種目に進出していれば、出場のチャンスはあったというのに……反省したまえよ、アーカム」

「それは例外枠を狙ってのことだろ? どちらにせよ子犬生のうちは出られない。
ナケイスト魔法学校主催の大会だから、こっちから勝手に出すわけには行かないだろう」

「ふぅむ。その不可能を可能にする力がアーカムにはあると思った、と言うことだよ。
君にはそれだけの期待が掛かっていたんだ。なのにまさか料理を台無しにして自滅だなんて、情けないかぎりだ」
「うぅ……さーせん」

辛辣なポール・ダ・ロブノールに頭を下げて謝る。

彼の言葉は厳しいが、それでも俺たちの世代で俺やカティヤさん、サティは特別に期待されていたのだと知ると、俺は自らのことを誇らしく思えた。

だからこそ、期待に応えられなかった自責の念は大きい。

「でも、調理の『ち』の字も知らないで、ひたすら生卵を湖底から拾ってきては、
グリードマン先生に食べさせようとしてたドートリヒトよりかはマシだろ。なぁアーカム」
「う、うーん、まぁ、うん……それはノーコメントで」

この場にカティヤさんがいたなら殺されてるだろうパラダイムの言葉を、俺は肯定できる立場にない。

けど、あえて言うのなら……たしかに酷かった。

第2種目の通過者が全て決まった時、浅瀬の反対側には、カティヤさんが持ち帰ってきた、おびただしい量の金のコケコッコの卵が落ちていたのだから。

力業を通そうとしたそうだ。

どうもあの人は料理が苦手らしい。
なんとなく、そんなことだろうとは思ってたけどね。

「あ、アークいたよ」
「やっぱり食堂にいたのわね」
「おはよう。サティ、それにゲンゼ」
「ゲンゼ……」

ガキ大将と子分の登場に、不思議と男連中に緊張感が走る。

「オキツグ。俺、最近ゲンゼディーフが可愛く見えてきちゃって仕方がないだっての。マリちゃん一筋が揺るがされてるんだっての」
「同感だよい、シンデロ。俺もゲンゼディーフとなら一生を歩めそうだよい」
「おや、奇遇だね、2人とも。最近、僕も実はゲンゼディーフの前だと、不思議な感性に目覚めそうになることがあるんだ」

「え? はは、こいつら本当に馬鹿だぜ。なぁ、アーカム。ゲンゼディーフが可愛いとか、女子じゃあるまいしな!」

肩に手を置き同意を求めてくるボンバーヘッド。
俺は迫真の表情で息を呑むゲンゼの顔を見据える。

「うん、可愛い系だけど普通に男子だろ」

やれやれ、オキツグたちは何を言っているんだ。
ここには俺とパラダイム以外に馬鹿しかいないようだな。やれやれ、本当にやれやれだよ。

「アーク、ちょっと来なさい。カービィナ先生があなたと、カティヤを校長室に読んできてって言ってたの」
「カービィナ先生……もう嫌な予感しかしないんだけど」

俺は楽しそうに笑う男たちに見送られ、カービィナ先生の待つ校長室へと向かった。





久しぶりに訪れた校長室。
ゴーレムに阻まれる事なく、入室したそこには、俺が見てもわかる魔術界の大物が集まっていた。


最奥の校長椅子に深く腰掛けるのは、うちのすごい校長、現代魔術の最高峰サラモンド・ゴルゴンドーラ。

そしてはるばる隣国アーケストレスから来たもう1人の校長。
魔法世界史学の授業で出てきた生きる伝説レティス・パールトン。

あと、まぁ凄い人らしいけど馴染み深すぎて、偉人感の少ないカービィナ・ローレンスおばあちゃん。

そのほかには、俺と同じように呼ばれた複数の生徒たちが中にはたくさんいた。

「さぁて、若き魔法使いたちよ。お主らを読んだのは他でもないわしなわけじゃが、どうしてここに呼ばれたのかもうわかっておるかの?」
「いいえ、何も悪いことをした覚えはないので、なぜ自分がここにいるのか全くわかりません」

ゴルゴンドーラ校長の質問に俺は正直に答えた。

こんな重鎮たちを集めてまで説教しだすとは、思えないがとりあえず先手は打っておかなくてはな。

「はっは、言ったじゃろう? アーカムは類まれな才能を持ち合わせる魔術師じゃが、同時に凄まじく個性と自己主張の激しい生徒であると」
「あら、わたくしは良いと思いますけどね、校長せーんせ♡ 交換留学も今回で10回目なんです。
どうせなら奇抜な才能を持った子を受け入れた方が、大魔術学院の方もレトレシアを意識すると思いまーすよ?」

ゴルゴンドーラ校長は機嫌悪そうに、パールトン校長はえらく嬉しそうに、
お互いに両極の感情を宿しながら、校長室に集められた生徒たちを見てあーだこーだと話し合いはじめた。

校長室に集められた俺やサティ、カティヤさん以外の10余人はただ立ち尽くしお互いに顔を見合わせるのみ。

そうしてわずか5分ほどジジイとババアの言い合いを眺めさせられ、俺たちは部屋を退出するように命じられた。

「え、なんだったの、今のやつ」
「わからないけど、今年の内容的に交換留学生の枠に誰を迎えるか考えていたんだと思う」

カティヤさんは指先で金銀色の髪の毛をいじりながら答えてくれた。

ところで、俺もその髪の毛触っていいかな。
ちょっと嗅がせてもらうだけでもいいんだけど。





12月28日。

とどこおりなく王都のビッグイベント、魔法王決定トーナメントが開催された翌日。

雪がしんしんと降り積もる中、俺たち学生は今年度最後の授業を終えて、来たる冬休みに喜びの花を咲かせていた。

カティヤさんにもらった、作りの粗いマフラーを巻いて帰宅準備を整える。

夕方くらいにシヴァが実家から俺を迎えに来てくれる予定になっているので、家に帰るのがとても楽しみだ。

一応、俺は狩人なのでグランドウーマを召喚してもいいのだけれど、
アビゲイルがポンポンスクロール使われると困るとボヤいていたので、
仕方なくうちの高速タクシーに動いてもらうことにした。

狩人の特典で召喚していいとか言ってたのに、新人のうちはギルドの顔色を、かーなーり、伺わないといけないようだ。

「アーカム」
「ん、なんだよ、カティヤ」

廊下の向こうからひょこっと現れたカティヤさん。

冬休みに入ったら、彼女に会えなくなってしまう。
今のうちに、たくさん姿を目に焼き付けて匂いを出来るだけ、嗅いでおかなければいけまい。

けどもちろん、そんな感情はおくびにも出さない。

「あたしとあんた、カービィナ先生が呼んでるって」
「呼んでるってってなんだよ」
「サテラインがあたしたち探してた」
「あぁなるほど。デジャヴだな」

ーーカチッ

時刻は13時15分。

時間を心配する必要はないか。

「よし、行こうか。んでどこいけばいいんだ。校長室?」
「決闘場だって」

カティヤさんは真顔で即答してきた。
それを聞き俺は率直に思った。

「なんで……?」

と。

「わからない」

またしても即答。

カティヤさんと俺は、互いに首を傾げて唸りあった。

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