記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第125話 お姫様なポチ



「ぅ、ぅぅ」

腹部に鈍い痛みを感じながら目を開ける。
肌に触れる短い毛の壁。
ベッドより硬く、床より柔らかい感覚ーー絨毯に仰向けに倒れている思われる。
深く残った痛みに呻きながら、ふと開けた俺の視界に人影が映る。

それは白い顔の人物だった。

「目覚めたか」
「ぅ、あんたはたしか人狼の……」

見覚えのある真っ白な犬顔を見上げる。

「私の名前はナイト。ナイト・シャンベルだ。貴様のような不埒な輩からお嬢様をお守りする任についている」
「ぇ、あ、そうなんですか。イテテ」

思いもよらず始まった自己紹介にほうけた反応を示してしまう。

「えっと、あの、僕たいぶ気絶してたみたいで状況が飲み込めないのですが」
「おい、私が名乗ったんだぞ? 貴様も名前くらい名乗ったらどうなんだ」

不機嫌になっていく犬顔、否、狼顔。
俺は白い人狼の拳が飛んでくることにひびり、すぐさま立ち上がって気をつけの姿勢をとった。

「は、はい! 自分はアーカム・アルドレアと言う者でしてーー」
「そんな事知っている。馬鹿にしているのか」
「ぇ、ぇ、あれ?」

自己紹介をしろを言われたのに、名乗ると怒られた。
訳がわからんぜ。

「おい、貴様。あっちに背を向けたままだなんていい度胸してんじゃねぇか」
「ふぇ!?」

背後から肩を掴まれ強制的に振り向かされる。

俺の背後にもうひとり人狼がいたらしい。
立っていたのは白い人狼ーーナイトとは対照的に真っ黒な毛並みの人狼だった。
黒い人狼は牙を剥いて恐い顔をしながら、鼻先三寸まで顔を近づけて威嚇してくる。

「あっちはアウル。アウル・シャンベルってんだ。お前みたいなゴミクズで毛並みに発情する猿からお嬢様を守る為にここにいるんだ」
「そ、そうなんですか〜、へぇ」

黒い人狼ーーアウルの表情や声音から激しい怒りを感じ取った。
出来るだけ刺激しないように当たり障りのない言葉を選んで生命の危機からの解脱を図る。

「……あ?」
「え?」

睨みつけてくるアウルは顔を近づけたまま離さず威圧的な態度を維持し続けてくる。

そんな顔しなければ可愛い顔してるのにのな。
頭撫でて欲しいのかな?
いや、絶対違うよな、やめよう、殺される。

俺はアウルの態度に動揺しながらも、眼前の人狼が何を求めているのかに気がついた。

きった、ナイトと同じだ。
自分が名乗ったんだから、俺にも名乗れと言っているんだろう。
はは、わかったぞ。
そうだ、間違いない。

「自分はアーカム・アルドーー」
「んなこと聞いてねぇよ!」
「ヒィィ!」

違ったぁあ!

アウルの爆発する怒声。
ほのかに香るジャーキーの匂い。
目の前で大口開けて怒鳴り散らすものだから、直前に何を食っていたのか予想できてしまう。

と、全く関係ない事を考えながらも俺は一歩下がってアウルから距離を開ける。

「″こいつぅ! なんか凄いムカつく!″」

ふわりと胸から生えてくるように出てきた銀髪アーカム。
頬を膨らませてかなりご立腹のご様子。

「″てい!″」
「おまっ!?」

生えてきた銀髪アーカムは出てきた瞬間、速攻でその細腕を振り抜いた。
少女の華奢な拳は狙い違わずアウルの顎を打ち抜いいていく。
あまりの挙動の早さに驚愕し、止める間もないほどの一撃。
アウルは何が起きたのかわからないと言う具合に目を白黒させて床に膝をついている。

「ぁ、何が……」
「どうしたアウル?」

自身の顎を抑えながら確かに殴られた感触を得ているみたいだ。

「″ふん、生意気な犬ね!″」

とりあえず生意気な少女を掴んで中に押し込める。

「まだ酒が残ってただけだ。気にすんな」
「そうか、なら良いが」

ふぅ、ギリギリセーフ。

流石の人狼たちでも霊体アーカムまでは知覚できないようだ。
久しぶりの安堵感を得てほっと息を吐く。
そして緊張が途切れた隙を狙って俺は勇気を出して質問をしてみることにした。

「アウルさん」
「あ? なんだ変態破廉恥毛並み発情悪漢」

人称がとんでもなあ変態ネームに固定されそうな勢いだが、今はそれよりも質問に答えくれそうな雰囲気なので気にせずにいく。

これまでに得た情報から現状の背景を組み立て、今確認すべき事の中で最優先事項を選定だ。

ともすればまずはじめに聞くことはやはりアレか。
腹の底に力を込めて殴られてもオーケーな防御力を作り上げ、気力を充実させたら準備完了。

抵抗するサンドバッグになる覚悟を決めて、俺はゆっくりと声帯を震わした。

「お嬢様ってもしてしてあのい、オオカミ様でしょうか?」

俺が眠る前、恐い人狼たちに脇を固められていた時から聞こえてくる「お嬢様」というワード。

どうやら俺がぶっ殺されそうになる原因のひとつとして、この「お嬢様」が関わっているらしいという事と、彼ら人狼の上司であるという事を考えれば、まずはその正体をハッキリさせておいた方が良い。

オオカミ様は、ポチは人狼のお姫様なのか、とーー。

「そうだ。あちらを見ろ」

アウルはさも当然の事のように俺の質問を肯定し、手で俺の背後を指し示した。
振り返った先には白い毛並みのナイトと四足を絨毯につけてお座りするポチがいた。
先ほどまではポチの姿が見当たらなかったというのに。
人狼というのはポッと出現するのが得意らしい。

ナイトは振り返った俺の顔を見ながら傍でお座りしている4メートル級のビッグ犬を手を皿のようにして指し示した。

「よく聞け変態剛毛発情悪漢」

勘弁しろよ。
史上最悪のあだ名だよ、それ。

「このお方こそ貴様のような生きる価値のないゴミの命を救い、将来的に世界で最も尊い地位に即位される全生命の主人」

ナイトはそこで一旦区切り、一息ついたから続きをハッキリと大きい声で言い述べた。

「ソルティナ・ゲイロス・ヴォルフガングお嬢様だ」

ナイトは鼻息荒く自信満々に言い切る。
その顔は額の汗でも拭って一杯やり始めそうな程、充実感に満ち満ちていた。

ーーパチパチパチパチ

背後から握手が聞こえてくる。

やはりポチはただの野良犬では無かった。
というかそもそも犬ではないんだけど。

信じられないような展開に瞠目しながら、ポチーーソルティナ様をまじまじと見つめる。

深海のように暗く色の奥行きを感じさせる藍色の全容。
夜空から流れ落ちた星々のごとく、月に祝福されて銀色に輝く首回りにお腹。
太くたくましい四足はしっかりと大地を踏みしめてそこに自らの存在があるのだと確かに主張してくる。
お座りしているだけで凛々しくも愛らしいその姿。
この世のあらゆる事象を戯言とばかりに静観して、世の中見下してそうな黄金の威風堂々たる瞳に見つめられれば、
否が応でも目の前のこの超存在が真の覇者であるのだと納得してしまう。

そうだよな。
俺、なんとなくわかってたよ。
ポチが凄いって事くらいはさ。

「ナイトさん。ソルティナ様って人型にはなれな、なられら、れられないんでしょうか?」

言葉使いに気をつけつつ、もう目の前のワンちゃんが自分如きが触れて良い存在ではないのだと認識を改める。

もうポチじゃないんだ。
いや、違うか。
ポチなんてもとから居なかったのかもしれない。

何となく寂しい思いを感じながらもナイトの顔を見つめた。

「ソルティナ様は……そうだ。ソルティナ様は人のお姿にはなられない」
「そうだそうだ、ソルティナ様は人間なんて言う下等なお姿にはなれないんだ。お嬢様は本物のオオカミ様なんさ」
「そう、ですか」
「わぉ……」

ナイトとアウルの言によってソルティナ様が人間の姿になる事が出来ないことが確定した。

個人的には人型になるとどうなるのか気になるところではあるし、ポチとして今まで俺のことをどう思っていたのか聞きたい気持ちもある。

だが、もし今までずっと俺の事が嫌いだったなんて言われてしまったら、俺は立ち直る事ができない程ダメージを受けてしまうだろう。

そう言う意味ではソルティナ様が言葉を喋れないというのは幸運だったかもしれない。
だが、一方でやはり哀愁のような感情を抱いてしまうのも事実。

ポチは、ソルティナ様は一体今まで何を考えていたんだろうか?

黄金の瞳を見つめながら、その瞳の奥にある感情をすくい取ろうとする。

「わぉわぉ」

だが、俺にはわからなかった。
ソルティナ様がどのような感情を抱いているのか。
目の前の巨大な犬が、オオカミに変わった瞬間から俺にはもうわからなくなってしまっていた。


第六章 悪逆の道化師 〜完〜


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