記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第114話 本当の強者



「では、まだ時間もある事ですしぃ、すこし遊びますかねぇぇえ〜?」

悪魔はニヤつきながら手を開いてゲンゼとマリの体を離す。

通常なら糸の切れた人形のごとく落下するはずの人体だが、何らかの術が働いているのか2人の体は空中に浮いたままだ。
気を失いぐったりとした2人の体が不自然な動作で動きました。
両足は揃えてまっすぐに伸ばされ、腕を左右肩の高さまで不自然に上げられいる。

まるでキリストの磔を見せられているかのようだ。

同時にゲンゼとマリ、それぞれの背後の空間で焼き付けるような赤い光が発生した。

「やめてくれ......」

滴る水と泥で体を汚し地面を這いつくばる。
謎の魔法を発動しようとしている悪魔へ手を伸ばした。
そうしている間にもゲンゼとマリの背後の空間には、赤い光によって何かの模様が描かれてようとしていた。

「安心したくださぁいぃ、きっと貴方もお楽しみになられますぅう〜」
「ふ、ざ、げぇ、る゛、な……!」

悪魔は堪え切れないとばかりに口端からよだれを垂らしてニヤけ面をやめない。

憎たらしい悪魔の足に手をかけて握るが、ステッキでひと突きされて、吹っ飛ばされる。
自分の弱さを呪って泣きながら起き上がると、目に飛び込んできたのは2つの光だった。

「こ、これは……っ」

ゲンゼとマリの背後の空間に現れた真っ赤な光で形作られた複雑怪奇な魔法陣。
空中を焼き焦がして描かれたその魔法陣の中心にゲンゼとマリは、十字架に磔にされるようにして固定されてる。

「我輩の能力の中に、とても面白いものがありますぅ」

全ての準備は整ったと言わんばかりに悪魔はステッキをクルクル回し始め、意気揚々と喋り出した。

「他人の体に刻まれた痛みを、共有する事の出来る力ですぅぅ〜」

悪魔はステッキを振り回す手を止めて、サッと杖先をマリへ向けた。

「彼女は貴方の事をなかなか好意的に想っているようですねぇぇ〜。ゆえに、優しい我輩は彼女に想い人と同じ体を与えてあげようと言うのですぅぅ〜」
「ッ! やめろォォオオッ!」

悪魔が俺の左手を見ていることに気がつき、喉が張り裂けんばかりに叫び声を上げる。

だが、悪魔は俺の制止などお構い無しに、不敵に笑いながらステッキの先をマリの薄い左胸に当てた。

「≪ディ・トラ・ディラン≫ーー」

悪魔はささやくように発声して。

その瞬間マリの左半身が業火の如き火炎に包まれる。

「ッ!? イヤァァァぁぁあァァァッ!」

自身の体に灯った地獄の炎に堪らず目を覚ましたマリは、体を焼き尽くす激しい痛みに叫びだした。

「ぁぁぁあぁぁぁあ!」
「あーッははははははははぉぁぁあ!」

悪魔の灼熱によって服は燃え尽き、その体に刻まれていく酷たらしい焼け跡が目に映る。
皮膚はただれ黒く炭のように肌は変質しており、以前の白く美しい肢体は見る影もない。

されど火炎は止まらず、マリの苦痛の絶叫はやまない。
少女の左半身だけを集中的に焼き尽くさんとする不自然な炎は、彼女をひたすらに苦しめる。
この上ない痛みに気絶し、刹那の後に再び痛みで我に帰る苦行を繰り返す罪なき少女。

「やめでぐれぇ……やめてぇくれぇ……ッ」
「あーははは! どうしてぇぇ!? こぉぉんなに楽しいではありませぇんかぁあぁ〜!」
「いやァァァぁぁあぁあぁーー」

絶対的な悪を前に動かない体を不甲斐なく思いながら、懇願する事しか出来ない己にいらだつ。
マリを苦しませる悪魔に腹が煮え繰り返る。

何のために俺は何年も何年も己を鍛え上げてきたんだ。
全て強くなるためだったのに。
そんな強さひとつとっても目の前の悪魔には遠く及ばないとでも言うのか。
眼前で残酷な目に間に合う友達を救うことも出来ないのか。

「さぁさぁあ、次はゲンゼディーフちゃんの番でぇ〜すぅう」

悪魔は指をパチンッと打ち鳴らした。
するとマリの体を包んでいた業火は急激にその威力わ失い霧散していった。

空中に描かれた魔法陣に残るのは、あられもない姿でぐったりと磔にされた少女だけだ。
その姿は見るに耐えない。
腕と足は真っ黒に焦げ、未だに焼けた煙が燻っている。
肉焼けた吐き気のする臭いの中、胴体へ目を向ければ腰から胸にかけて炭のようなゴツゴツは続いており、真っ白で美しい右半身とのコントラストの違いがくっきりとわかった。

首筋まで炭の跡が続いてるが、それより上の顔の部分はマリの愛らしい顔が残っていた。
ただ、そんな表情は今や苦痛に歪み涙を流して白目を向いている。

「マリぃ……マリ……」

ぐったりとして動かないマリのそばに這いずっていく。
そして未だ白い右足をすがるように掴み、彼女へ懺悔をする。

俺は俺自身を責めずにはいられなかった。
これほどまでに自分が無力であることを呪ったことは一度も無い。

「では、次はこちらの彼女でぇぇ〜す!」

マリにすがる俺を見下ろすようにして悪魔はステッキを掲げ高らかに声を上げる。

「ふざけるなぁぁあ! これ以上させるかぁぁあッ!」

折れた心を虚勢の咆哮で奮い立たせる。
脚部へ全開の剣圧を掛け、爆発力を溜め込む。

眼前の悪魔のマリへの凄惨な行いが、俺の煮えたぎる憤怒に反撃の力を与えてくれたのだ。

あんな苦しみをゲンゼにも加えられて、指をくわえて黙って見てる事なんて出来るはすがない。

引き絞った脚力で「縮地」を行い、悪魔へ急接近する。

「せぁ!」

「縮地」からの「精研突き」ーー「瞬閃」を渾身の力で右拳を悪魔の腹へ叩き込む。

「ははぁ! 怒りの力、ですかぁぁ〜?」
「グッソォ!」

受け止められた拳。
消えた俺の突進力。
悪魔はただ軽く手を添えるだけで「瞬閃」の威力を完全に殺しきってしまっていた。

「なら!」
「むぅぅ?」

打ちはなった右拳を開き悪魔の手をがっちり掴む。

そして重心を極端に落とし、思いっきり足を蹴りつけるようにして悪魔の姿勢を崩しにかかる。

「オラァア!」

足払い成功。
長身の悪魔は枝のような足を放り出して無様に倒れ込んできた。

俺よりもずっと細身な悪魔の姿勢を崩れたところへ俺は地面に仰向けになる様に寝転びながら、悪魔の腹へ蹴りをぶちかました。

柔道で言うなら巴投げと呼ばれる技の殺人バージョンだ。

悪魔の体はしっかりと蹴りのエネルギーを受けて、縦穴の底を一瞬で横切って壁に突っ込んでいく。
その隙に破けた左手の白手袋を放り捨てる。

俺はポーチから銀杭を取り出し、悪魔に再生された左腕でしっかりと握りこんだ。

効くかどうかなんてわからない。

だか可能性が少しでもありそうなことを試すしかない。

「先ほどより幾分か速くなっていますがぁ、それだけですぅ」

ひび割れた岩壁から出てきた悪魔はちりを払うようにして汚れていない服をはたいた。

「ではぁ、こちらのばぁ~んッ!」

悪魔の姿がかすむようにして一瞬で距離を詰められる。

「ヒッ……!」
「人間の分際でおこがましいですよぉぉ!」

豪族の前蹴りが一瞬で迫ってくる。
長身の悪魔のその長い足をめいいっぱい伸ばした脅威のリーチ。

先ほどではまったく反応できなかった一撃が今度は少し見えるようになっている。
大丈夫、目が慣れてきている。

左手に握られた杭を指で弾くようにして空中へ。
そして蹴りの打ち込まれる腹部へ空いた左手をすぐに移動させ、掌底で槍のようなつま先を受ける。

ーーギイイ

「無駄ぁぁあ~!」
「くぅ!」

核弾頭でも仕込まれてるのかと錯覚するほどの衝撃力を持った蹴りだ。

俺の自慢の鎧圧に易々と亀裂が入る。

極大のインパクトで全身が破壊されれば終わりだ。
運が悪けりゃ死に、良くても抵抗は出来なくなる。

さっきと同じ状況ならばそうなっていた。

悪魔だって俺が怒ったところで埋まらない差というものを理解いるから、これほど次の動きに繋がらない無防備な蹴りを放って来てるんだろう。

これで終わり、てな。

”そうはならねぇんだよ、これが”

「全部返してやらぁあッ! 悪魔ぁあッ!」

雄たけびを上げ蹴りの威力をすべて壊れかけた鎧圧へ受け流す。
すぐさま鎧圧に蓄えられたエネルギーを左手から、右腕へ収束させていく。
選ぶのは「貫手」だ。
腰をひねり、手先の鎧圧を螺旋状に巻いた一撃。
神速にして致命の一撃は、その算術級数的に加算される運動エネルギーに応えて、空間内の空気を圧縮しプラズマを発生させる。
視界いっぱいで煌めく閃光。

悪魔の心臓へ、己のすべてを乗せた神槍を放つ。

「フルァアッ!」

穿ち、貫く、命中だ。

ーーバギィィンッ

まるで金属の錠前のたかが外れたように、悪魔の右胸部と右腕も根こそぎ千切れ吹き飛んだ。

岩盤を打ち抜いたような音が縦穴に響き渡り、あまりにも素早く手を打ち出したことによって発生した風の暴風が、縦穴のそこに長大な地下トンネルを一撃で開通させた。

俺の手先は狙いたがわず正確に悪魔の胸部を打ち抜いたのだ。

「あ、ぐあdッだs;!」
「まだだ!」

超速で吹き飛ぶ悪魔へ更なる追い討ちをかける。

圧縮された意識の中で「縮差」を使い、極小時間の後にすぐさま開いた間合いを詰める。

遠ざかる悪魔の枝のような足首を掴み引き寄せ、空中を舞う銀杭キャッチ。

爆散する胸部の傷口に突き刺した。

「もう飛んで良いぞッ!」
「がア、sぁあッp、gッ!」

引き寄せた悪魔にさらなる膝蹴りを食らわせ、吹っ飛ぶ方向を横穴トンネルの暗黒の中から縦穴の中腹あたりに修正。

あまり遠くに行かれると厄介だ。

ーードガアァァッ

壁が大きく割れていき縦穴の崩壊が始まった。

今までとは違う完全に肉体へのダメージを確信した。

「やった……俺は、やったんだ……ッ」

俺の「操力鎧圧波そうりきがいあつは」が奴の不思議な防御層を超えたに違いない。

「っ、マリ、ゲンゼ!」

崩れ行く穴の底で、悪魔のめり込んだ壁から一瞬だけ視線をはずし友人達へ視線を向ける。
解放された2人を、特にマリの治療は火急の要件だ。
今すぐにでも高純度のポーションを服用しなければ命に関わる。

「あ」

間抜けが声が漏れる。
振り返ってから俺は気がついた。
ゲンゼとマリは未だ魔法陣に囚われたいたことに。

「かなりイイ突きでしたよぉぉーー」
「ッ!?」

耳元でささやかれた声に戦慄しすぐさま振り返る。
だが、そんな時間を与えてくれる甘い敵ではない。

ーーバギギィッ

「が、ぁ、はぁ!」

命を犯す粉砕音。

腰の辺りに強烈な衝撃が走り、背骨の断層がいとも容易くばらばらに外された。
正面から確実にガードしても集中した鎧圧を叩き割る怪力だ。
背後からの不意打ちなどとてもじゃないが耐え切れない。

威力が全身を駆け巡っていき吹き飛ばされーーない。

「ぁ、が……ッ!?」
「お返しですぅぅ」

悪魔は吹っ飛ぶはずだった俺の首根っこを掴んだ。

「ぁ、あがぁ、ぁぁあ……ッ!」
「あーはははははぁ!」

鋭い痛みが背中から胸部へ駆け抜ける。
痙攣する全身の筋肉。

目だけを動かし下方を見れば、そこには胸から生えた真っ赤なステッキの先端が見えた。

鮮血がしたたり、糸のような粘性の赤い繊維が絡みつくように付着している。
この赤いのは全てが俺の血だというのか。

「ぁ、ぁあがぁぁあッ!」
「心臓を壊されるのは痛いぃぃでしょぉぉ!? おーほほほほ! あーっははははッははは!」

沸騰する脳みそは不死族の血を引く俺に確実な死の予告を知らせてきた。
いくら常人よりも回復能力に優れる半吸血鬼だからといって、心臓破壊は致命的だ。

「あーっははははははは!」
「ぁ……あ、ぁ……ぁ、ぅぁ」

自分の体が急速に冷たくなっていくのを感じる。

これが命の終わり、というやつなのだろうか。

指先の感覚がない。

あの悪魔の高笑いだけが聞こえる。

「あーッ、調子に乗った人間にやり返してやるのは、なんて楽しいんだぁぁ!」

胸からステッキが引き抜かれる。

「ぁ、ぶぁ、ぅ……」
「ほら、今の顔をよく見せてくださ、あーっはははははっははははっ!」
「く、そ、ぁ、ぁ」

悪魔は俺の顔を正面から見つめ大爆笑をし続けていた。

人の顔みて笑いやがって。
何がそんなに面白いんだよ。

「あー、最高に楽しませてくれてありがとうございますぅぅ~! 我輩、貴方には感謝しても仕切れませんぅぅ~!」
「ぁ……ぅ、ぼへぇ……」

口内が血の味しかせず、視界もかすんできた。

あぁ、いよいよ終わりが迎えに来たのか。

「大丈夫でぇすぅぅ~。貴方の体はこのデァ・ビー・ラァ・ァダス・ベスト・ソロモンが丁重に使わせていただきますぅう~!」

悪魔はニヤニヤを笑いながら、白目のない真っ黒な目でこちらの瞳を覗き込んでくる。

「さぁ、我輩の瞳を見るのです」
「ぁ、ぁぅ」

悪魔の言葉に抵抗する気力など当に失われている。
俺は言われるがままに、もはやほとんど開いていない目を悪魔の瞳に捧げてしまう。

するとニヤリと邪悪に微笑む悪魔と何か繋がりができたような感覚を得たのを俺は感じた。

まるで自分の奥深くへ通じる門をを自らあけてしまって、道を開通させてしまったかのようだ。

本心では拒んでいるはずなのに悪魔を自ら招き入れてしまうなんて。これもまた秘術のひとつなのか。

「では、いただきますぅぅ。≪ドル・ディ・モーラ・テスーー」

ほとんど働かなくなった耳へ、悪魔の心地よい声音で詠唱される歌が入り込んでくる。

クソ、こん、な……とこ、ろ、で……。

お、れ、は……お、れ……は……。

ご、めん……あ、かむ……。

「……」

……。

「……」

……。

「……ぁ……?」

予感していた終わりが来るのが遅い。

なんだか死ぬタイミングをじらされているようで逆に腹が立ってきた。
いや、この悪魔に対する怒りなど当の昔に許容量を超えてしまっており、逆に親しみすら沸いているのだが。

おい、悪魔、やるならさっさとーー。

「どういうことですかねぇぇ……?」
「わぉ」

ーードサッ

「ぶ、ぐ、ぅ……っ!」

体が急に落下して口から大量に吐血する。
この衝撃……悪魔が俺の体を取り落としたらしい。

何が起きているのかわからない。
だが、近くに確実にいるはずの悪魔の声から尋常じゃない動揺が感じられる。

「はぁ……何者ですかァァァア! 名を名乗りなさいぃぃぃイイィ!」

悪魔の怒声に全身が震える。
凄まじい声量だ。
俺は何か異変が起きたのだと察知し、最後の力を振り絞ってまぶたを持ち上げた。

薄く開かれた目にまず飛び込んできたのは、先ほど心臓をぶっ刺してくれた悪魔。

だが、今は長身のその悪魔の腰は引けており、普段のピンと伸ばした姿勢に比べればひどく不恰好で情けない姿だった。
一体何にそんな怯えているのかと、狭い視界を悪魔の対面へ移動させる

対面者には見覚えがあった。

深い藍色の毛並み。
首周りからおなかにかけて煌く銀色のもふもふ。
最近冬毛に生え変わったせいで過去最大のボリューム感を博すある種の神。
四肢をついて佇む姿は凛として勇ましく、正眼を鋭くにらみ付ける黄金の瞳には誇り高き英知が宿る。

「名を名乗れと我輩が言っているのだァァァァああ!」
「ぁ、ぁ……ぁ」

悪魔に腰を引かせ、その偉容をたたえるのはーー。

「わぉ」
「わぉ、じゃないぃぃぃぃぃいッ!」

「ぽ、ち……?」

もふもふ神が降臨した。

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