記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第107話 ライバル



王都東第1区、金持ちと権力者たちしか住んでいない、トゥマトン区と呼ばれる貴族街の通りを歩く。

「エースカロリたちって王都に住んでたのか」
「王都ローレシアにいる狩人は7人。うち4人がエースカロリの人間」
「え、あのちびっ子たちも狩人なの?」

恐ろしい発言をするエレナに訝しむ視線を向ける。

「あの子達は違う。私とアンナのお母さんとおばあちゃん」
「ベテラン方面の方々か」

つんと澄ました顔で白く華奢な指を折ってみせる女狩人。
ともすればこの王都の協会防衛戦力はエースカロリ家が筆頭だという事か。

「狩人って、王都にはアヴォンしかいないんかと思ってたぜ。案外いるんだな」
「それでもローレシアは少ない方。ヨルプウィストとかゲオニエスはかなりの数いるから」

エレナはそう言って浅く微笑んだ。
軽く笑い返しておく。

「ところでサイズ平気だった?」

エレナが俺のズボンを見て聞いてきた。

俺は自身の服装に視線を落とす。
今はエースカロリ家で見繕ってもらった大きめのジーンズとシャツを借りて着ている。

まさかこの世界にデニムがあるとは思わなかった。
女系貴族はオシャレに敏感ってことなのかな。

狩人装束から予想できたが、エレナ自身も普段着がおしゃれだ。
真っ白のフリフリの付いた短いスカートに七分袖の水色のシャツ。
俺にはイマイチファッションとか分からないのだが、多分エレナがおしゃれなのはわかる。
ただ、肌寒い気温の中そんな薄着に短いスカート履いているのを見るとこちらも寒くなるので、出来れば温かい格好をして欲しいけれど。

「それ寒くないの? そのー、綺麗な足が見えちゃってるけど」

批判っぽくならないように、思いつきの褒め言葉を挟んでおく。
白く筋肉の締まった肉つきの良い太腿は大変魅力的ではあるんだけどね。

「ふ、ありがと。でも全然平気。魔法使ってるでしょ?」

エレナはそう言って両手を広げてみせた。
うむ、たしかに火属性の魔法で体温を上げてる。

「杖だけでいいのか? 俺はいつでも油断するなって教えられたけど」

エレナがあの鎌を持ち歩いてないことを指摘。

狩人たるものいつ何時も油断するなーーと、俺の師匠テニール・レザージャックはよく言っていた。
その師匠のお言葉からすると、現在のエレナは軽装も軽装。
杖だけなんて油断もいいところだ。

「私は体術も魔術も得意。そっちこそ初めてあった時武器持ってなかった」
「俺は体術も魔術も超得意だからいいんだよ。レザー流って言うんだぜ。すごいだろ」
「知らない、そんな田舎者の流派」

エレナはそう言うとクスリと笑った。
焼き直しの会話に俺も釣られて笑う。

なんだか可笑しくなってしまうな。
昨日まで本気で殺しあってたって言うのに。

透き通った笑みをみせるエレナの顔を見ていると、バケモノのように強いこの女子も普通も女の子なんだと思えるようになってきていた。

「エースカロリ、昨日は悪かった。ちょっとムキになっちゃって」
「別に。私もだいぶムキになってたからお互い様」

エレナは涼しい顔で首を横に振った。
こちらから力を使ってしまったのに、こうも潔いとかえって調子が狂う。
彼女には面目ない気分だ。

「その、なんで、あんなに強くなったとか聞いてもいいか?」

家の食卓じゃ何か聞いちゃいけないオーラが出ていたので聞けなかったが、やはりどうしても気になってしまう。

アヴォンの発言などから、何かしら特別な力がエレナにはーーというかエースカロリにはあるのだと思うのだが。

「それは秘密で。ミステリアスな方が魅力的でしょ?」

エレナは流し目を送ってくると優美に首を傾げ、ニコニコ笑いながら小走りで駆けていく。
そうして、少ししたところでこちらを振り返り立ち止まった。
ちょうど広場の噴水が背後に見える。

美少女と朝日、そして噴水広場ーー。
なかなか絵になるな。

「私ね、完全回復するまで時間がかかるの」

エレナは両手を腰の後ろあたりで組んで、ゆっくりと歩み寄ってくる。
俺も足を止めて立ち止まる。

「そういう力なの、アレは」
「リスクが大きいんだな」
「えぇとっても」

エレナは少し暗い表情になって続けた。

「正直な話、私はあんたの力を認めてる。最初の邂逅の時にわかってた。地力に差があるってことは」
「あの力は地力じゃないと?」
「そういうわけじゃないけど、ね」

含みのある笑みを浮かべて、少女は俺の前まで来ると立ち止まった。

「決闘前の4日間。あれはあなたの体力の回復を待つための時間じゃなかったの」
「それじゃ、一体?」

眉根を寄せて肩をすくめてみせる。

なんとなく予想はつく。
急に馬力が上がったエレナ。
きっと「何か」したんだろ。

「ふふ、それは秘密」
「そうかい」

肝心な事は教えてくれないんだな。
じらしプレイかよ。

焦れったい対応に不満げな俺を見て、エレナは楽しそうに笑った。
するとエレナは眼前でつま先立ちをして、寄りかかるように耳元に口を近づけてきた。

「私は認める、あんたが狩人になる事」
「じゃあ俺、狩人になっていいの?」

見上げてくるエレナを驚愕して見つめる。
戦いに負けて勝負に勝ったと言うんだろうか、これは。

俺の様子に満足そうに頷き、エレナはくるりと回って再び前を向いて歩き出した。
俺も彼女の背中を追って歩き出す。

「9歳で狩人になるなんて、もう誰もそんな記録超えられなくなるね」

エレナは半眼になってジト目を送ってきた。
自身の記録をこうもあっさり塗り替えられるとは思っていなかったのだろう。

「はは、確かにね。でもあと1日早ければ8歳だったんだぜ?」
「あれ、今日誕生日なの?」
「昨日な」
「そう、誕生日おめでと、アーカム」
「さんきゅー」

小走りしてエレナに追いつき隣りを歩く。

「あーあ、早かったな。あんたがいなければ最年少記録保持者だったのになぁ」
「今度は最年少筆頭狩人記録でも目指せよ」
「はは、いいかも。それじゃどちらが先に筆頭狩人になれるか競争」
「あぁいいだろう、エースカロリ」

少女小さな右拳にこちらも左拳を小突き合わせる。

エレナの白く柔らかい肌とは対照的に、黒く炭のように焦げた醜い掌ーー。
人狼マークの丈夫な手袋も≪最後のThe Goal場所Of All≫を使うと買い替えなければいけなくなる。
それゆえに、俺の左手の火傷跡は現在は隠されていない。

「何、くぐってきた修羅場の数が違うとでも言いたいの?」
「ぇ、あ、いや、そういう訳じゃ」

エレナが恐い顔して睨みを利かせてくる。

うぅ、その顔やめてくれ。
マジでトラウマなんだ。

「ぅ、ぅぅ」
「ふふ、あはは!」

ヘビに睨まれたカエルの如く震えていると、エレナは突然快活な笑い声を通りに響かせはじめた。

「もう、エースカロリなんて他人行儀な感じやめてよ。エレナでいい」
「さ、左様でございますか」

そう言うとエレナは堪え切れなくなったように吹き出しながら走り出した。

「大通りだけ! 屋根上禁止! あんたのアパートまで競争ね!」
「え、でも調子悪いんじゃ……
「いいの!」

なんだよ、止まる気配ないと思ったらガチ走りかよ。

ーーカチッ

時刻は8時47分。

今日は平日で、普通に学校がある日なのでこの申し出はこちらとしては有難い。
はやく帰って学校の準備しないとだからな。

「受けて立とう」

脚部に剣圧を集中させて刹那ののちに音を置き去りにして走り出す。
もちろん地面さんは慈愛と優しさを待って踏みしめさせてもらう。

基本的な筋力が普段とは違う体に満足しながら、185センチの体躯をフル稼働させてトゥマトン区貴族街を駆け抜けていった。



「ぜぇ、ぜぇ、はぁ、はぁ……」
「だから言ったろ? 無理すんなよ、調子悪いんだろ」
「うる、さい、はぁ、はぁ」

肩で息しながら顔色悪くなっているエレナの背中をさする。
なんだが今にも朝食をリバースしそうな顔だ。
あんなにパン食べまくってたんだから、そりゃ気持ち悪くもなるだろう。

「それじゃな、俺は学校あるから」
「はぁ、はぁ、そう」

エレナは俺の肩につかまり何とか直立。

「そういや、俺ってもう狩人って名乗っていいのか?」
「はぉ、いや、ギルドに言いに行かないと。また何日かしたら勝手にアヴォンあたりが接触してくるんじゃない」
「ふむ、アヴォンは家教えてくれないんだよな。エレナはあんな簡単に教えてくれたのに。なんなら泊まらせてくれたのに」
「私たちは一応貴族だから。調べればすぐわかる事だし、別に隠す気もないから。エースカロリは拠点だっていくつも持ってる」
「狩人みんなで共有?」
「なわけない。エースカロリ専用」

エレナを支えてやりながら今後の方針を固めておく。
とりあえずはしばらくアヴォンからの接触を待つ感じでいいらしい。
なんかあったらエースカロリの家に来るようにエレナ言われた。
普通に遊びに行ってもいいらしい。

「それじゃな」
「えぇ、またね」

通りを歩き去るエレナの背中を見送る。
アヴォンとかと別れる場合はいっつも「解散!」って感じで一瞬で消えてしまうので、なんだかトロトロ歩いているエレナを見ると不思議な気分になる。

やはり、相当調子が悪いんだろう。
競争の勝負は止めてやるべきだったかもしれない。

「さて、と、あれ、ポチ?」
「わぉぅぅぅ」

エレナの姿が曲がり角で見えなくなったあたりで、振り返るとそこにはポチがいた。
普段は中庭で会うのに、今回は玄関先での遭遇だ。

「おはよ、ポチ。お前は今日ももふもふってるなぁ」

冬毛を暴力的なまでに携えたもふもふ神を崇めるべく両手を広げて近づく。

「わぉ」
「あれ、なんで避けるの」

ポチは後ずさって俺の抱擁を躱してくる。

「あ、そっか、俺が誰だかわからないのか」
「わぉわぉ」

自分が大人モードーー元の姿ーーになっている事を忘れていた。
杖を取り出して≪魔力蓄積まりょくちくせき≫の魔法をかける。

この魔法はカービィナ先生にアンディアをもらって、魔力を溜め込む神秘属性三式魔術≪蓄積ちくせき≫を独自に調整したものである。
効果はネーミング通り俺の体から溢れ出る大き過ぎる魔力を抑えるというもの。
同時に何故か身長も抑える事に成功したので、身長を抑える役割も持っている。

本来≪蓄積ちくさき≫の魔法は≪解放かいほう≫の魔法で魔力を解き放つのだが、俺の場合は魔力の解放の仕方にもアレンジを加えてある。

知っての通り≪最後のThe Goal場所Of All≫だ。俺の魔力は一度解き放つと、魔力の流れを操作するのが難しく全てを使い切らない限り安全を確保できない性質がある。

それゆえに魔力解放量に安全装置の組み込ませた定型魔法≪解放かいほう≫ではなく、
解放できる魔力量のリミットを外したオリジナルスペルが必要になった。

「≪魔力蓄積まりょくちくせき

すくすくと身長が縮んでいき165センチへ戻る。
これでも9歳児としては馬鹿でかいし、同級生たちの中では抜きん出ているが、これ以上は縮んでくれないらしいので仕方ない。

「わぉ!? わぉわぉ!?」

ポチが目を見開いて見るからに狼狽している。
口を変な形に開けたまま首をぶるぶるふって変な動きだ。

「ポチポチポチ、大丈夫。俺だよ」
「わぉ!?」

あとで身長が小さくなるのはわかっていたので、服のサイズ自体は少し大きいだけで済んでいる。
逆にさっきまでは凄いピチピチだった。

「よしよし」
「わぉ」

暴れまわったせいで乱れたしまったポチのマフラーを丁寧に巻き直す。
餞別の日にカティヤさんにプレゼントしたはいいが、それをゴミ捨て場ポチが拾ってきて、現在はポチの基本装備になってしまったマフラー。
と、ここである事を思い出した。

そうだ、手袋編まないと。
昨日作ってたのはもう地面の下だろう。
新しく編み直そう。

「なぁ、ポチ」
「わぉ」
「カティヤさんの誕プレさ、手袋でいいと思うか?」
「ばぁお!?」
「う、うわぁ! どうしたポチぃ!」

ポチが満面の狼スマイルしたまま謎の動きを始めた。

「ポチ、ポチ落ち着け!」
「わぉぉ! わぉ!」

結局、最後まで落ち着かずに尻尾をブンブン振り回したポチは屋根を飛び越えてどこかへと行ってしまった。

「なんだったんだ……今の……」

俺にはただポチの消えていった空を見上げることしかできなかった。

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