記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第104話 特別な狩人



カティヤさんからマフラーを貰った喜びと、誕生日が被っていた奇跡による、歓喜と焦りと驚愕の感情暴風雨に晒された数時間後。

神秘魔術式文法の時間。

「て、訳でさ、この刀すげぇだろ?」
「うざ」

隣の席に座るイストジパング御一行、ちんちくりん担当、オクハラ・ヒナノに今日もダル絡みする。

片手に狼姫刀ろうきとうを持ち、刀の柄で小生意気な少女の小さなほっぺをつつてみよう。

「すごくね? だってこれ犬が待ってきてくれたんだよ? しかも綺麗にリボンのついた箱で」
「ぐぬぬ! 本当にウザさがとどまるところを知らずに進化していくよね、あんたってやつは!」
「うぇーい、ちょりーす」

オクハラは努めて俺のことを無視しようとしているらしいが、額に青筋が浮かんでいるところを見るとあまり上手くいってないらしい。

「それにこの刀すげぇ重たいんだ。刃紋もカッコいいだろ」
「はん、絶対の私の方が重いと思うけど」

オクハラは壁に立てかけてあった刀持って軽く持ち上げてみせてくる。

「ほう、ちょっと持たせてみーー」
「嫌です。そっちのを持たせてください」

なんだコイツ。
もしかしてパチこいてんじゃないだろうな。
実はすごい軽いとか。
オクハラの刀が本当に重いのか怪しみながら狼姫刀を差し出す。

「言っとくけどマジで重いからな、ほれ」
「ふん、言っても大したことーー」

狼姫刀をオクハラへ手渡した。

「ぬっ!?」
「ほら」

途端に汗だくになって刀を両手で支えるオクハラ。
はは、恐ろしく早いフラグ回収だった。
こいつ才能あるな。

「な、な、なん、なんですかコレ!?」
「おーでも持ててるってちゃ持ててるな。すごいぞ〜偉い偉い」
「話をきけぇえ!」

顔を真っ赤にして刀を持つオクハラの頭を撫でる。
小さい子供特有の柔らかい髪の毛の感触がなんとも心地よい。

「アルドレアぁぁ! こ、この野郎ぉぉ!
「汚い言葉遣いはダメだぞ〜。せい!」

少女が必至に刀を持っているうちに、壁際に立てかけてあったオクハラの刀をかっさらう。

「ん、たしかに普通の剣に比べたらちょっとは重いなこの刀」
「ぐぅうぬぬ!」

今にも噛み付いてきそうな勢いオクハラが流石に怖いので刀をすぐさま壁に立てかける。
ついでにオクハラの持つ狼姫刀を片手で持ち上げて、少女を解放してあげる。

ーーシュンッ

「お」

オクハラから刀を受け取った瞬間、鋭い剣撃が俺の首筋を目掛けて正確に斬り込まれてきた。
当然のように手でキツネちゃんを作って刃を止める。

「おしかった」
「はぁ、はぁ、ふざけた事させて!」
「悪かったよ。まさかそんなにオーバーリアクションするのは思わなかった。案外役者なんだな、オクハラも」
「はぁ、はぁ、当たり前でしょ? こんな、の、ただの、演技、に決まってる、でしょ、はぁ、はぁ……」

息も絶え絶えになったオクハラが可哀想なので刃を離してあげる。
ついでにハンカチも差し出しておく。

「はぁ……で、なにその刀。実用性なんか無いくらいに重たいけど」

ハンカチを無言で受け取ったオクハラは額の汗を拭き始める。

「そうか? 剣圧上げれば全然振れない事は無いけど」
「それ……本気で言ってるの?」

オクハラはハンカチを使って服の中を拭いながら訝しげな視線を送ってきた。

その視線送りたいのはこっちだっての。
人から借りたハンカチで胸元とか脇拭かないだろ。
俺のこと破廉恥漢呼ばわりしておいて、エゲツない奴だな。

「なに、嫌らしい目で見てんのよ。ぶった斬るよ?」
「すみません」
「はっ!」

オクハラはハンカチを叩きつける様に顔にぶん投げてくる。
優しく受け止めて綺麗にたたむ。

「それ、変な事に使ったら殺すから」

疑いの目を向けてくるオクハラ。
まるで犯罪を起こす危険因子でも眺めるかのような冷たい視線だ。

「……もう、これやるよ」

たたんだハンカチをオクハラに渡しておく。
こんな事で如何わしい噂がたったら堪ったもんじゃない。

「それでさ、お前に聞きたい事があるんだけど」
「なに」

ずいっと身を寄せて顔を近づける。
突然の行動に体をピクッと震わせ「ついに来たか!」とでも言いたげな顔のオクハラ。

「カティヤさんに贈る誕プレなにが良いと思う?」
「なんだ。てか、またそれ……?」

オクハラは首を振り、そっと顔を近づけてきた。

「タンクトップとかでいんじゃない?」
「適当か」

オクハラの頭にチョップを入れる。

「だいたいさ、いつも私に聞いてくるけど、そんな事わかるわけ無いでしょ。私は女として生きるのをやめてるの。俗な事は他の奴に聞きなさいよ」
「でも、サムラに貰って嬉しかった物とかあるだろ?」

オクハラを説き伏せる必殺ワード「サムラ」を使用する。
このちんちくりんと喋る時はサムラの言葉を使っておけば大体上手くいく。

「だからマフラーよ。前にも言った」
「マフラーはダメだ。もう渡しちゃったし」
「じゃ、もう知らない」
「なぁ〜頼むよ」

手でキツネを作って、キツネに喋ってもらう。

「なぁなぁ、なぁなぁ」
「……」
「なぁなぁ、なぁなぁ」
「うじゃい! 何なのよ!」

オクハラのストレス値が爆発したみたいだ。
俺の手キツネがオクハラによって握り潰される。

「痛い、痛いコン、やめてくれコン」
「手袋! それなら、手袋にしなさい」
「その心は?」
「いいから手袋で勝負しろ!」

ふむ。
手袋か。
1日で編むのは難しそうだな。



遺跡街。
地下ドーム修練場。

オクハラのありがたい助言のおかげで得たアイディアに基づいて手袋を編む。
クレアさんに作り方は教えてもらったので今晩頑張れば明日には出来るはずだ。
今回はサイズを間違えるわけにはいかないので集中して作らせてもらおう。

「アーカム、何をしているんだ」

傍らに立って不思議そうな顔で手元を覗き込んでくるアヴォン。

「編み物です」
「それは見ればわかる。どうして編み物をしているんだ、と聞いているんだ」
「友達へのプレゼントです」
「友達いたのか」
「ぶっとばしますよ」

アヴォンの唐突なディスりに憤りを覚えながら観客席に隣り合って座る。

「アーカム、余裕だな」
「えぇ。正直、楽勝かと。あの女の子って本当に狩人なんですか?」

編み物から目を離さずアヴォンと会話する。
厳格な師弟関係なら顔を向けずに話すなんて、無礼極まりないなことであるが、あいにくアヴォンはそこらへん厳しくない。

お互いに気にしない事にしているのだ。
単純に仲がよくなってきたというのも大きいが。

「狩人だ。史上最年少15歳で『狩人の修行』を終えた天才、てことになってる」
「今、いくつなんです?」
「詳しくしらんが、多分まだ15歳だろう」
「あ、最近の話なんですね」
「ああ。ちょうどおまえが帰省しているくらい時のことだ」
「めっちゃ最近っすね」

夏休みアディと殴りあったときのことを思い出す。
俺が故郷で家族と憩いの時間を過ごしているとき、協会じゃ記録ホルダーが誕生してたという事だ。

「あれくらいの実力でも狩人になれるもんですね〜」

編み物の手を止めずに浅く笑う。

「たぶん、ひと月前の僕とちょうど同じくらいの剣気圧の強さですよ、あの子」
「アーカム」
「はい?」

アヴォンの声音が変わったのを感じ取って編み物の手を止める。

「お前は強い。稀代の天才とはお前のような者の為にあると俺は最近思うようななるほどに。おそらくこのままいけば『筆頭狩人』いや『狩猟王』の地位も狙えるすさまじい才能を持っている。お前はそれだけの器だ」

アヴォンはこちらの顔を見ずにドームのはるか向こう側を見つめながら静かな声でつぶいた。

「きっと数年で私のこともすぐ追い抜くだろう」
「いえ、そんなことはーー」
「だがな、前に進む足を止めてしまったら、一生お前は私を抜かすことは出来ない」
「……はい」
「足を止めてしまうのは停滞ではない。後退だ。歩き続けて人は初めて停滞できる。さらに、走り抜けたものだけが前進できるのだ。
このままいけ、アーカム。決して強さにかまけるな。才能におぼれるな。他人を見下すな。足踏みをするな。そうすれば、お前なら、アーカムならば」

アヴォンは何かを堪えるようにしながら遠くを見つめる。
そして優しい手つきで肩にそっと手を置いてきた。

「このまま進めよ、アーク」
「はは、任せてください」

ばちこんウィンクをして歯を光らせる。
兄弟子の期待に応えてやるか。

後ろの席に置いておいた狼姫刀に手を伸ばす。

「ん、刀か。珍しいものを手に入れたな」

アヴォンはまじめ腐った顔で手を差し出してくる。
そんな兄弟子の無防備な動作に、ちょっといたずら心が芽生える。

「へへ、どうぞ」

俺は刀を鞘に納めたままアヴォンの手のひらの上に落とした。

「むっ」

アヴォンは一瞬目を見開いたが難なくキャッチした。
流石は狩人アヴォン・グッドマン。

「お見事」

アヴォンは俺の言葉には反応せず、ただただ目を見開いて刀を見つめている。
そしておもむろに柄に手をかけて狼姫刀を抜き放った。

その美しい黒の刀身とほとばしる銀色の輝く刀紋をみて、アヴォンは開いた口がふさがらないといった具合に、良いリアクションをしてくれる。
ひとりでサイレントしないで欲しい。
五人笑わせたって100万円は出ないぞ。

「アーカム、これほどの刀を一体どこで手に入れーー」

ーーパンパンっ

長い沈黙からアヴォンが再起動仕掛けた瞬間、遠くから手をたたく音が響き渡ってきた。

「待たせたわ、アーカム・アルドレア。先日の屈辱、ここで晴らさせてもら、るる」

声の主はすぐに見つかった。
見覚えのある少女がドーム中央にたたずんでいたのだ。
ようやくお出ましということらしい。

ところでーー。

「今、噛んだ?」
「噛んでない」

少女がいつの間にかドームに入っていたことよりも、台詞を最後のほうを噛んだことに気が向いてしまう。

「噛んだよね?」
「噛んでないって言ってるじゃん。グダグダ言ってないで早く来い」

ドームにたたずむ少女ーーエレナ・エースカロリはその特徴的な梅色の髪を後ろで縛りながら睨み付けてきた。

「へいへい、恐い顔すんなよ。可愛いお顔が台無しだぜ?」

肩をすくめながら観客席を軽いステップで飛び越えて、中央リングまで進む。
以前奇襲を受けて返り討ちにしたので、今は心に余裕があるのだ。

「いつでも余裕のある陽気なキャラはいいから、さっさと来なさいよ」

身も蓋もないこと言いやがって。
せっかく雰囲気を作っていたのにさ。
メタ的な発言にせいでテンション下がるぜ、まったく。

リングに降り立ち、エレナを正眼に捉える。
肩の力を抜いて両腕をリラックスさせる。

「なに、舐めてんの?」
「ん?」

エレナは眉根を寄せて不機嫌を微塵も隠さない。

ーーガシャンッ

「ッ!?」

瞬きの後にエレナの背中にあった棒と刃はどす黒い血管模様のはしる命を狩る鎌へと変形していた。
そしてその鎌先はすでにこちらの首に突きつけられている。

速い。

「反応も出来ないの?」
「避けるのが簡単すぎて、避けなかっただけ〜」

ごめんなさい、嘘です、ぜんぜん見えませんでした。
あれ?
なんか3日前の10倍くらい速くない?

背筋を冷たい汗が伝う。
予想外の展開に動揺が心中を駆け巡る。

疑問の答えを求めるようにこっそりアヴォンへ視線を送った。

「そういうことだ」

アヴォンは一言、そう言った。

どういうことですか、アヴォンさん。
まったく意味がわかりません。

「アンタの武器は剣でしょ。それともなに。私なんて素手で十分とでも?」
「俺の素手は剣より強いんだ。お前レザー流知らないのかよ」
「知らない、そんなクソ雑魚田舎者の流派なんて」

あちゃー。
これ結構嫌われてるな。
刀使わないと、このままぶった斬られそうな勢いがある。

「先生、刀を!」

アヴォンへ刀をパスするように手を振って合図する。
アヴォンは驚いたような顔を一瞬したが、すぐに刀を鞘におさめ投げ渡してくれた。

「よっと」

難なくキャッチして左手に鞘を持つ。
狼姫刀は腰に差すには重たすぎるので基本的には片手に持っておかなくてはいけない。

エレナは満足そうに頷き鎌先を首からどけてくれた。

そして数歩下がって目を細める。

始まりそうだな。
俺が狩人になれるかどうかを決める決闘が。

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