記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第106話 エースカロリ家の朝



目覚めた時、そこは見知らぬペットの上だった。

「ぁ、生きてる」

体の内側に宿る心地よい熱を感じて、まだ自分が死んでいない事を実感する。

ぼんやりとする頭。
視界はクリア。
耳は良く聞こえる。

体は健康だ。

ーーチュンチュン

小鳥のさえずり。
あくびが出そうなほど呑気な鳴き声のする方へ首を向ける。
瞳に陽の光が直に入って来た。眩しい。
寝台の近くに小窓が付いているらしく、すぐ窓の外の木々のに朝の声の主がとまっているのが見えた。

「ここは……?」

上体を起こしてあたりを伺う。
誰もいない。
すぐさま剣知覚を使って人を探す。

いた。

ベッドから降りて、部屋を出る。
まずは気配を捉えた場所へ向かおうか。

部屋を出たらそこは長い廊下だった。
どこかの高級ホテルにでもやってきた気分だ。

気配を辿って廊下の突き当たりまで歩くと、階段を発見。

階段を下っている途中で何かを焼くいい匂いがして来た。

「……ぁ」

階段を降りたところで気配と鉢合わせる。

「え、と、これはどういう状況、ですか?」

目の前に広がる意味のわからない光景に唖然とする。

「お兄さんが起きたぁー!」
「あはようございます! お兄ちゃんカッコいい!」
「わぁ、今朝も兄様イケメンです!」

無邪気な声たち。
階段を降りた先の広いスペースでは無数の梅色の少女たちが所狭しと机に並んでいた。
みんなこちらを眺めて楽しそうに笑っている。

「アーカム様、あはようございます。わたくしはエースカロリ家でメイドを務めさせていただているガーラと申します」

ふくよかなおばあちゃんが丁寧なお辞儀をしてくる。
慌ててこちらも頭を下げる。

「ど、どうも。アーカム・アルドレアです」
「はい、存じ上げております」

あ、そうですか。
何がなんだか分からず落ち着かない。

「あの、えっと、ここはーー」
「ただいま朝食の準備をしておりますので、そちらのお席に着いてお待ちいただけるようお願い申し上げます。ほら、席を開けるんですよ、お嬢様方」

家政婦、ではなくメイドのガーラは長机にすわる3人の梅色少女たちへ言い掛けた。

「お兄さん、こっち座って!」
「お兄ちゃん、こっちの方がいい匂いするよ!」
「兄様はローザと座るの!」

なにやら言い争う梅色少女たちを避けて、適当に席に着く。

こいつら、なんかみんなエレナみたいな顔してんな。髪色もそっくりだし。

あれ、てかエレナって……。

「ッ」

彼女の事を考えた途端に、震えが止まらなくなる。
昨日のエレナの事をを思い出したからだ。

俺が≪最後のThe Goal場所Of All≫を使ったのにまるで歯が立たなかった。

一体あれは何だったんだろうか。

魔力の放出するとハイな気分になってしまうため、当時の記憶が曖昧になってしまう。
そのためあの時、具体的になにが起こっていたのかは鮮明思い出すことは出来ない。

ただ、わかっているのはエレナが驚愕に値する力を秘めていたこと。
そして彼女に対する大きな恐怖を感じたことだけーー。

「お兄さん、大丈夫ー?」
「ぁ、ぁ」

隣に座っていた梅色の少女が首を傾げている。

「寒いの? スーザが温めてあげるー!」

少女は震える俺の手を取って両手で握ってくれる。
その手は温かく柔らかーーくない。

「なんかずいぶん、硬い手、だね」

少女の手の平をふにふにしながら気になって、彼女の健康的な白い足を持ってみる。

「さすさす」

すごい筋肉だ。
どんな鍛え方をしたらこんなになるんだろうか。

「あぁ! お兄さん大胆なー!」
「わぁ、スーザが襲われちゃう!」
「兄様ぁあ!?」

スーザと呼ばれた少女は震える手で必死にスカートの端を抑えはじめた。

相手が子供だからってちょっとデリカシーなさ過ぎたかな。
反省してスーザの足をゆっくり降ろす。

しましまのパンティが見えた事は言わない方が良さそうだ。

「はは、ごめんな。よく鍛えられてる足をみたらつい」

ちょっと変態チックな発言になってしまった事に言ってから後悔する。

「スーザは許してあげます! お兄さんは家族になるかもしれない人なのでー!」

少女は頬を染めながらもニコニコ笑いながら許してくれた。こちらを見上げて何やら楽しそうにしている。
すると向かい側の席に着いていた梅髪少女たちも、ちょこちょこと可愛らしく歩み寄ってきた。

「家族?」
「そうですー!」
「俺が?」
「お兄ちゃんはエルザたちのお兄ちゃんになっちゃうの!」

少女たちの包囲網に完全に囲まれて、ちょこんと椅子に座りながら首を傾げてしまう。

なんか、記憶飛んでんのかな、俺。
いきなり過ぎて、話が見えない。

まわりの少女たちの顔を見る。
皆キラキラした目で見上げてきている。
さも俺が尊敬できる兄貴であるかのように。

「ん?」

ここでとある違和感に気づく。

自分の視線がやけに高いのだ。

「あ、≪魔力蓄積まりょくちくせき≫解けちゃってるのか」

自身の身長が180センチを越える筋肉マッチョの元の状態だと気づく。
自分の体を見下ろす。

ちょっと自分でも怖くなるくらいの筋肉・オブ・ザ・筋肉だ。

この状態じゃ学校にはいけないな。
みんなに怖がられてしまう。
てか、引かれてしまう。
てか、キモがられてしまう。

後で魔法かけ直しておこう。

しばらくすると先ほどのおばあちゃんメイドーーガーラが鍋のような物を運んできた。

「お食事のご用意が出来ましたわよ」

ガーラは鍋を机の真ん中に置くと、おたまをその中へぶっ刺した。

「好きなだけお食べくだざいませ」

ガーラはそう言ってニコリと笑うと厨房へ戻っていった。

なんか、メイドってよりもっと庶民的な家政婦さんって感じだ。
金持ちなら綺麗に皿に盛られた料理を食べるだろうからな。多分、自分で好きなだけよそって食べるって感じの食べ方はしない気がする。
このちびっ子たちは庶民だ、貴族じゃないな。
俺にはわかる。

「うま、グッド」

この家が貴族だったら怒られそうな事を考えながらも、鍋からシチューを小皿にすくって、スプーンで口に運ぶ。

「今日もおいしー!」
「ありがと、ばぁば!」
「ローザはパンも食べる!」

少女たちはわいわい賑やかにシチューにがっつていく。
いい食いっぷりだ。
とても元気が良い。

「あのさ、ここってエースカロリ家って言ってたよな」

ガーラの持ってきてくれた、焼きたての良い香りのするパンをちぎりながら、隣の梅髪少女スーザに話しかける。

「そだよー」

スーザは口の周りをシチューで汚しながらニコニコ笑って答えてくれた。
ナプキンを使ってスーザの口周りを拭っておく。

「てことは、あれか? ここは狩人エレナとアンナの、えっと、実家?」

確かエレナとアンナは年の離れた姉妹だった気がする。
机で幸せそうに食事をしている梅色メンツを見る限り、おそらく彼らも姉妹なのではなかろうか。

血縁者なのは確定。
めっちゃ顔似てるもん。

「そだよー。エレナはスーザたちのお姉ちゃんでー、アンナ・エースカロリはスーザたちのお母さんー!」
「ほぅ……うーん、そうか、なるほど」

一瞬混乱したが、なるほど了解した。
こいつらアンナの子供たちだったのか。
てっきりエレナの妹たちかと思ったんだけどな。

てか、アンナはあんなに若いのにもう3人も子供がいるのか。

はは、お気づきになられたかな?
ほらほら、アンナとあんなにが掛かってーー。

「ぅぅ、良い匂い」
「ッ!」

くだらない事を考えていると、通路の陰からトラウマがひょっこり現れた。
5日前はワンパンしてやったのに、昨晩は殺されそうになった相手。
強いのか弱いのかよくわからないエレナだ。

「ぁ」

殺人鬼と目があった。

彼女の目の下にはひどいクマができおり、みるからにだるそうだ。
なんとなく機嫌も悪いような気もする。

ここはあまり刺激しない方が良いかもしれん。

「よ、よぉ、おはよう……ございます」

努めて余裕の表情で片手を軽くあげてみる。

内心ではエレナへのトラウマで今にも逃げ出したい気持ちだ。
けれどここはレザー流の後継者としてチート能力に頼る狩人なんかに舐められる訳にはいかない。

「おはよ」

エレナは驚いたような顔をしたが、すぐさま半眼になりダルそうな顔をして向かいの席に座った。

「ガーラ、パン」

エレナは寝ぼけまなこをこすりながら手を出してパンを所望。

「おや、いつもはばぁばって呼んでくれるのに」
「いいから」

ガーラはくすりと笑いながらパンがてんこ盛りのバケットをエレナの隣に置いた。

黙々とパンをつかんでは口へと運んでいくエレナ。
肘をついて額を抑えながら辛そうにしている。
だけどしっかり口はもぐもぐしている。

うーん、これ、話しかけていいのかな。
状況の説明とかして欲しいんだけど。

「えっと、エースカロリ?」

名前で呼ぶのは憚られるので苗字で。

「……なに」

ダルそうにこちらへ視線を向けてくる。

「その、俺さ昨日の記憶がちょっと曖昧で、なんでここでシチューすすってんのかわからないんだけど」
「あんた、元気そうね」
「ぇ?」

エレナは俺の質問に答えずただ一言そう言った。

元気そう?
まぁ、見た感じエレナよりは元気なのは間違いないけども。
あ、あれか。
自分がダルいのに、俺が呑気にシチューすすってんのが気に食わないのかな?
エレナの機嫌を損ねないように俺も具合悪い雰囲気を出すか。

肘をついて額を抑え、脱力して覇気のない顔に。
演技派の力をお見せしよう。

「はぁ、ふぅ、ふぅぇ〜、やべぇ、だりぃ」
「……馬鹿にしてんの?」

エレナからの鋭い視線が突き刺さる。

おかしい。
俺の演技が一発で看破されるなんて。

「ぁ、ごめん……なんか、俺だけ元気で……」

一瞬で審査に落ちて意気消沈。
素直に謝って出来るだけ険悪な空気にならないように頑張る。

「はぁ……別にいい」

エレナはそう言って再び俯いてパンを口へ運ぶ作業に戻った。

気まずい。

あたりの梅色少女たちに思念を飛ばす。
ほらお前たちもなんか喋れよ。
こいつらエレナが来た瞬間から黙りやがって。

「えっと、スーザ? なんかお喋りしないか?」

隣に座るスーザに助けを求めてみよう。

「お兄さん、お姉ちゃんとの空気が気まずいのはわかるけどスーザに頼っちゃダメー。これは2人の問題だよ」
「ぅ、ぅ」

このスーザめ。
ちびっ子なのに中々核心をついた事を言ってくるじゃないか。

「うぅ、え、エースカロリ?」
「……なに」

エレナは再び機嫌悪そうにこちらへ視線を向けてくる。
さっきみたいにあやふやな感じじゃダメだ。
ここはしっかりと質問しよう。

「なんで俺はエースカロリの家にいるんだ?」

まずは根本的なところから。

「昨日の事、覚えてないって言ってたわよね」
「おう」

エレナはパンを食べる手を止めてまっすぐ見つめてきた。
こちらもまっすぐに見つめ返す。
髪の毛と同色の梅色の瞳に筋肉男が写っているのが確認できる。

うわぁ俺いろいろとデカいなぁ。
誰でも引くわ、こんな9歳児いたら。

「まず初めに、私が暴走して、あと多分あんたも暴走して修練場付近の地下遺跡は完全に崩壊した」
「左様でございますか」

うーん、やっぱあの状態になるとどうも気分がハイになって性格変わっちゃうんだよな。
自覚はしている。

けれどとてもじゃないがコントロール出来ないんだ。
律する事のできない力。
やっぱ封印ルートだなぁ、あの魔法は。

「私たちに追いついてくれたアンナが止めてくれたから事態は最悪にならずに済んだけど、
私たちが暴れまわったせいで地盤の強度が落ちて、地上にいくらか被害が出てる」
「そ、それは大変だな」

やっぱりと言うか案の定というか、地上へ被害が出ていたらしい。
こりゃまたアヴォンに怒られる。

「死者は出なかったらしいけど、それでも昨晩は半端なく怒られた。あんたが寝たふりしてた分、私が倍怒られた」
「ぇぇ」

エレナは口をへの字に曲げて不満そうな顔で睨んでくる。

「ごめん」
「別にいい、気にしてないから」

なら何なんだよ、その顔は。

「あんたの怪我具合がひどいかったから、私たちがエースカロリ家に運んであげた」
「それはどうも」
「でも、あんたって昨日の事なんて無かったかのように回復するんだから驚き」

エレナの言葉に目を背けてしまう。
なんか話が嫌な方向へ流れていく気がする。

「あんたさ、半吸血鬼でしょ」
「ぎくっ」

おい、核心に迫りすぎだっての。

「ち、違う」
「今ぎくって言ったじゃん」
「いや、でも違うよ……多分」

なるべくエレナの顔を見ないようにしてシチューに視線を落とす。

バレてしまったか。
これは机ひっくり返してバトる展開になるんかな。
あぁどうしよう。
とりあえず隣に座ってるちびっ子を人質にして、それからーー。

「別に隠さなくてもいい。アヴォンから聞いてる」
「え、アヴォンは知らないはずなんじゃ……ぁ」
「ふふ、お間抜けさんね」

うっかりプレイに目元を覆い隠し天を仰ぐ。
おぉ神よ。

「アヴォンも渋々教えてくれた。あんたが半吸血鬼だって事。大丈夫、安心して。秘密にしてあげるから」

エレナの顔をそっと盗み見る。
穏やかな顔でこちらを見つめている。
機嫌良いのか悪いのかはっきりして欲しい。

「あんたの師匠、テニール・レザージャックは徹底した吸血鬼排除で有名な男だった」
「……? どうして師匠の話を?」
「知っておくべきだから、吸血鬼の血を持つあんたは。かなり凄かったらしい。女子供違わず、日夜追いかけ回して、罠を張り、残虐な拷問を繰り返し、時には見せしめに他の怪物を使ってメスの吸血鬼を襲わせたたりね」

とても爽やかな朝食の席でする話ではない。
エレナの意図が読めない。
とりあえず黙って耳を傾ける。

「きっとあんたは狩人は皆、そんな風に吸血鬼は残酷に皆殺しにしようとしてるとか考えてるんでしょう」
「いや、別にそんな事はーー」
「嘘、震えてる」

エレナは俺のスプーンを持つ手を指差す。
そうして初めて俺は自分の手が不自然に震えている事に気がついた。

慌てて机の上から手をどかして震える両手を隠した。

「恐くて怖ろしくて仕方ないんでしょ」

そんなの当たり前だ。
師匠の話はアヴォンから何度も聞いた。
若い頃はかなりヤバかった人物なんだと。

それにアディにも忠告された。
決して正体を知られてはいけないと。
正体を知られれば、狩人が飛んできて首を刈り取られるとーー。
恐くない訳がない。

「大丈夫。あの男がいなくなってから、狩人協会には新しい風が吹いている。
有益なものならなんでも積極的に、たとえ人外たちの力でも人間の力に数えるようになってきてる」
「新しい風?」
「そう。だからあなたのその力は必ず協会に受け入れられる。なんでアヴォンは教えるのを渋ってたのかわからない。ゆえにあの男は愚か。顔も老けてる」

盛大に先生をディスられてるが気にしない。
そんな事よりも気になる事がある。

「エースカロリは俺のこと、恐くないのか? ほらゴキブリみたいに」

アディから聞いた「血の呪い」というやつの効果。

人間たちは先天的に吸血鬼の血を忌避する習性を、持ってしまっているんじゃなかったけ。
目の前のエレナ、そして周りの梅色少女たちは特に何ともないような顔をしている。

それにアヴォンだってそうだ。
俺が半吸血鬼なのをどこで知ったのかは知らないが、今まで俺が半吸血鬼だとわかっていたにしては随分フランクな接し方をしてくれていた。

アディの言ってたゴキブリ属性なんて本当にあるのか?

「なんでゴキブリがでてくるのか全然わからないけど、言いたい事はわかった。あんたの血は薄い。それが答え」

いや、俺はその解答じゃよくわからないっす。

「つまり?」
「あんたは良い意味でも悪い意味でも吸血鬼の特性が薄いってこと」
「ほう、つまり?」
「少しは自分で考えて」

エレナは呆れた様子で首を横に振った。
そして再びパンを口へ運ぶ作業に従事し始めた。

ポケットから時計を取り出す。

ーーカチッ

時刻は8時1分。

「時計ならそこにあるよー?」
「いいんだよ。おチビちゃん」

今まで静かにしてたのに余計ことを言うんじゃない。
スーザの頭を撫でくり回して黙らせる。

さて、言われた通り少しは頭使って考えるか。
エースカロリ家での謎な朝を迎え一日が始まる。

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