記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第76話 登校は風のごとく



アーカム・アルドレア精神視界「和室」

「″いやぁあれは反則だよね″」
「まじて有り得ねぇ。なんだよあの連射力」

意識を失って強制的に「和室」に入れられた直後から、俺とアーカムによる慰め会が始まっていた。

拡張された「和室」に新たに設置されたコタツに足を突っ込み、せんぺいを頬張りながら緑茶をすする。

「″なんで急に強くなったんだろ。あの小娘″」
「小娘て……お前の方が歳下だろうに」

銀髪少女はコタツに肘をついておっさんみたいな仕草で、手元の雑誌を眺めている。
いや、これは普通におっさんである。

「まぁ、本気出してなかったって事だろ? 悔しいけど俺じゃカティヤちゃ、さんに勝てそうにねぇ」
「″諦めちゃだめだよ! そこで試合終了だよ!?″」
「いやもう負けたし、決闘終了してるよ」

アーカムがコタツの中をくぐって、こちらの腰、お腹、胸と体の上を下から這い上がってくる。

「はぁ、にしても精神世界使えるようになってから気絶するのは初めてかもな。今って体に戻れないんか?」
「″うーん、無理だと思うよ。気絶じゃあね″」

精神世界の先輩は俺の首に手を回して色っぽい顔をしている。なにしてるんだ、このマセガキ。

「さて、起きたらどうなってんのかな。カティヤさんには完全に嫌われてるし、なんかもうずっと寝てたい気分だわ」

口付けしてこようとする、おませさんの頭を抑えながら寝転がる。

俺とカティヤさんの中が最悪になるまで早過ぎた。
オズワールの店で出会って一目惚れしちまって、その後たった2回あっただけでキモがられて嫌われた。
拍手を送りたくなるほど、女子に嫌われやすい。
本当に涙が出てくるぜ。頼むよ、マイゴッド。

ーーンンンゥゥゥゥゥゥ

「よし、仕事の時間だな」
「″あーもう少しだったのにぃ″」
「悪いなアーカム。俺はロリコンにはなれねぇんだよ」

拗ねるアーカムの頭を優しく撫でる。

「″ぅ、ま、まぁこれで許してあ、あげる″」
「ありがとな」

ーーブオオオォォォォンンン

「じゃ行ってくるわ」
「″うん! 頑張ってね!″」

豪華客船の警笛のような重低音響く「和室」。
俺は現実世界へ帰還する。



「よし」

現実世界への帰還を果たした。
まぶたを開け、上体勢いよく起こす。
首をひねり、両手を伸ばして凝り固まった体をほぐすように伸びをする。

「んー! っはぁ!」

筋肉がほぐれたところで、あたりを見渡す。
見たことのない天井に壁。
寝かされていたベッドはふかふかでなかなか良い寝心地だった。

ベッドが置いてあるのは大きな部屋だ。
しきりで区切られて沢山の同型のベッドが置かれているようだった。
両脇へ視線を落とせば、小さな棚と小机にランプが置かれている。

机の上には紙切れが1枚。
置き手紙だ。

「ん、動かないで待ってること? サテラインより」

動かないこと、とは体の心配をしてくれてるんだろうか?

「ふむ」

とりあえず動かないで待ってた方がいいのかな?
手紙を机に戻し、時刻を確認するべく時計を探す。

寝ている最中に上着は脱がされてたらしく、ベッド脇の服掛け真新しいローブが掛かっていた。
ベッドから降りて、ローブからトール・デ・ビョーンを取り出す。

ーーカチッ

時刻は18時時50分。

結構経ってるな。

「うーん、ただの衝撃波でこんなに気絶させられるとは……」

自身の体を両手で触って、怪我がないか確かめる。
外傷はなさそうだ。
出血もしていない。

ほっとため息をつき、ベッドから降りて両足で床を確かめる。
窓の外を見れば日はすでに落ちて、だんだんと空が暗くなり始めていた。
雰囲気から言って、ここは魔術大学の保健室か何かだろう。
決闘で気絶してここに運ばれた、てところか。

「そういえばクレアさんが今夜はご馳走だって言ってたな」

アパートの優しい大家の顔を思い出す。
クレアさんの気持ちを無下にしたくないし、何よりご馳走は是非ともいただきたい。
早く目に帰りたいな。

そう思い、ローブを着て杖を腰に差す。

「よし、準備完了」

サティには動くな、と言われたが別に体の方は大丈夫そうなので少しくらい動いたって平気だろう。

それよりも今夜はご馳走が待っているんだ。
遅れるわけにはいかない。

そう思い意気揚々とベッドの置かれた大部屋から出るべく入り口に向かう。
だが、そんな時、ふと前方から近づいてくる気配に気がついた。

「ぁ、やべ」

急いで引き返す事にする。
知ってる気配たちがこっちに来ようとしている。

急いでベッドまで戻り、慌ててローブ脱ぐ。
しかし袖が絡まってなかなかうまく脱ぐことが出来ない。

「ちょ、これなんだよ、脱げねぇ!」

そうこうしている内に奴らは来てしまった。

「あー! ちょっと! 何ローブ着てんのよ!」
「アーカム動いちゃダメだって」
「アーク無事だったんだね!」

ローブの袖が引っかかって身動き取れなくなっているところへ例の3人が来てしまった。
なんとも情けない再会だ。

「あはは、サティ、ちょっとローブがさ、からまっちゃってさ、はは」
「てぃ!」
「痛っ!?」

ローブで拘束されている俺へ容赦なくサティの杖が襲いかかってきた。
患者になんて事をするんだ、このちんちくりんは。

「うわ、ちょ、危な!」
「手紙読んで! ない! の!? 私の! 手紙!」

「サテリィ突いちゃダメなんじゃない? アークは起きたばっかなんだから」
「そうだよサテリィ!」

マリとゲンゼからの呼びかけも聞かずに、サティは焦げ茶色のポニーテールを振り乱しめちゃくちゃに攻撃してくる。
両腕が使えない状態でサティのはたき攻撃を間一髪避けていく。

だが、不安定な姿勢ではうまく動くことが出来ず自分のローブの裾を自分で踏んでしまう。
なんてアンラッキーだ。

「うわぁ!」
「あ、アーク!ちょ、きゃっ!」

バランスを崩して無様にもつまづいた。

ーードサッ

あぁ、なんてこった、自分のローブを踏んづけて転ぶとか格好悪りぃな。マイゴッドは俺に厳しいな。

「痛てて……ん?」

地面に頭をぶつけたと思い頭をさするが、なにやら布が邪魔で思うように腕が動かない。
視界に映る光景は薄暗く目の前にはなにやら白いものが見える。

これは?
何かはわからないがなぜか無性に突いてみたくなった。
よって俺は本能に従い白の布地につついてみる事にする。

「ぁ……」

時が止まったかのような感覚を得るほどの衝撃だった。

こ、これは、まさか……サティのーー。

「きゃー!」
「んぐぐ!?」

眼前の白い布がパンティだと気づくいたのと同時に、上から頭をすごい力で押さえつけられる。
痛いです、離してください!
頭を押さえつけられようものだから、ただでさえ目の前にあった白い布が顔面に押し付けられる始末だ。

「あわわわ!」
「んぅう!」
「ちょ、ちょ! あ、アーカム! それはエッチ過ぎるよ!」
「うわぁ! アーク、サテリィになんてことを!」
「んんう!」

なんてことはこっちのセリフだ。

まわりの野次を聞く限りとんでもない冤罪が俺にかけられようとしてない、これ。
えぇい、これは一刻も早くサティの純白パンティから離れなければならない。

「う、う、ちょ離せサティ!」
「あぁ! ちょっと暴れないでぇ!」

なんとか首をもたげて顔を純白パンティから離す。

「ぬぅあ!? なんて破廉恥な!」
「んっ、きゃー! ダメよ、アーク! そんなに!」

「サティはなに言ってんだよ!?」

頭を持ち上げたことでスカートが勢いめくれ、サティの真っ白で健康的な太ももが露わになってしまっている。

うぅ、これは良くない。

慌てて後ろに跳びのき、天国……じゃなくて破廉恥なる地獄から退避する。

「うぅぅう!」
「さ、サティ、さん?」

距離をとってサティに向き直ると、彼女は顔を真っ赤にして、俺のことを睨んでいた。
目尻には大粒の涙が溜まっている。
なぜ、こうなるんだ。
この酷い目にあうのか想像出来ちゃうんだけど。

「た、頼む、ゆ、許して、まじでサティのパンツなんか全然興味ないしーー」
「うぅ! なお悪い! ≪風打ふうだ≫!」
「なんどぅ、おいやめーー」

結局、俺の抗弁は何の意味も持たなかった。



ーーカチッ

時刻は8時30分。

高級レストラン「マーリンズ」での豪華な晩餐会から一夜明けた、入学式翌日。

今日から本格的にレトレシア魔術大学での授業が始まる。
朝の修行を終え、風呂で汗を流し、身支度を整えて部屋を出る。
そして事務所の扉をノックだ。

ーーコンコン

「マリ、先いくぞー」

トチクルイ荘の登校に関する取り決め、その1。
お互いに自分の取った授業は把握しあっておいて、最初の授業が同じ時限の場合はマリより早起きである俺がマリを起こすこと。

完全にただの目覚ましとして使われているが、これも部屋を壊して住人たちを追い払ってしまった罪を償っていると考えれば、別に悪い気はしない。

ーーガチャ

事務所の扉が開き、ドアの隙間から寝巻きをはだけさせたマリが顔を出してきた。

「ぅぅん、授業9時からでひょ?」
「うん」
「うんじゃにゃいよ……うぅ早すぎるってばぁ、むにゃむにゃ」

いかにも今起きました、という風勢の少女は薄い胸をうんと張って伸びをした。

「んー! っはぁ」
「今、8時34分なんだ。結構やばいぜ?」
「うぇ!? 34分!?」

時間を告げた途端にマリの寝ぼけ眼が見開かれる。

目を覚ました様子のまん丸の大きな緑瞳の前にトール・デ・ビョーンをぶら下げて時間をみせてみる。

「あぁー! もう、なんでもっと早く起こしてくれなかったの、アーカム!」
「ぇぇ俺が怒られんのかよ……」

マリはそれだけ言い残し、すごい勢いで事務所の中へ戻っていった。
時間は少しまずいが、まぁ、あれだけ急いでくれれば流石に間に合うだろうな。

マリが出てくるのを待つことにしよう。



ーーカチッ

時刻は8時56分。

「やばいだろォオ! 何してんだよ!?」

事務所からマリが出てくるのを待っていたのだが、一向に出てくる気配がない。

「マリ! マリ! 急げ!」

もう猶予はない。時間にルーズな寝ぼけ少女を引っ張りだすべく事務所の中へ突入だ。
気配をたどり俺はマリがいそうな部屋の扉を勢いよく開けた。

「ふぇ!? あぁ! ちょ、ちょっと事務所入っちゃダメなんだよ! アーカム!」
「知るか! 早くいくぞ!」

部屋の中では未だに着替え中のマリがいた。
ほとんど服を着ておらず、スカートだけ履いているあられもない姿だ。
が、今は子供の裸になんか興味を示している場合ではない。

「アーク! み、見ないでよ! ぇ、エッチ!」
「早く着ろ!」

彼女は顔を赤らめながらも、手に持っていた服を手早く頭から被って着替えを完了する。

「え、えっとあとは……」
「いいから! もういくぞ!」
「あ、待ってアーカム! その、えっと……」
「なんだよ!?」

マリはもじもじとして恥ずかしそうにしている。
こっちは急いでいるというのに!
てか、お前も急いでるんだろ!?

「ぁ、えっと、そのぉ」
「なんだ、はやく!」
「ま、まだパンツ履いてなくって……」
「なんでだよ、スカート履いてるよね!?」

訳がわからん。
なんでスカート履いてるのに、その下のパンツを履いていないんだ。

ん?
よく見てなかったけど上の下着もつけてなかったか?

「それと、上の下着も……」
「マリなら上は必要ないだろ! 何小学生がませてやがる! 下なんて誰も見ない!」
「うぇえ!? ちょっとそれどういう意味! ねぇアーカム!?」

近くにあった制服ローブをマリに羽織わせて、マリのカバンと、マリ自身を小脇に抱える。

「お姫様抱っこ!」
「図々しい奴だな!」

運んでもらう立場のくせに注文をしてくるとは。

黙って小脇抱えからお姫様抱っこへ切り替える。

「えへへ、ありがとうございます」

まぁちゃんとお礼を言えたので良しとしよう。

ーーカチッ

時刻ら8時58分。なんだこの詰みゲー。

事務所から玄関へ、そして玄関扉を勢いよく開け放つ。

「本気出す。しっかり掴まってろ」
「うん、頑張ってアーカム!」

一足で上空へ跳躍。
まずは建物の屋根へ登る。

「うわぁ! すごーい! へへ!」
「ふっ」

マリの喜ぶ顔が見られたことに満足しつつ、筋肉を剣圧を使って強化する。

今、人類史かつてないタイムリミット数十秒の、自宅学校間滑り込みチャイムチャレンジが始まるのだ。
お姫様抱っこした小さな体を強く抱きしめる。

「ぁ、アーク、ちょっと、恥ずかし、い、かもーー」
「ツァっ!」

俺は強力な踏切で一気に大空へ舞い上がった。
俺たちは今疾風なのさ。

もちろん基本移動術「地面を傷つけない走り方」を使用して、王都民の皆様が困らないように慈愛を持って屋根を踏んづける。

そうして、俺たちはトチクルイ荘の屋根からでは遠く見えたレトレシア魔術大学校門まで、わずか十数秒で到着した。
過去最速タイムだな、これは。

「はぁ、はぁ……ふぅ」

速度を出し過ぎて、マリのことはお姫様抱っこというより、赤ちゃんを抱える母親のような感じになってしまったが、まぁ文句は言ってくるまい。

「マリ、大丈夫?」

胸元に顔をうずめて小さくなっていたマリを見る。

「ぅぅうぅ」
「ど、どうした?マリ?」

小さくなったマリが震えながら唸っている。
もしかしたら高所恐怖症だったのだろうか。

「マ、マリ、気づかなくてごめん、高いところにが苦手だーー」
「ぅぅう! めちゃくちゃすごかったッ!」

ふるふる、と震えていたマリは顔を勢いよくあげて満面の笑みを見せてきた。

「はぁんだよ、心配させんなよ、ほら、いくぞ」
「うわぁあ!」

ふざけているマリに手を焼きながら校舎へ走りだす。
もちろんマリはお姫様抱っこしたままだ。
降ろして歩かせては時間に間に合わない。

玄関ホールへ到着。

ーーカチッ

時刻は8時59分45秒。

目的地である、魔術言語学が行われている5ーAの教室があるのは5階だ。

「跳ぶ」
「ぇ、あ!」

吹き抜けとなっている玄関ホールで直上に飛び上がり、一気に5階へ。
手すりにピタリと着地してショートカットに成功だ。

「おぉ、まさかそんなところから登校してくる生徒がいるなんて、こりゃびっくりだ」
「あ、おはようございます」
「おはようございます! オールドマン先生!」

飛び上がったところへ丁度やって来た歩行者、5階廊下を通り過ぎようとしていたその壮年の男は、にこやかに笑っている。

「マリ知ってるの?」
「うん、だって魔術言語学の先生だもん」
「ぁ、そうなんですね」
「はっは、そーいうことだよアーカム・アルドレア君」

なんだ、この人が1限の先生か。
ならこの人について行って、一歩早く教室に入れば遅刻にならずに済むじゃないか。ラッキーだぜ。

「さぁ、もう授業が始まる。2人とも教室に入りなさい」

オールドマン先生はそう言うと、すぐ近くの扉を開けた。

「ちなみに5ーAの教室はここだ」
「そこかよ!」
「えぇ! ずるいです!」
「はっはっ残念だったね」

結局俺たちはギリギリ遅刻したーー。

が、先生の采配でギリギリ遅刻判定は免れる事になった。

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