記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第128話 開幕、レトレシア杯


ーーカチッ

時刻は9時43分。

お祭り騒ぎをする大通りには降りず、向かい通りの屋根からレトレシア魔術大学の校舎へ一気に跳躍する。

「わぁ、見て見てママ、本当に足だけで飛んだわ!」
「あんなの危ないからマネしちゃダメよ」
「あれがレトレシア子犬三大魔皇の一角アルドレアか」
「普通に剣気圧の使ってんじゃね。魔法も剣も使うなんて器用な子だよな〜」
「やっぱり育ちが違うんだろう。きっと高名な魔術師の子供だからあれほどの才能に恵まれたんだ」
「アーカム様ぁぁあ〜!」
「推し登場キター! アルドレア様ァァア!」

下方数十メートルの通りから聞こえる大歓声に手を振って応える。
どうやら王都民の中でも、一部では俺はそれなりに知名度ある存在になって来ているらしい。
多分、今朝方から配られ出した今レトレシア杯の注目生徒の欄で紹介されたせいだろう。

ひと月ほど前に生徒会の先輩たちに取材された時のことを思い出す。

「よっと」

魔術大学の誇る巨大な星見台「オオカミ塔」の中腹あたりの窓辺に着地。

血式魔術で作った鍵を用いて解錠だ。
塔の中に入り、窓を閉め素早く階段を登っていく。

本来なら9時に星見台に行く予定だったのに大幅に遅刻してしまった。

時間を守るのは友人との約束でも当然のこと。

サティに小突かれるのはいい。
問題はカティヤさんだ。

ただでさえマリのせいで遅刻魔のレッテルを貼られてる俺が、ひとりでも遅刻したら普段の分だけ余計に印象悪くなってしまう。
約束を守る誠実な男と認識してもらわねば、アーカム・アルドレアの沽券にかかわる。

「くっそ、あのおポチ様め……っ」

ブラッシングを何度もおかわりして可愛い遅延妨害をして来たもふもふ神を思い出しつつ、俺はオオカミ塔の屋上、星見台へ到着した。

「ちょっと、ドートリヒト、こんな日に遅刻するなんて何考えてるのよ!」
「ごめん」
「ごめんで済むなら騎士団はいらないのよ!」

けたたましく揺れる焦げ茶色のポニーテール。
直径27.5メートルある星見台の脇の方では、遅刻したらしきカティヤさんがうちの部長に怒られているところだった。
俺は心の中でカティヤさんも一緒に遅刻してた事に嬉しさを感じつつ、杖を振り回すサティに見つからないようにそっとゲンゼディーフの隣に合流した。

「ゲンゼ、おはよ」

かすれ声で話しかける。

「っ、アーク……っ!」

俺の顔を見て笑顔で大声を出そうとするゲンゼの口を押さえ、無力化する。
もごもごして大人しくなった所で解放だ。

「んぱっ、もうだめじゃないか遅刻なんてしたら。ドートリヒトさんもアークも来ないもんだからサテリィがカンカンだったんだからね」
「今もカンカンだろ。てか、俺30分前からいたけど?」
「そんなの通用しないよ、もう」

呆れて肩をすくめるゲンゼ。
茶髪の頭を撫で俺は体格のデカイ亜人たちの背後へと隠れる事にした。
頼んだぞサラトラ。

「で、アークはなんでそんな所に隠れてんのよ! 今来たのなんてわかるんだから!」

サティの怒りの矛先が変わった。
というか全然誤魔化せてないやないかい。

観念してサラトラのとぐろ巻きの背後からヒョコッと顔を出す。

「やぁサティ、おはよう、良い朝だね」
「はぁ……一昨日も2人揃って練習に来なかったって言うのに、今日もまた仲良く遅刻とはね!」

振り下ろされる杖。

「サティ、痛っ、さ、サティさん、痛いです!」
「この浮気者ぉお!」

サティの怒りの方向に困惑。
しばらく頭を抱えて防御姿勢を取っているとサティの攻撃はやみ、俺は説教タイムから解放された。

「もういいわよ! さっさと並びなさい!」
「サーイェスーサティ!」

エルトレット魔術師団が一同に会する列に加わった。

「へへ、アーカム、今日はずいぶんとたくさんお仕置きしてもらえたな」
「朝飯を七面鳥にしてやろうか。お喋りするとお前もしごかれるからな、パラダイム」
「へいへい」

隣のボンバーヘッドを肘で牽制。
こっちをガン睨みするサティに目を合わさないよう、目を泳がせる……するとキツネ亜人のテテナと目があった。

小さく手を振りにこやかに笑顔を作る。
向こうも振り返してくれた。可愛いもふもふだ。

「いい!? 今日の朝練は最後の調整をしようと思ったけど、どこかのガサツ女と女好きの不埒者が遅れたせいで練習する時間は無くなってしまったわ!」

厳しい声と目は完全に俺に向かって放たれていた。
女好きの不埒者でごめんなさい。

「私はガサツじゃない」

サティへ果敢にも反論するカティヤさん。

「ちょっと黙ってて、あんたとは後で話をつけるから!」

ギロリと焦げ茶色の瞳を見開くサティ。

「いっやぁ〜おっかいないなぁ」
「う〜ん、恐いですねぇ、ホットスワンさん〜」

修羅場にならないよう適度にふざけて場を和ませていく。このままで本気で殺し合いでも始めてしまいそうだ。

ーーブウゥゥゥンッ

親の声より聞いた風切り音。
隣のボンバーヘッドだけ飛んでいく。

「なんで俺、だ、け、ぇーーっ!」

この決闘サークルではサティがルールだ。
ゆえに魔法を撃たれる奴もまたサティの気分で決まるのだ。当然のことわりさ、受け入れろパラダイム。

騒がしいのが居なくなったところで、サティは杖を懐に収めて咳払いをひとつ、背後で手を組んでキリッと真面目な顔になると並んだ部員を順々に見渡した。

最後に俺の顔を見てくる。
薄く微笑みひとつ頷いておく。

「うん。んっん! 今日、この日に伝説を作る為に本決闘サークルは設立されたわ。幸か不幸かこのサークルには世代最高の決闘力を誇る魔術師が揃ってると自負してるわ! つまりね、ここで勝たなきゃゴミよ、ゴミなのよ! 負けることは許さないわ! 絶対みんなで勝つわよ!」

サティの白く小さな拳が高らかに振り上げられた。
リーダーの宣誓にサークル皆の気合が続く。

『『おおおぉーっ!』』

「よし、良い感じ! もうそろそろ開会式に出席しないといけないから皆、決闘サークルのユニフォームに着替えるわよ!」

サティの指示で皆が一斉に動き出す。

早速ユニフォームを着替え終え開会式に臨む準備を終える。
あとはロングコートの着衣に手こずってる亜人たちを待つだけだ。

星見台の端に歩み寄り一足先に暇していたカティヤさんの隣に並んだ。

風に吹かれて揺れる藍色の髪。
金銀の毛先を指を弄りながら彼女はよく晴れた遠くの空を見つめている。

「んっん、カティヤは今日もレトーー」
「アーク、あれを見なさい」
「ん、あれは……あれはなんですかね、サティ部長」

口開させてもらえなかった。
背後から声をかけてきたのはサティ。
彼女は遥か下方のオオカミ庭園の一画を指差していた。

「あの旗……ドラゴンクラン大魔術学院の校章だったと思う」

俺の代わりにボソッと答えた隣のカティヤさん。

「むっ、まぁ正解よ。少しはやるじゃない」
「はっ……こんなの常識。誇ることじゃないと思うけど」
「なっ!?」

冷たい言葉と金色の瞳がサティを射抜く。

まずいです、これはアカンです。

「おっとと〜! いやぁ〜! まさか隣国の魔法学校にも詳しいなんて流石はカティヤだなぁ〜! 俺全然知らなかったよ、いやぁ凄いな〜!」

すぐさま2人の間に割って入る。
青筋浮かべるサティの体をぎゅっと包み込みこんで拘束だ。

「よしよし、サティはこんな事で怒らない器の大きい人間だって俺は知ってるんだからな」
「ッ、あ、当たり前でしょ! この私がドートリヒトの安い挑発なんか受ける訳がないじゃない!」

明らかに挑発ウェルカムな感じだったけど今そのことに触れたら全部台無しだ。
話を逸らして彼女を落ち着かせる事にした。

「それで、サティ、あのドラゴンクランの校章がどうしたんだ?」
「ふふん、わからないようねアーク! この私が特別に教えてあげるわ! あの旗があると言う事はつまりねーー」
「つまりドラゴンクランの教員がレトレシア魔術大学の生徒を見に来てる。それが意味するのはレトレシアとドラゴンクランの密な交流、そして来年春の交換留学の枠をここで直接選定していると言うこと」

早口に言い切りドヤ顔で微笑みかけてくるカティヤさん。
言ってやったぜ、とでも言いたげだ。
可愛すぎて今すぐ抱きしめたい。

「たしかに聞いたことあるな。ドラゴンクランへの交換留学生はレトレシア杯で成績を残した奴が選ばれやすいっていう噂……本当だったのか」
「さぁ? あたしも噂レベルの話を小耳に挟んだだけだから」

カティヤは首を傾げサティに向き直った。

「ふっふふ、ま、まぁそれくらい知ってて常識よね……と言うわけでアーク、私たちは多分もう注目されてるからくれぐれも無様な戦いをしないように!」
「サーイェスーサティ!」

肩を震わせ凄い顔して言うサティに、俺はかん触らないよう敬礼した。





開会式、およびその後のレトレシア杯の一部の種目は、一時的に特殊な改造された巨大なドーム状のオオカミ庭園で行われる。

俺たちがオオカミ庭園へ入園した時、オオカミ庭園内部の空間が明らかに広くなり過ぎている事に気がつくのには時間は掛からなかった。

その規格外のサイズはかつて行った日本の国立競技場を思わせる。

「これは神秘属性四式魔術≪空間くうかん≫の応用を使用してるわね。オオカミ庭園自体を広げているのよ。並みの魔法使いには真似できない技だわ」

オオカミ庭園に足を踏み入れるなり、サティが俺の疑問に全部答えてくれた。

「でも、外側からじゃ別に大きくなってなかったけど」
「ふふ、そりゃそうよ。だって魔法なんだから」
「はえ……魔法って凄いな」

スーパーサイズのオオカミ庭園に新鮮な気分になりながら、俺たちエルトレット魔術師団は観客席の一角、学校の生徒たち専用ブースの隣に隣接された決闘サークル用ブースへと移動した。

レトレシア杯開会式はわずかに遅れて始まった。

開会式はローレシア魔法王国が国王デルトゥール・パルモス・アータ・エン・ローレシアと王妃イザベラ・エン・ローレシアをはじめとする、高位特権階級の来賓の挨拶から始まった。
その後には周辺国からレトレシア杯のためにやって来た多くの来賓紹介が続々と続いていった。

ーーカチッ

時刻は11時46分。

知らないおっさん達の挨拶を聞かされるだけで、早速午前中が終わりそうだ。勘弁してくださいよ。

あまりにも興味も意味を見出せない時間。
首を横に向ければすぐ隣で爆睡するパラダイム。

「すぅ……すぅ……ふ゛がっ!」

鼻をつまんだら盛大にむせたぞ。面白い。

「もうアーク、子供みたいな事やめなさいよ」
「だって話がつまらないんだもん」

俺の言葉にサティは呆れたように首を振り、再び壇上にまじめな視線を向けた。

俺も我慢して話を聞こうか……と思ったところで、見知った顔のじいさんが壇上に登壇してきた。

ーーンゥゥゥ

神秘属性式魔法≪拡声かくせい≫の発動を告げる特徴的な振動音がオオカミ庭園に響きわたった。

「ぇぇえ〜来賓の皆様ご挨拶ありがとうございました。陛下ご夫妻に置かれましてもご挨拶ありがとうございます。息災であられます様で何よりでございます。心より喜び申し上げます」

長く立派なヒゲを携えた老人ーーうちの校長ゴルゴンドーラは、口元から杖を離しニコニコと楽しそうに微笑んで一礼。
レトレシア国王はそんな彼へ軽く手を挙げて応えて見せた。

「あぁ〜そうそう、挨拶がまたしても申し遅れました。わたくしはこのレトレシア魔術大学で校長を務めさせていただいております、サラモンド・ゴルゴンドーラです。短い期間ではございますが、よろしくお願いいたします」

ゴルゴンドーラ校長は陽気にそう告げると、口元でマイクのように使っていた杖を離し≪拡声かくせい≫を解いて再び一礼した。

「わぉ、ゴルゴンドーラだよ、あれ」

「わたし、はじめて見たったぁあ! 凄い、本物だよ!」

「あれが伝説の大魔術師ゴルゴンドーラ! この僕でだからこそわかる、すごい貫禄だね!」

「森羅万象あらゆる魔を操り、一振りで大地を割り天を分かつとうたわれる天地開闢の超魔法使い……ふふ、興味深い」

「見た目はただのボケじじいなのにね〜……あんなのが現代魔術の二大巨頭のひとりとはね〜」

「そんな言い方はよした方がいい。レティス校長が最も慕っているお方なんだ。能ある術師は杖を隠す、
かの御仁こそまさに魔術師の中の魔術師にふさわしい振る舞いだ」

校長の登場に騒がしくなる隣の観客席。
聞こえてくるは感嘆と驚愕に疑念と確信。

前のめりになり視線を声する方へ傾ける。

座っていたのは見慣れない姿の生徒たち。ピッチリとしたロングコートと軍服らしき制服を着込み、制帽せいぼうを被っている。
なかなかイカす格好だ。そっち系もありだったか、と新しいファッションセンスの刺激を受ける。

総勢6人からなる小さなブースの面々はみながみな、さして珍しくもない校長の登場にえらく興奮しているようだった。

観客席の北側、そしてエルトレット魔術師団の隣なので、彼らも決闘サークルなのだろうと予想はつく。

だが……うむ、やはり見覚えがない。

肘で隣の爆睡するパラダイムを起こし、俺はとうの決闘サークルを指し示した。

「むにゃ、むにゃ、なんだよ、人が気持ちよく寝てたのによ〜」
「用が済んだらすぐに眠らせてやるから」
「いや、さらっと≪魔撃まげき≫予告やめよ?」

一気に頭が覚醒したらしきパラダイムの顎を持ち、有無を言わさず隣のサークル連中へ向けてやる。

「なぁパラダイム、あんな奴らいたか?」
「うーむ、さぁ? アーカムさんよ、この大学何人いると思ってんだよ。俺たち1回生が見たことない人くらいいくらでもいるってーの」
「ん、言われてみればそれもそうだな。よし、オッケー眠っていいぞ。おやすみ〜」
「ッ、ちょ、ま、アーカーー」

ーーほわっ

パラダイムを一撃で眠らせて椅子に座らせる。

「あれアーク、杖変えたの?」

魔法の発動に気づきゲンゼが後ろから身を乗り出して来た。

「うーん……あの杖をなくしちゃってさ。ちょっと買い換えたんだよな」
「えぇえー!? あんな高い杖をなくしちーー」
「静かにしろ!」

ゲンゼの首根っこを抑えてホールド。
こんな事サティに知れたらブチギレられるに決まってるんだ。それに俺が弱体化してる事はみんなに知られない方が良い。

自身の杖を見下ろし俺はため息をついた。

現在俺が使用している杖は、昨日のうちに「オズワール・オザワ・オズレ工房」で用意した初心者用の短杖、今朝開けたばかりの新品だ。

杖の詳細ーー「杖尺・32センチ、芯・緑のポルタの爪、筒・エルダートレントの幹、製作者・オズワール・オザワ・オズレ、彫刻・無し」ーー決して悪くはない杖だ。むしろかなり良い品だろうか。

仮にもポルタの素材を採用しているので、オズワール指数に換算するとランク3の上等品。
一般販売してる中ではほぼ最高ランクの杖ということになる。

ただ、俺は不満だった。
えらく使い難いのだ、この杖は。

杖を紛失した俺に適した杖を、わざわざオズワールが見繕ってくれたので、厚意をむげにできずこの杖を購入したわけだが、
どうしても以前使っていた「哀れなる呪恐猿ReBorN」に比べると、その性能は大きく見劣りしてしまう。

俺の決闘において大きなウェイトを占める魔法の連射性、そのかなめとなる魔力再装填値は、オズワールによると、この杖もなかなかのものらしい。
ただ、それでもまだまだ俺のかつての相棒スーパーハイパーアルティメットファンタスティックビーストと比べると、えらく≪喪神そうしん≫を連射しにくい。

「はぁ……なるほど、俺が今までどれほど強い杖を使って来たのかよくわかったなぁ……」

杖を腰のホルダーに収め、ゲンゼを解放。

「アーク、まずいよ、どうしてあの最強の杖をなくしちゃったの? 絶対にサテリィに怒られちゃうし、何より杖が持ったなさすぎるよ……っ」

声を潜めゲンゼは身振り手振りでとても残念そうに眉根を下げて言った。俺もそう思う、まじで。

2日前の悪魔との邂逅を思い出す。
まるで児戯のように弄ばれ、抗えない力を知った。

ゲンゼの頭を撫でて深いため息をつく。

「おい、貴様、顔を上げろ」
「ん?」

テンション下がっていると、ふといかめしい口調が喋りかけてきた。

ハスキーな張りのある声する上方へ顔を向けると、隣のブースに座っていた軍服の女生徒がそこに立っているではないか。
短く切り揃えられた金髪に、意志の強そうな碧眼をしており、どこか苦手意識を覚える強い眼差しをしている。

「僕、なんかしましたかね……?」

恐る恐る聞きかえし、首を傾げてみる。

「ッ、ちょっとちょっと、うちのアークに何の用よ! 喋りたかったら私に許可を取りなさい!」

音速でしゃしゃり出てくる保護者サティ。

モンペ並みの対応の早さに舌を巻く。
穏やかに行きたかったけど、手遅れ感がすごい。

貴女あなたがこの決闘サークルのリーダーか?」

軍服の少女ーー見た感じやや歳上ーーは我らのサティに向き直ると、ギラつく碧眼の瞳をスッと鋭くして睨みつけた。

「自分の仲間に躊躇なく魔法を使うことを貴女のサークルは、いえ、レトレシア魔術大学は容認しているのか?」

怒気を含んだ冷たい声。

「はぁ? なにその態度。ムカつくわ。真面目腐ったこと言ってんじゃないわよ、魔法の1つや2つ使ったからってなんだって言うわけ?」

サティは眉間にしわを寄せ腕を組み不遜な態度でニヒルに笑った。
普段サティが行ってる事を考えれば、たしかに≪風打ふうだ≫の1つや2つでいちいち文句を言ってたらコミュニケーションすらままならない。

軍服の少女はサティの言葉に目を見開き、ひどく驚いたように俺の顔を見て来た。
俺は肩をすくめて「まぁそういう事です」とサティの言葉を肯定する。

「そうか……よくわかった。やはり偉大なる我が国から魔法技術を盗んだだけの三流国家では、魔法に対する考え方までもが三流らしい」
「はぁー!? いきなりなにそれ!? あんた何様よ! ちょっと歳上だからって何を偉そうにーー」

沸点に達し、杖を取り出したサティ。

「っ」

軍服少女は機敏に反応。

「あわぁ!?」
「手グセの悪いおチビさんだ」

軍服の少女はブーツの踵で地を蹴り近づくと、サティの杖持つ手首抑えるて後ろで締め上げてしまった。

完全に腕が極まってしまっている。
これは抜け出せない。

あまりの早業に近くで2人のやりとりを見ていた生徒たちがざわめき立つ。

「おい、エルトレットがやられてるぞ」
「あのサテラインが魔法を撃てなかったのか?」
「バーカ、相手が女子だから手加減したんだろ。あいつ女子贔屓がすげぇから」

勝手な意見飛び交う中、軍服の少女は辺りを見渡しサティの拘束を解いた。

縮こまり萎縮した様子のサティはカティヤさんの膝の上に倒れ込み、泣き出しそうな顔で軍服の少女を睨みつけている。

「う、ぅぅう……!」
「よしよし、良い子良い子」

カティヤさんに介抱されるサティから目を離し少女を見据える。

「私の名はコートニー・クラーク。人間が人間になった地、アーケストレスが誇るドラゴンクランで魔術の探求に身を置く者だ。よく覚えておくがいい」

少女は俺の目をじっと見つめ鼻を鳴らすと、軍服を盛大に翻して席へと戻っていった。

「ドラゴンクラン……大魔術学院の生徒か。少しは面白くなってきたじゃん」

薄く微笑み呟くカティヤさん。

泣くサティを諌めながら、俺たちは遠ざかる威風堂々たるクラークの背中を見つめていた。

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