記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第86話 児戯王カードバトル 俺のターンドロー!



ーーチュンチュン

窓の外から小鳥たちの囀りが聞こえる。
差し込む日の光に照らされながら体が覚醒しゆく。
精神世界から直に意識が戻ってくるので、俺の寝起きの良さは間違いなく全人類最高クラスだろう。

長剣を片手に中庭へ向かう。

「にゃー」
「ニャー」
「わうわう」
「みゃー」
「わおんわおんっ」
「ノォア〜」
「わんっ!」

「よーし、よしよし。今日は多いなぁ」

ますやる事は中庭で待機してた動物たちへの餌やりからだ。

ーージャラジャララ

「わんわん!」
「わおわぉ!」
「にゃーにゃー!」
「みゃあぁ!」
「ノォアぁあ!」
「わぅう!」
「ニャッ! ニャァア!」

「ま、待て! 落ち着け! あげるから!」

キャットフード、ドッグフードを器に入れた瞬間から、ひときわ騒がしくなる動物たちに手こずりながら何とか餌の入っている袋の本体の方は守りきる。
袋を傾けて餌を注ぐ訳なのだが、この犬猫どもは非常にせっかちなので餌を器に注ぐまで待ってくれないのだ。
恵んでもらっているのに図々しい奴らである。

「やれやれ、まったく」

餌の袋をワンコロネッコロに漁られないように、厳重に箱に入れて保管だ。
俺がいない間に漁られてはたまらない。

「今日はこれでみんなかな? あの子は来なーー」

ーードサッ

重量のある着地音が背後から聞こえて振り返る。
どうやら朝の動物たちのごはん配給会への参加者が追加で来訪したらしい。

「来たか、ポチ」
「わぉわぁ」

振り返るとそこには3メートルを超える巨大な犬がいた。綺麗に足を揃えてお座りしてトチクルイ荘中庭中央に鎮座している。

1ヶ月くらい前からこのトチクルイ荘に餌を貰いに来るようになった、俺の大のお気に入りイッヌのポチである。

全体的に深い藍色の毛並みを「これでもか!」というほどふわっふわに毛を生え揃えており、首回りや耳、お腹などは煌めく銀色の毛をこれまた「これでもかぁぁああ!」というほどもっさりと生やした立派な巨犬だ。

見た目は俺の知っている犬種では表しづらく、あえていうならオオカミみたいな感じだろうか。

うん、そうなんだよな。

俺は初めこのふわっふわ悪魔を見たとき、ポチの事を犬だと思って「ポチ」なんて気の抜けた名前をつけてしまったが、マリに「これオオカミじゃない?」と指摘されて以来、どうにも犬に見えなくなってしまった。

「ポチ〜! よしよし! うっはぁ〜!」
「わぉわぉ!」

おすわりしても俺より背の高いポチの、ふわっふわの銀色のたてがみを思っきり抱きしめる。
ポチは尻尾をふりふりしている。可愛すぎる。
もう犬でもオオカミでもいいや。だってこんなにキュートで愛嬌があるんだから。

「よーし! よしよし! お前は本当に可愛いなぁ!」
「わぉわぉ」

整った毛を盛大に乱しながら撫で回す。最高。
ポチの顔を凝視する。可愛い。
そして思う、やっぱオオカミだわコレ、と。

まぁだからと言って今さら名前変更なんて出来ないだろ。
名付けちゃったんだもん。
そのためちょっともやもやした気持ちを抱えながら、俺は今日もこのシヴァをも上回る巨犬のことをポチと呼ぶ。

「ちょっと、待ってろ今ご飯をーーって」

ポチのためにご飯をよそってあげようとイッヌとネッコどもの餌場へ振り返る。

「……」
「くぅーん」
「……」
「にゃ.....にゃ、にゃ」
「……」
「へぇへぇへぇ」
「……」

餌やり場、そこには先ほどまで図々しくご飯を食べていたワンコロネッコロの姿はない。
あるのは整列して餌のよそってある器へのシルクロードを作り上げる従順な生物のみ。

「わぉわぉ」

ポチが来てから犬猫たちはいつもこうである。
ポチのために全員が一丸となって道を作り出すのだ。
俺は実家でシヴァを飼っていた経験から、この世界では3メートルを超える巨大ワンコロたちは普通にいるのだと思っていたのだが、実はそうではないらしい。

シヴァにしてもポチにしてもこれは珍しいのだという。
クレアさんにポチを見せて確認をとったのだから間違いない。
ポチは動物たちにとっても見た目通りのボス的存在なのだ。

「わぉわぉ」

ボスであるポチが優雅な所作で器に顔を近づけて、ペロリと一口でご飯を平らげた。

「わぉ」

ポチが振り返り犬猫にたちに一声吠えると、イヌッコロたちは走って中庭を出て行き、ネッコロたちは屋根へと消えていった。

お腹いっぱいになってご機嫌になったポチは尻尾振りながら中庭の隅へ行くと、そこに丸くなって寝っ転がった。

「今日も見てくのか」
「わぉわぉ」

ポチは俺の朝の鍛錬を見るのが好きらしい。
ご飯を食べて小腹を満たし、部下たちを追い払ってはいつも同じポジションへ移動して丸くなる。

きっと俺の鍛錬の邪魔にならないよう気を使ってくれているのだろう。
シヴァもそうなのだが、大きいわんちゃんはなかなかに賢い奴が多い。

ポチが定位置についたのを確認して、長剣を手に取る。
そして毎朝の習慣、感謝の精研斬り1万回を行おう。
まぁ普通に素振りなんだけどね。



犯罪組織カカテストファミリーとのいざこざを片付けて日常へと戻ってから早いもので数日。

カカテストファミリーアジトの大規模な崩壊は王都民たちの話題の種となり、またしても俺は大いに皆を賑わす話題を作ってしまった。
レトレシア魔術大学でもカカテストを解体した次の日には、サティにゲンゼにオキツグにマリに、それはもうみんなから同じような話をふっかけられたものだ。

多分あの日だけでも同じ話題を10回は繰り返した事だろう。
だが、マフィアのアジトが崩壊した不可解な事件のことも次第に話題に上がらなくなり、今ではすっかり過去の出来事となっている。
話題は常に移り変わるものなのだ。

俺としては早めに話題の熱が移り変わってくれて嬉しいんだけどね。
一応秘密結社に片足突っ込んでるので、世間の話題にいつまでも上り続けるのはあまりよくはないだろう。

そのため魔術大学以外では目立たないように生活しているのだ。



ある日の学校。

「お、何してんだよお前ら?」

授業の空コマにふらっと立ち寄った食堂でオキツグとギオスを見つけた。
なにやらテーブルに不思議なものを広げている。

「アーカムかい、いいところに来たぜい」
「へっへ、とりあえず座れや」
「お、おう」

ニヤニヤと楽しそうな2人に手招きされて、オキツグのとなりの席に着く。

「アーカム、これが何かわかるか?」

テーブルの上に置かれたカードの事を聞いてくる、
見た感じトランプではなさそうだ。
華やかな絵柄と文字の書かれた物が机上に広められており、その置き方には一定の規則性があるようには見える。
だが、全体的に見てやはり俺にはなんなのかわからなかった。

「なんそれ?」

素直になんなのかわからないので問いかえす。

「はっは、アーカムはん遅れてんの~」
「やれやれ、天下無双のアーカム・アルドレアと言えども時代の最先端を行く俺たちにはついてこれねぇかい~」

あからさまに調子に乗り出した。
何なんだよコイツら、うざ。

「いいから教えろよ。なにそれ?」

焦らしてくる2人に若干イライラしながら再度問う。

「ふっふ、これはな今ゲオニエスで流行ってるちゃうカードゲーム『児戯王』や!」
「ほぉカードゲームか。興味深い」

名前が少々気になるが面白そうだな。
中学生のころやっていた某カードゲームを思い出す。

「だろい! 今ポールが戻ってくるから一緒にやろうぜい!」
「ポール? あ、わかった。あいつが教えてくれたんだろ?」

男友達のひとりの姿を思い出して、オキツグに向き直る。

「あいつゲオニエスから留学に来てんだったよな」
「そーいうことよ! 俺たちはポールから時代の最先端を輸入してんのさ」
「へへ、すごいやろ?」

なんでこいつらがこんな自慢げなのか分からないな。
てかゲオニエスがこの世界では最先端なのか。
ゲオニエス帝国ってそんな発展してのかな。

「アーカムも来たのかね」
「よぉポール。俺も仲間に入れてくれよ」

食堂でオキツグに渡されたカードを眺めていると、児戯王の輸入者ポールがやってきた。
本名をポール・ダ・ロプノールといい、ゲオニエス帝国の金持ちのところの息子らしい。

眼鏡をかけていて知的なイメージがある。
てか、事実彼は頭が良い。
彼もまた柴犬生だ。

「コレが僕のデッキだ。今回は特別に貸してあげよう」

ポールはトランプほどのサイズの分厚いカード束が入ったケースを手渡してきた。
ふむふむ、なるほどね。

「人数がちょうどいい。デュオでやろうではないか。ギオスと僕で、オキツグとアーカムで組んでくたまえ」
「ぇ、俺、オキツグと組むの?」

勝手にチーム決めをするポールに非難の視線を向ける。不公平だ。俺のペアに不安の塊を当てるなんて。

「うぅ、そんな目で見たって僕はギオスと組む! 席だってちょうど別れてるではないか!」
「くそぉ、仕方ねぇ」

たしかにちょうど席がギオス、ポールと俺、オキツグで向かい合う感じで別れてしまっている。
失敗したな。
ギオスの隣に座るんだった。

「へへ、相棒! 俺たちはいつだってペアを組む運命なんだい」
「バカ言え。そんなクソみたいな運命は俺がぶち壊す」
「うぉ~辛辣だな。そんなんじゃカティヤさんに嫌われるい〜」
「やかましスィ!」

うるさいオキツグは無視してデッキをシャッフルだ。

「お、なんだアーカム、手慣れるではないか? やった事あるのかね、児戯王」
「うーん、いや、児戯王はやった事がないけど、まぁ、多分似たようなゲームはやった事あるよ。おい、オキツグ、ショットガンシャッフルはカードを傷つけるぜ」

シャッフルを終えたデッキを置く。
とりあえずハンド手札は5枚くらいかな。

「……アーカム、初めてだよね?」
「初めてだよ?」

ポールが訝しげな顔をしている。

「うーん、まぁいっか。それじゃルール説明をするからよく聞いてくれたまえ」

ポールはカード使って児戯王のルール説明を始めた。

カードには種類があって「生物カード」「怪物カード」「魔法カード」の3種類だ。
聞いた限りトラップカードはなさそうだ。

「よし! だいたいわかった! それじゃ始めるか。先行は貰った、俺のターン!」
「待ちたまえアーカム」

意気揚々とデッキへ手を伸ばした瞬間に待ったがかかった。

「まさかここで始める気ではないだろ?」

「へ?」
「え?」
「どういうことや?」

新参者3人のアホ面がみえたのか、ポールは不敵な笑みを浮かべる。

「さて、オオカミ庭園へ行こうかね、君たち!」

なんかオオカミ庭園に行くことになった。



長い歴史の中で数々の感動を生んできたこのオオカミ庭園。

名高い魔術師の聖地とも呼べる場所では、今まさに男たちの熱き決闘が始まろうとしていた。

「準備はいいかね?」

ポールは澄ました顔をして眼鏡を中指で押し上げる。

「愚問だな。そちらこそ準備はできたのかな? 魂を賭ける準備は!」

演技腐った仕草でローブを翻し杖を構える。

「さぁ、始めようか! 神聖なる儀式を!」
「いくで!」
「いくぜい! 相棒!」
「デュエルスタンバイ!」

ポールのクサすぎるセリフに呼応し俺たちは杖を取り出し構えた。デッキ一番下にある分厚い板を各々の杖先でつつく。
するとカードの束のデッキはふわりと浮き上がり、それぞれの目の前に半透明のテーブルが出現した。
カード束のデッキは透明の机の上のデッキ置き場にピタリ収まった。

「おぉ! すげぇ!」
「なんや! これ!?」
「やはいな! わくわくしてきた!」
「ふっふっふ」

ギオスもオキツグも大興奮している。

すごい、まさか異世界で遊戯、じゃなくて魔法のデュエルを体験することになるとはな!

「さぁまずはカード5枚引くんだ。それが各々の運命を分かつ最初の手札となるのだから」

ポールの指示で透明な机に鎮座したデッキからカードを引く。
ほぉほぉ、良い手札だな。

「おい、オキツグ、この手札どうなんだ?」
「うわ、ゴミじゃねぇかい! なんだよ、その手札、勘弁してくれよい!」
「ぇ…………ごめん」
「あ、すまん、そんな落ち込むなよい。嘘だよ! 俺も何が良いとか全然わかんねぇんだい! ごめんって!」

オキツグのゴミ手札宣言にテンションがどん底まで下がりかけたぜ。
そうさ最初の手札で何が決まるってんだ。
手札誘発が引けなかったからってデュエルに負けたわけじゃないんだ。

「さて、初期手札は引いたね。今回は初心者チームのアーカム&オキツグのチームに先行を譲ってあげようではないか」
「いいのかよ! 後悔するなよ!」
「あ、待て、オキツグ! こういうのにはワナがーー」
「ドロー!」

オキツグが俺の静止を振り切ってドローしてしまった。
くっ! 仕方ない、俺もーー。

「シャイニングドロー!」

ん、てか勝手にドローしちゃったけど、してもよかったのかな。
まぁいいか。

「チラッ」

引いたカードは「深緑の眷属テゴラックス」か。
おぉこれは結構いいんじゃないのか?
カードの絵柄の再現度も高いし、強そうだ。

テゴラックスは冒険者ギルドが発表している脅威度設定で「脅威度Ⅲ上」に区分される危険な魔物。
熊級冒険者以上のパーティ戦わなければ倒すことは難しい。

俺もかつては痛い目にあった。
ゆえに、コイツの強さは俺が誰よりも知っている!

「ふはは、勝ったな! 俺は手札から『深緑の眷属テゴラックス』を召喚!」

テゴラックスカードを叩きつけるようにして半透明の机に置く。

ーーピカーン

「おぉ!」
「すげえ!」

なんということでしょう。
リアルな造形をしたテゴラックスが、俺と向かいチームのとの中空に現れたではありませんか。

「よし! あとは……」

とりあえず一番強そうなのは召喚した。
あと何かできることは……。

「ふぅん、ターンエンドだ!」
「ありゃ魔法カードを引けなかったパターンやな」
「うるせぇ!」

ギオスが見透かしたように鼻で笑ってくる。

そうだよ、魔法カード引けなかったよ。
俺の手札は全部効果無しの生物カードばっかだ。
なんだよ、このゴミデッキは。

「うーん、よし! じゃ俺は5枚カードをセットしてターンエンドだい!」
「あっちの馬鹿は生物カード引けなかったんだな」

オキツグは一気に手札のカードを魔法カードゾーンにセットした。
ガン伏せだ。これはなかなか心強い。

「ふん! それでは僕のターン! ゴージャスドロォォォォォオオ!」

「気合い入ってんなぁ
「……お、おう」
「ぇ、ぇっと、ドロゥやで」

ポールは大げさな仕草で巻き舌ドロー。
あと声の響きも俺たちとどこか違いすぎる。

ひとりでテノール歌手するんじゃないよ、まったく。
隣のギオスだって萎縮しちゃってんじゃないか。

「このデュエルもらったぁあ! 僕は『呪怖猿の呼び笛』を使いデッキから『ポルタテイス』とカードに記載されたカードを6枚をゲームから除外する事で、代わりに『ポルタテイス』と名のついた同名生物カード2枚を手札に加える! 僕が手札に加えるのは『緑のポスタテイス』だ2枚だ」

ポールは魔法カードを人差し指と中指で挟んで、俺とオキツグに見せつけるようにして提示してくる。

「俺は特に何もしないから勝手にやってくれい」

自分の伏せ札を確認しまくるオキツグ。
バリバリなんかする気なのだろう。

「だからなんだ! 緑ポルタなんて『脅威度Ⅶ中』の魔物、そんな簡単に召喚できないぜ! ポルタ級なめんなよ! コスパ最強の国民的アイドル、テゴラックスの前じゃゴミも同然なんだよ! ほらさっさとターンエンドしろ!」

「はは! 僕のターンはまだまだ終わりではないのだよ! 魔法カード『愚かな召喚』を発動! このカードは、次のターンに生物カードを召喚出来なくなる代わりに、このターン生物カードを2枚まで召喚することが出来るんだ!」
「な、なにィ!?」

オキツグがテンプレな反応をしてポールを調子に乗らせる。

「僕は『キミマロン』を召喚! このカードはこの召喚に成功した時、手札から通常召喚可能な生物カードを1枚を特殊召喚することが出来る! 代わりにこのカードと特殊召喚する生物カードの攻撃力の数値を足した値分だけ、ライフポイントを払うことが痛いコストだ!」
「ずりぃだろ……」
「はは! ズルではないのだよ! 降臨せよ! 我が魂『緑のポルタテイス』!」

ーーグォオッ

ポールのイカサマくさいカードの効果によって、いきなりポルタが召喚された。
テゴラックスを遥かに超える体躯に息を飲む。

「こ、これがポルタか!」
「う、うっわぁ! 顔怖っ!」
「なんやこれ!?」

皆が皆、初めて目にするポルタという魔物の姿に驚愕を隠しきれない。

その姿は全長10メートルを超えた、手足の長い痩せた猿の様な見た目をしている。

皮が薄いのか皮膚には筋肉の繊維が隆々と浮き出ており、頭部に毛が少し生えているだけで、あとは地肌が露わになっている。

顔もこけていて目元はくぼみ口が横に大きくさけて開いており、口にはするどい牙ではなく、人間の歯に近い丸まった歯がずらりと生え揃っていた。

はっきり言ってめちゃくちゃ怖い。
なんだこのグロテスクな造形は。

「キャァア!」
「う、ぅぅ!」
「な、なんだ!?」
「アルドレアたちが魔物を召喚してるぞォォオ!」

悲鳴。腰を抜かすになる生徒たち。
庭園内で友達たちとの雑談に花を咲かせていた他の生徒たちがポールの召喚したポルタを見た瞬間、蜘蛛の子を散らす様にして校舎内へ逃げ始めた。

わかるよ、やっぱり、怖いよねコイツ。
でもさ俺の名前を叫びながら逃げるのはやめない?
なんか俺だけが悪いみたいじゃん。やめろよ。

「ど、どうすんの、これ?」

リアルすぎるポルタのせいで人がいなくなったオオカミ庭園を見渡す。

「ま、まぁ別に本物じゃないだから、襲われる心配はない。安心したまえ」

ポールは冷や汗をかきながら目を泳がせている。

「うーん、魔物召喚っていってもゲームだし平気か」

ポールの言い分に賛成してゲームを続行することにする。
まぁ、リアルでクマを見たら怖いけど、画面中だったら別になんも怖いことはない。それと一緒だ。

俺はそう思いながら、目の前に出現して四肢をついている巨大なテナガザルを見上げる。

「……マジで怖いな、お前」

やっぱり怖かった。

「よし! それじゃ、俺のターンドーー」

「待て! まだ僕のターンは終わっていないぞ!」
「チッ、ダメだったか」

俺の「明らかに不利な盤面をどさくさに紛れてひっくり返そう作戦」は不発に終わる。

「そろそろギオスにもターンをやらせてーー」
「僕は『ポルタの呼び笛』を発動ォォォオ!」
「コイツもう止まんないねぇな」

暴走するポールは止まることを知らない、
ギオスは先程からぽつんとポールのとなりに立っているだけだ。
不憫なギオスに視線を送る。

「ん? いや、わいはとりあえず玄人に任せるで」

なんだ、お前はそれでいいのかよ。

「手札・デッキ・墓地から『緑のポルタテイス』の特殊召喚に成功した時、『ポルタの呼び笛』を発動! 手札から『緑のポルタテイス』をもう一体特殊召喚する!」
「ちょ待てい! なんでだよ! なんで!? なんかコスト払えよ!」
「そんなものは無い!」

俺はどさくさに紛れてインチキくさいことをまたしても行おうするポールにChallengeする。
だが、そもそもそういうカードらしい。

「くぅ! もういいだろ! 俺のターンドーー」
「いいや、まだだ! 1ターン中に2体『緑のポルタテイス』の召喚・特殊召喚に成功した場合、除外されている『英傑の終わり』を墓地に戻すことで、このターン、僕はポルタテイスをリリース無しで通常召喚することができる! よって手札より最後の『緑のポルタテイス』の召喚する!」
「ふざけるなぁあ! おい、オキツグなんとかしろ! お前魔法カードゾーンにいっぱいカードあるだろ! ここで使わなくてどうする!?」

あまりにもインチキコンボをしまくるポールにぶちギレそうになる。
というかそもそもここまでのコンボをただ眺めていて邪魔しなかったオキツグは何をしているんだ。

「お、おう! そうだ俺にはセットしたカードがある!」
「そうだ! いけ! れ! お前の『激流葬』で根絶やしにしろ!」

こちらにはにはまだオキツグのセットした魔法カードがあるんだ。
まだ活路は残されているぜ!

「あ、悪りぃ、なんか俺生物カードセットしてたみたいだい」
「お前もう死ねよ!」

相棒の使えなさにとうとう堪忍袋の緒が切れる。

「はは! 万策尽きた様だね! 戦闘段階! 3体の緑のポルタテイスでダイレクトアタックだ!」

ポールがこちらを指差しながらゲーム終了のお知らせをする。

「ダイレクトだぉ? おいおい、ポールよく目を開いてみてみろよ。こっちには白熊様テゴラックスがいるんーー」
「ヴェェェァァァァァアア!」
「ん?」

俺を守るために立ちはだかったテゴラックスがポルタに鷲掴みされ空へと消えていく。

「ぁぁああ! 俺のテゴラックス!」
「ヴェァアッ!」

ーーパリンッ

「なぁああ!?」

空へと消えていったテゴラックスは最後には砕け散って光の粒へと変わっていった。

「グロルゥゥゥ!」
「鳴き声まで怖ぇえ!」
「アーカム助けてくれ! 俺漏らしそい!」

迫り来るポルタたちは容赦なく俺とオキツグに襲いかかって行く。

「うわっ! 痛っ!? なんでい!? 地味に痛い!?」

大きなボルタはその長い腕を使って、指先で叩く様にオキツグを攻撃しているのだ。
ただの立体映像かなんかかと思っていたのだが、どうやら感触があるらしい。

「や、やめろ! ひぃぃ!」

感触があるとわかったら、途端に目の前のグロテスクなテナガザルがめちゃんこ怖く感じる様になってきた。

「やめろ! この野郎!」

ポルタの指先つつきを華麗なフットワークで避けていく。

「アーカム! ちゃんと攻撃は受けたまえ!」

ポールはゲームルールに従わない俺にご立腹らしい。
だが俺の意見も聞いてほしい。
こんなのおかしい。あいつ経験者なのに初心者相手に全然手加減してこないなんて。

「うるせぇ、ポール! こんな理不尽な負け方して、さらにこんなキモい猿に触られるなんて嫌だろ!」
「グロルゥゥゥ」
「ひぃぃ!」

キモいと言われたことに怒ったのか、それとも攻撃を避け続けるプレイヤー対する処置なのか、ポルタの攻撃が指先でつつくなんて可愛いものから腕を振り回す過激なものへと変わっていく。

「うわ! 危ねぇ!」

怖さが限度を超えた。たまらず走って逃走する。
もう付き合ってられね!

「アーカム! 逃げるな!」
「逃げるに決まってんだろ! こんなクソゲーやってられるかーーって追いかけて来てるぅ!」
「グロルゥゥゥ」

ゲームシステム的に逃げちまえば安全かと思ったが、テナガザルは止まる気配など微塵も無く平気で追いかけてくる。
具現化した恐怖のリアルすぎる造形に涙目になりながら必死に中庭を駆け抜ける。
するとーー。

「あ! サティ!」
.
希望の光を見つけた。

「ん? あ、アーカム……ってェエ!? な、なん、なんでポルタッッ!? いやァァァア! こっち来るんじゃないわよ!」

一瞬明るい笑顔を見せてくれたサティだったが、焦げ茶色の大きな瞳に、俺の背後存在が映りこむと、途端に恐怖一色を顔に貼り付けて逃走し始めた。

「キャァアァァァァァア!」
「ヒィヤァア!」
「こっち来ないでよ、アルドレア!」
「アーカム様、ダメです! こっちに来ちゃ!」

サティと一緒に歩いていた女子たちもパニックに陥りローブをまくしあげて全力疾走で逃げ始めてしまった。

この後、俺は校舎内に逃げ込み安全圏へ避難することが出来た。
しかし、ポルタは一向に諦めてはくれずオオカミ庭園から校舎内へ、その長い腕を伸ばして生徒を襲う、というホラー過ぎる絵面が出来上がってしまうことになった。

ポルタの一件のせいで学校中の生徒たちから大量の苦情が届けられることはもはや避けられず、結果、ポール、オキツグ、ギオス、俺の4人は、先生たちに取り囲まれ死ぬほど怒られるのであった。

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