記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第98話 炎剣と狩人助手



我が親愛なる父君と共に、森道を仲良く歩いていく。
クルクマへ向かう道とは逆方向。
森の奥地へと続いている獣道だ。

「ふんふん、ふ〜ん」

この里帰り中ずっと侵食樹海ドレッディナで森の魔物を殺しまくってきた俺からすれば、今日のように戦いという行為自体から丸一日離れることにできるのは、ちょっと嬉しかったりする。

本日の予定としては昨日思いつきで冒険者ギルドに登録した新生パーティ、サテライン冒険団の様子を見に行ってもよかった。

というかサティに顔出すように言われているのでそっちにいかなければ、きっと酷い目にあうので行くべきだった。

だが、敬愛するお父様が散歩のお誘いを受けてくれたので、俺は仕方なくこの先しばらく会えない親子の時間を楽しむことを選んだのだ。

「もうそろそろ夏も終わって、だんだん涼しくなってくる季節ですね」
「そうだな。仕舞ってたローブもそろそろ棚から出してきても良いかもしれないな」
「魔術協会でもクールビズですか?」
「ああ、クソ暑いのにあんなローブ着てられないだろ」

アディとこうして2人だけで歩くのも久しぶりだ。

やはりクルクマここは落ち着くな。

「そういえばアーク、お前身長めちゃくちゃ伸びてないか? 帰ってきた時もビビッたけど、この一ヶ月でまた伸びたろ?」
「たぶん今、165センチ位ありますよ」
「ねぇ、8歳だよね? 時折お前の年齢数え間違ってると思う時があるんだよ」
「8歳ですよ。自分でもビビッてます。半年で10センチ伸びてますもん」
「おぉ……恐っ、じゃなくて、流石です、狩人さん、いや、狩人助手とか言ったか?」
「えぇ、間違わないでいただきたい。まだ狩人助手です」

指をチャキチャキ動かしてキメ顔。
アディはこちらを見て浅く笑って首を振った。

「というか、恐いとか言ってますけど、僕の成長速度が異常なのって吸血鬼の血のせいなんじゃないですか?」

前々から思っていたことを口にする。
今までは年上の学校のみんなと同じくらいだったのだが、現在では完全に俺だけ頭ひとつ高くなってしまっている。
身長の高いウェンティを抜かすのも時間の問題だろう。

これほどの成長速度は通常の人類ではありえない事だ。
だとすれば思い当たる原因はただ一つ。
俺の中の普通じゃない部分だ。

十中八九、アディから受け継いだ吸血鬼の血が関係しているんだろう。

「アーク、お前いじめられてたりしないよな? 話聞く限りは楽しくやってそうだけど。何か辛いことがあったらすぐに言えよ?」
「はは、大丈夫ですよ、馬鹿だけど良い奴らばっかなんで」

学校の面々を思い出しながら思い出し笑いをする。

「あ、そういえば、学校で吸血鬼の女の子見つけたんですよ」

俺は麗しき女神と触れ合った日々を回想した。
殴られたり、蹴られたり。
手首を握りつぶされた事もあった。
平手打ちで頬が切れる事なんてしょっちゅうだ。

「ほう、純血か?」
「うーん、特徴が露骨に現れてなかったんでたぶん半吸血鬼だとは思いますけどね。血は僕より濃いと思います」

カティヤさんの姿を思い出して吸血鬼の特徴を当てはめていく。

目は別に赤くないし、爪もとがってないし黒い色もしていない。
犬歯だって別に鋭くはない。
純血の吸血鬼にしてはあまりにも特徴が無さすぎる。

「でも、めちゃくちゃ強いんですよ。たぶん本気で殴られたら死にます」
「え、どういう関係なの?」
「僕と彼女の関係……ですか」
「おや?」

アディの何気ない発言にどぎまぎしてしまう。
俺とカティヤさんの関係ーー。

「サンドバックとボクサー、ですかね」

アディは可哀想なものを見る目で哀れんできた。

「アーク、その子はやめておけ」

首を振りながら俺の肩に置かれる手。

「いや、でも……放って置けない、んですよ、なんか……」
「はぁ。茨の道をいくねぇ、我が息子よ」

疲れた様子で首を振って「あ、ダメだ、コイツ」と、言外に伝えてくるアディ。
こんなんでもちゃんとエヴァを捕まえてるので、恋愛に関しては俺よりも上手なんだろう。

クソぉ、アディフランツのくせに。

「父さん」

歯がゆい想いを胸に抱きながら、真摯なまなざしをアディに向ける。

「なんだ、アーク」

アディは何かを悟った顔で流し目を返してきた。

「どうやって母さんを落としたんですか?」
「だと思ったぜ、とうッ!」
「うわッ!?」

アディはニヤニヤしながら空高く舞い上がり20メートル程はなれた場所へ着地した。

「アーク! この俺を倒したら、どんな女でもいちころでベッドに連れ込める吸血鬼の秘術を教えてやろう!」

アディは腰から真剣を抜き放ち、上段に構えながら高々と宣言する。

え、てか、何?
ベットに連れ込む方法だと。
ちゃんとお付き合いして恋愛しない段階飛ばしの方法か。
それをエヴァの攻略に使ったと。
ふむふむ。でもさ、それって、もしかして、もしかしてアディとエヴァのカップルってーー。

「はは……それってつまり! できちゃった婚かぁぁぁああ!」
「ッ!」

言外に「お前がエヴァのお腹に宿ったせいで結婚する羽目になりました」と伝えてくるアディへ怒りの「縮地」で距離を殺す。

ーーバゴォ

「グハァッ!?」
「心臓だけは勘弁してやる!」

笑顔で怒涛の鉄拳制裁をアディのお腹へぶち込む。
弾け舞い上がる木の葉。
金属のひび割れ砕ける音。

アディの体は軽石のごとく弾かれかれ、森の奥へと木々をへし折りながら消えていった。

「はは、軽い軽い! もうちょっと手加減するべきでしたかね〜」

かつては煮え湯を飲まされた父親に気持ちの良い一撃を打ちこめて気分が良い。

それに吸血鬼の性質を知った今では、注意すればアディが死ぬ心配は無いので遠慮なく攻撃をする事ができる。

ただ、アディはクォータの半吸血鬼なので心臓を破壊してしまうと流石に危ない。
ゆえに心臓は避けて攻撃する。

ただ、心臓以外だったらたとえ四肢を吹っ飛ばしても再生するので平気なので、吸血鬼なら容赦なくぶん殴っても誰にも怒られないと言い換えることも出来る。

「ふんふふん、ふーん」

スキップしながらアディで作られた直線森林破壊ロードを歩いていく。

「どこまで飛んだんだ?」

自分で殴っておいて、アディがどこらへんまで飛んだのかわからなくなっていた。

「最近、体の成長のせいで力のコントロールが下手になって来てるからな。本気出し過ぎたかもしれないな。なぁアーカム」
「″んー?″」
「お前、少し外に出てた方がいいかもしれないぜ。ほら俺たちの父さんの応援してやってくれ」

精神世界から上半身乗りだしている銀髪少女の脇に手を入れて、ひょいっと持ち上げて俺の体から引き抜く。

「″あぁ! ちょ、そんなとこ触っちゃ!″」
「ほらほら、行ったいった」

引き抜いたアーカムを空中へ放り投げ、プカプカと浮遊状態へ移行させる。

そうして、アーカムを追い払うようにして、半ば強制的に空中観戦モードへ。
よし、これで力を出し過ぎることは無い。
自動的に全力時の3割くらいまで全能力を抑えられる。

「舐めすぎかな? アーカム、もしダメそうだったらすぐ戻ってきてくれ」

念のための保険だ。

「″仕方ないなぁ〜″」
「よっし」

アーカムから視線を外して剣知覚でアディの気配索敵する。

「うーん、やっぱ吸血鬼だからわかんないか。たぶんーー」
「ドラァ!」

ーーバゴォ

突如、顔面に凄まじい衝撃が走った。
視界がめちゃくちゃに揺れながら、空中を吹き飛ばされている感覚を味わう。

「あ、ぁぁ、やばい、ア、っ、カム! はや、も、戻れ!」

空中を舞いながら、俺はすぐさま自分が軽率な行動に出ていたのだと後悔していた。

「″いや! 早すぎでしょ!? もうちょい頑張ってよぉ!″」

文句を垂れながらもすぐさま体に溶け込むようにアーカムが戻ってきてくれた。

全身に力がみなぎり、空中で姿勢制御しくるりと一回転。
地面と水平にウォークの巨木に足を突き刺してする。

「くっそ、舐めてた」

すぐさま攻撃を受けた地点に視線を飛ばすが、既にそこには誰の姿も無い。

ウォークの巨木から足を引き抜いて、地面に降り立つ。
腫れて裂けた頬から血が滴る。
血式魔術を使って止血し、再生を始めておこう。

「さて、どこからかかってくるのかな、お父様」

両手を頭の後ろで組んでわざと隙だらけにして呑気に歩いてみる。
現状、俺の装備は杖と時計だけ。
剣の類は折れてしまう危険があるので携帯していない。

「いやぁ8歳の息子にビビって掛かってこれないとはねぇ〜。これは『炎剣』の名が泣きますなぁ〜」

「はっ! ここだdーー」
「そこかぁー!」

一瞬の空気の揺らぎを察知して思いっきり地面へ下段突きを放つ。

「甘い!」
「ッ!?」

瞬間、目の前を霧が蠢いた。
血煙とでもいうべきそれは流動的に形を変えて、俺の腕に絡みつくように登ってくる。

手応えの無さに刮目して本当に俺の隙が生まれた。

ーーゴンッ

「ぶふぅ!」

視界が揺れた。
地面から霧状で出てきて、すぐさま腕だけ実体化とはーー流石に動きの緩急がキツ過ぎる。

右フックで顎を打ち抜かれ、一瞬体が硬直。

「ウラァア!」

ーーッ

「ウォ、ァ」

胸部を鋭く突き刺す衝撃。まずい。

池に小石を投げ込んだ時のように、波紋を伴ってエネルギー全身へと広がっていく。

アディのが俺の左胸部へ直撃したのだ。

とうとうアディフランツがやりやがった。
この衝撃の伝わり方、間違いない。
師匠に打ち込まれて何度も味わった技。
防御力の高い相手を優しく射止めるための拳ーーレザー流拳術「心的掌底しんてきしょうてい」だ。

「ぐっ、ぁ」
「はは、アーク、悪いが負けられない。これで勝負あったな」

心臓狙うなって言ってたのに。
もう完全にキレた。
本気でぶっ倒しにいく。

ーーバラァアアン

軽快に響き渡る透き通った破裂音。

「っ!?」

フリッカーを容赦なく顔面から肘まで、瞬き2分の1回の時間でセット打ちした。

「え、ぇ、なになに!?」

両腕で全身を守りながら驚愕するアディ。

きっと彼には全ての打撃が同時に来たように感じた事だろう。
実際は15発も撃ち込んだというのに。

俺のフリッカーはもうお遊びの技ではない。
相手を確実に削る攻撃として十分に実戦レベル。

「ぁ、がぁ! アーク、ちょ、たんーー」
「下郎にやる慈悲は無しィィアタタタタッタタ!」

ーーバラァァァァアアン

空気に響かせながらしなるジャブをぶち込んでいく。

「あぁあ、痛っ、ぐぉ、おま、クッソォオ!」
「っ!」

アディが両手で上半身をガードしながら、前蹴りを繰り出してくる。

遅い、見切った。

ーーバギィッ

「うぇ゛っ!? 折れた! 絶対今折れたァァァ!」

アディのノロマな前蹴りなんてしっかり見えている。

ハエが止まりそうな速さの足のスネを、右肘と右膝で上下から思いっきり叩き挟む。
文字通りの「挟み殺し」を行い粉砕破壊だ。

「あぁ! クソォ!」
「ふっふ……え?」

得意になってほくそ笑んだのは一瞬。
1秒後には俺は自分の目を疑った。

「なっ!?」

空気中を紅い魔力がスパークを伴ってほとばしる。

「こんな遊びで使うつもりはなかったんだけどな!」

指向性を持った魔力が集まったのはアディの足だ。
魔力はそのまま傷口に入り込みグギグギと音を立てながら、スネが一瞬で再生を果たしてしまった。

「アーク、お前に怪物の戦いって奴を少し見せてやる」

アディの顔つきが変わった。
背筋を氷に貫かれたような怖気が走る。

「いくぜ?」
「ッ!」

その言葉を最後にアディの姿が目の前からかき消えた。

「ふん!」
「っ、見えてるぅ!」

爆風で舞い上がる木の葉。
視界は端にとらえた影の動きにかろうじて反応。
側頭部をえぐる角度の深い左拳、反射的に右腕を上げて頭をガードをする。
全身の鎧圧を薄くしてその分を右腕に集中。

しかしーー。

ーーバギハギギィイイ

砕け、光る粒子になって消える鎧圧の破片。

「ファッ!?」
「オラァア!」

完璧にガードにしたにも関わらず、アディの拳は俺の右腕を粉砕し顔面にまで突き進んでくる。
ダメだ、受けれない。なんて怪力だ。

咄嗟に首振って左拳を紙一重で回避。

体のひねりを無駄にせず、同時に膝蹴りを腹に打ち込み反撃する。

「死ねぇえ!」

ーーバゴォンッ

「ぶふぅへぇ!」

アディの体が空高く舞い上がった。
これを好機と捉え、すぐさま跳躍して空舞うアディを目指す。

引き絞ったバネのごとく飛翔する俺の体はすぐにアディに追いつき、地上から遥か離れた上空で父親と再会を果たした。

アディは俺の姿を瞳に映すと、驚愕の顔を作ってからすかさず腕を引いて迎撃態勢を取った。
だけど、それじゃーー。

「遅いッ!」
「ッ!? ぐぶぅ!」

アディのテレフォンパンチには付き合わない。
砕けていない左手でアディの頭を鷲掴みし膝蹴りを今度は顔面にぶち込む。

地面からの跳躍の力を乗せた渾身の膝蹴りは、鈍重な金属がぶつかり合う重たい音を発しながら、アディの顔面の骨を完膚なきまでに砕いた。

「ぁ、がぁあ!」

まだだ。
この人は多分これくらいじゃ降参しない。

そう思い俺は膝蹴りでさらに打ち上がったアディの足を万力の握力でガッチリ握りこむ。

「ぐ、ぅ、よ、よふぇ! ぎ、ぶぅ、ぎぶ!」
「ふん!」

アディが何か言っているが、どうせ腑抜けた事なので耳を貸さない。
全身の鎧圧を全展開して最大速度で隕石のごとく落下。

着地のタイミングに合わせて鎧圧を極限まで抑えて剣気圧のキャパシティを剣圧に回す。

そして俺の渾身を込めた力でアディの体を思いっきり地面に叩きつけた。

「ぁ、やめーー」
「ハッ!」

ーーバガァァアンッ!

天高く舞い上がる木の葉。
吹き飛び荒れ狂う巨木たち。
凄まじい音を立てて、爆発的衝撃波がエレアラントの森を駆け抜ける。

ウォーク巨木たちが押しのけられた風の圧によって、根こそぎ吹き飛んで空を舞い、遥か遠くに落ちていくのが見える。
地面はえぐり飛び、あたりの地面は盛り上がりを見せて放射状の亀裂が広がっていた。

「ふぅ……あれ、死んだ?」

10メートルほどえぐれて地面より低くなったクレーターの中心。
そこに足だけ地中から出して、犬神家しながら動かなくなったアディを見下ろす。

「え、嘘でしょ? 心臓壊れてないですよね!? 父さん! 父さーん! 父ーー」
「うらぁあああ! この野郎ぉお!」

悲しみに嘆く茶番を始めよう思ったところへ、アディが突如土を爆発させながら起きがって来た。

「トゥラッ!」

土が空中を舞い上がっている刹那の間にアディはついに抜剣し、凄まじい速度で乱撃の剣舞を繰り出してくる。

「せい、せい、せい! せせいッ!」

全ての剣撃を指キツネにくわえさせて受け止める。

ーーキィンッ

「はぁ、はぁはぁぁッ」
「はは、はぁ、はぁ……はぁ〜」

最後にキツネちゃんガードをしたせいで凄く体力を持ってかれた。

あぁ、クソ、失敗したな。
無駄に難しい凌ぎをしたせいですごい疲れたぜ。

「はぁ、はぁ……強くなり過ぎだ、アーク」
「はぁぁ、はぁ、それはどうも」

最後の剣撃を受け止めたキツネちゃんの口を開け、アディの剣先を解放する。

「はぁ〜なんだよコレ」

アディは自分の手でキツネを作って見せた。
瞳をまん丸に驚愕している。

「俺じゃもうお前を負かすことは出来ないってことか」

父親としては何か思うところがあるんだろう。
それとも強者として生まれた吸血鬼としてか。
どちらかはわからない。

「まだまだ『血硝石』は残ってるでしょ? 知ってますよ、僕は狩人助手なんで」

吸血鬼の本気の戦いで使用される、体内の血硝石はアディならまだまだ温存しているはずだ。
それは使わないんだろうか?

「こっから先はマジで殺し合いになっちまうからな。さっきので手合わせに使える量はギリだ」
「そうですか。狩人としてはもう少し自分より膂力のある相手との戦い方を勉強したかったんですけどね」

そう言って俺は砕けた右腕を持ち上げてみせる。

「たくっ、タフ過ぎる。なんで腕砕かれてんのに平気で避けて、カウンターに、追撃までして来れる? 気力がありすぎだ。まじ、狩人怖っ!」
「はは、師匠にそうやって鍛えられましたからね」
「テニールさんめ。息子にとんでもない修行してたんだな」

アディは折れた鼻をコキコキいじりながら姿の見えない老人へ悪態をついた。

「あれ、父さんの顔もう治ってますね」

先ほど上空で顔面を砕いたはずの人なら一生モノの傷が見当たらない。

「ん? あぁ、まぁな」

つい今しがたコキコキ言っていた鼻も普段通りのアディの顔にしっかりマッチングだ。
常軌を逸した再生速度である。

「半端ないですね。もしかして『血脈開放けつみゃくかいほう』しました? 僕、吸血鬼の再生能力みるの初めてなんですよ」

かつて師匠に吸血鬼について教えてもらった日々を回想する。

吸血鬼には本気の戦闘力を発揮するまでにいくつかの段階がある。

ステージ1

吸血鬼が日常生活を送っている時の状態、つまり自然体の姿がこれだ。

この状態でももちらん通常人類を大きく上回る膂力と再生能力を持ち、各種特殊能力も使用することが出来る。

ステージ2

吸血鬼が吸血し人間の血から生成される高濃度の魔力物質「血硝石けっしょうせき」を消費して、己の能力を強化した段階。

体内に蓄積された血硝石の使用率、個体差、吸血鬼の血の濃度(純血か、ハーフか、クォータなど)でその強化の度合いには大きな開きがある。

ステージ3

広義には鬼の本気。
狭義には本人が瞬間で使用できる血硝石の使用率90パーセント以上を使用している状態。

吸血鬼の全力のことだ。
俗に「血脈開放けつみゃくかいほう」と呼ばれる。
どの吸血鬼もこの段階になると瞳は真っ赤に染まり牙は鋭く尖り、爪は黒く鋭利になって吸血鬼の特徴をフル覚醒させる。
普段は吸血鬼の特徴が発現していなくとも、血脈開放してしまえば、みんな吸血鬼だと丸わかりになってしまうのだ。

もちろんこの状態が一番やばい。

「そうか、アークは吸血鬼の血が薄いからあんまり超再生の恩恵を感じれないのか」

アディは呑気に顎の骨をずらしながら、顔パーツの最終チェックをしながら言った。

「血式魔術を意識して使って、骨折が数時間で治るってくらいですよ。軽傷だったら、まぁ傷がちょっとずつ塞がっていくのは見れなくは無いですけど」

自分の砕けた腕を見て、先ほどまで砕けていたアディの足へ視線を移す。

「羨ましいですね、再生能力」
「はは、まぁ、そんなにすぐ傷が再生してたら半吸血鬼だって同僚にバレちまうぞ? それにクォータじゃ心臓潰されたら生き返れるかは運次第だ」

アディは自身の胸を上からさすって大事そうにした。

「あ、そういや、なんで俺の心的掌底はアークに効かなかったんだよ」

ハッと思い出したとばかりにアディは訝しげな表情になった。
アディがインチキくさい動作で打ち込んできた、あの心臓をぶっ叩く技のことを言っているんだろう。
俺は眉根をあげて反省の色が無い父親に抗議の視線を向ける。

「効きましたよ? 結構痛かったです。心臓壊れてたら死んでました……けどね父さん、
あんなん修行不足もいいとこです。内側までほとんど届いてません。ただ力強すぎて痛かっただけです」

父親の技の練度の低さに呆れながら悪態を吐く。
やろうとしている事はわかるけど、あれなら無難に腕力にモノを言わせて殴った方が全然良いだろう。
アディは吸血鬼なんだから。

「ぁ、そっかぁ。やっぱ技術系の技は向いてないな」
「練習嫌いですもんね、父さんは」
「俺だけじゃねぇよ。吸血鬼はみんなそうだ」

飽き性なのを種族のせいにしつつ肩をすくめて苦笑いするアディ。
俺も父親のマネをして肩をすくめ、荒れに荒れて混沌とした風景の森の中を歩き出した。

「そうだ。アーク、家まで競争しないか?」

背後からかかる挑戦的な声。
だがいま勝負を受けるのはフェアじゃない。

「わかりませんか? 僕の腕が砕けてまーー」
「よーい、ドンッ!」

アディは吸血鬼の特徴をフル覚醒させながら、地面を爆発させて走り出した。

嘘だろ、おい。
何がこっから先は殺し合いだ。

「はぁ〜甘いですよ! 走りなら勝てるなんて考えがねェエ!」

呆れながらも普段通り大人気ない父親にホッとする。
そんなに敗北が知りたいなら真の敗北というものをプレゼントしてやろうではないか。

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