記憶をなくした超転生者:地球を追放された超能力者は、ハードモードな異世界を成りあがる!

ノベルバユーザー542862

第73話 必修科目



ーーカチッ

時刻は13時37分。
レトレシアの恐ろしく広い食堂で昼食を取る。

「うーん、これは美味い。もっちゅもっちゅ」

今食べているのはみんなが大好きなアレだ。

一粒一粒がまるで銀色に輝いているかのように見える、一種の崇拝対象とも言えるこの食べれる星屑に、
数種類の香辛料をブレンドして作られた、香ばしい食欲を誘うブラウンカラーのソースがかけられた、食の未開大陸へと連れて行ってくれる奇跡の食べ物。

その名もCurry Riceーーカレーライスだ。

「やっぱその茶色いのまずいんじゃーー」
「断じてそれはない!」
「うわぁ!」

マリが悪気の無い顔でカレーライスを陥れようとしてくる。マリと言えどこれだけは許せない。

「そ、そんな美味しいんだそれ」
「あぁ美味いよ? 最高だよ。俺の体の全細胞が大感謝際を開くくらいには最高だ」

レトレシアの食堂でカレーライスを食べる事ができることに気がついたのはついさっき。

クルクマでは米すら見なかったのに、いきなりカレーライスが食堂に現れたのだから、
カレーとライスの2単語を見つけた時はそれはもう驚愕したものだ。

行きつけのレストラン「アンパンファミリ」でもそうだが、王都ではクルクマでは食べれなかった料理をたくさん食べることができる。

カルボナーラにラーメンにピザにハンバーガー的な料理たち。そして最後がこのカレーライスだ。

いやはや、素晴らしいね都会は。
もうクルクマには戻れねぇよ。あんな田舎町。

「もっちゅもっちゅ」

カレーライスをほぼ張りながら選択講義のカリキュラムを確認する。

「ん?」

ふいにゲンゼの視線が気になった。

「どうしたん? ゲンゼ?」
「あ、いや、何でもない……よ?」

ゲンゼは手元のシチューに視線を落とす。

「ゲンゼは柴犬生じゃないから、私たちと離れるのが嫌なのよ」
「ちょ、サテリィ!」
「あーそっか。それじゃマリが……って、お前も一応柴生か」

「ん? ええ! ふっつうに! 柴犬生ですけど、アーカムくん? あれ? アーカムはパピーだったかな?」
「まさか、俺こそ本当の柴生だからさ。柴犬に会ったこともあるし、なんなら飼ってるって言っても過言じゃないですね、はい」
「はは、流石にそれは、ホラが過ぎるって、アーカムっ、はは!」

マリにゲンゼと一緒にいてもらおうと思ったが、よくよく考えたらマリも柴犬生だった。

「さて、どうしたものか」

ゲンゼをひとりにするのは可哀想だな。

「アーク、何も悩む必要なんてないわよ? ゲンゼはひとり立ちしないといけないんだから。
いつまでも私やアークに頼りっぱなしじゃ、本人の為にならないわよ」
「そ、そんなぁ……サ、サテリィ」
「たしかになぁ」
「アークまで……」

サティのもっともらしい意見を聞いてクルクマでの日々を思い出す。
たしかにゲンゼはサティに依存し過ぎている場面が時々見受けられた。

ちょうど俺もゲンゼのそういう頼りっきりな姿勢は今後の為にも良くないと思っていたんだ。
ともすれば、これは存外にゲンゼを自立させるいい機会なのかもしれない。

ゲンゼを子犬生として、社会の荒波に放り込むことで自立を促すのだ。
ライオンは我が子を愛するがゆえに崖に突き落とすって言うしな。
俺たちもゲンゼをレトレシアで突き放して見ても良いかもしれない。

「よし、じゃゲンゼ」
「う、うん、何、アーク?」

ゲンゼが自信なさげな顔でこちらを見てくる。
以前よりちょっと可愛くなった気がする。

益体のないことを考えながら、俺は残酷な宣告を放つ。

「ゲンゼ、すまないが、君とは……もう、ここでお別れのよーー」
「い、嫌だよ! アーク! なんでアークまでそんなこと言うの!?」
「ッ、おちょ! おま、おちゃま! ジョーク! ジョーク! 冗談だよ!」

机越しに両肩を掴まれて勢いよく揺さぶられる。
ちょっとした冗談のつもりが、本気にしてしまったようだ。

「な、なんだ、冗談か! はは、へへ……」

ゲンゼは席に座りなおし、浅く幸の薄い笑顔を浮かべる。

「でも、どうするの? アーカムもサテリィも柴生なんでしょ?」

マリが横合いから疑問を投げかけてくる。

「うーん、別にどうもしなくていいんじゃないか? 柴犬生って言っても必修科目が子犬生より少ないってだけだろ?」
「まぁそうね」
「うぅ」
「学校内にいるならいつでも会えるんだし、そんな気にすることじゃないと思うけどな」

カレーライスを頬張る。

「でも授業は一緒じゃないよね?」

ゲンゼは力なく聞いてくる。寂しさ全開の表情だ。

「別に授業くらいひとりで受けられるでしょ! へこたれてんじゃないわよ!」
「痛っ! 痛いよサテリィ!」

サティに杖でしばかれるゲンゼ。
今思ったけど、あれだよな、サティって杖の扱い雑だよな。

「大丈夫だよ! ゲンゼ! いくつか私たちと被る授業もあるし、そんな心配することじゃなと思うよ」

マリが快活に愛らしい笑顔でゲンゼに笑いかける。
これは年頃の男子ならニヤけてしまう可愛さだ。
さぁゲンゼどうする。

「うーん、でも3つだけじゃアーク成分もサティ成分も足りないよ……」

平然とするゲンゼ。
やっぱダメだコイツ。
男子としての機能がぶっ壊れてやがる。

「私も子犬の必修科目で取りたいのいくつかあるし、結構被る講義は多いと思うわよ?」
「あ、そっか被る講義もあるんだ」

サティの言葉にゲンゼの表情が明るくなった。
講義の被る授業。
まぁ選択してれば偶発的にそんな授業も出てくるだろう。

「ゲンゼの取る授業見せてよ」
「うん。これ、アーク」

ゲンゼが手元にあった羊皮紙を渡してきた。

「ふむ」

羊皮紙には子犬生クラスの必修科目の講義と担当教師が書かれていた。

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ハーミルトン・シュワルツ  「風属性 Ⅰ」

ルニス・ドラゴン  「暗唱学」

オーデス・オールデ 「ローレシア魔法歴史論」
・柴犬生合同

カンツォオ・ニエラル  「魔法詠唱論」

ジョセフ・グリードマン 「魔術決闘論」
・柴犬生合同

コムラサキ・ツクナ 「魔術式文法Ⅰ」

イングリッシュ・オールドマン 「魔術言語学Ⅰ」
・柴犬生合同

コデックス・ママルトン 「ポーション薬学」

ターボ・トックグリフ  「魔法生物学 」

マーリン・トゥルク  「世界の怪物史」

タタツモ・タマリ 「古代神話学」

トリニスタ・マッコロー   「ゲイシャ宗教学」

ナータス・ワルド   「魔法世界史学」

マジク・テクノロジ    「科学と魔術」

テームル・バイオツニカ 「触媒学 Ⅰ」

トリニスタ・トルトニスタ  「火属性 Ⅰ」

トム・ジンクス  「水属性 Ⅰ」

アイザック・コースタ   「土属性 Ⅰ」

ハドロン・トミックス  「数式算術Ⅰ」

ナタリア・コタリクスタ
「異種間コミュニケーション論」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

今年から授業カリキュラムが一新されたとサティから聞いていたが、その通りのようだ。

エヴァの通っていた頃は魔術言語は、選択科目だったらしいのだが、カリキュラムを見る限り1年生から必修科目として入っている。

別に魔術言語なんて勉強しなくても魔法は使えるのに、今年から入った学生は可哀想だな。

創設600年だから指導方針も改革を進めてるんだろうか?
ん? トリニスタ先生、地味に名前被ってんな。

ーーカリカリカリカリ

ゲンゼの必修科目のカリキュラムを見て、自分が取りたい授業を探し、空いている時間にぶち込んでいく。

「もう、アークはゲンゼを甘やかし過ぎよ」
「ん? いや、俺が取りたい授業写してるだけだよ」
「いや! ほとんど丸写しじゃない!」
「あ、あれ?」

興味のある授業だけ、自分のカリキュラムに入れようとしたのに、ほとんど丸写しになっていた。

しまったな、完全に偶然だ。ああ偶然。

どの授業も講義名からファンタジー感が溢れていたり、知っている魔法関連の単語が使われていて、つい書き写してしまったぜ、いけないけない。

「アークぅぅ」
「いや、これはたまたまさ」
「アークちょっとそれ貸しなさいよ!」
「お、ちょま!」

サティは俺の手から引ったくるようにゲンゼの時間割を奪い取る。

そしてゲンゼの必修科目を次々と自分のカリキュラムに追加するためチェックしていく。

サティ、それは……ちょっと可愛い過ぎないか?
ツンデレ乙だよ。

「はい! これ!」
「ぁ、サテリィ! ありが、痛っ!」
「勝手に勘違いしてんじゃないわよ!」

「はは、微笑ましいなマリさんや」
「そうね、サテリィもゲンゼも可愛い〜、ふふ!」

マリと微笑ましくサティを見やる。

「な、何バカなこと言ってんのよ! あんたたちぶっ飛ばすわよ!?」

サティは白い杖を振り回しながらあたふた、と狼狽している。
焦げ茶色のポニーテールを振り乱し、顔は真っ赤だ。うん、やっぱサティは可愛いな。

「さて、己に抗う時間だ」

俺はロリコンじゃない。
俺はロリコンじゃない。
俺はロリコンじゃない。

「よし」

自分の精神を鎮めて、普段通りのクールでクレバーなアーカム・アルドレアに思考をリセットする。

「″じぃー″」

なんか半透明のがきんちょがこちらを見つめているが、こいつは無視だ。

黙って押し戻す。

「″うあ! あぁ、ちょ、ちょ!″」
「それじゃ! オリエンテーションに行くわよ」
『おー!』

食器を片付け、食堂を後にした。



ーーカチッ

時刻は15時時34分。

オリエンテーションがちょうど終わったところである。

授業選択の仕方やら、決闘サークル及びサークルについて、各種施設の利用法に、
レトレシア校内のペットとして飼われている魔物に勝手にエサを与えてはいけないなどの諸注意、
レトレシアの聖獣モチモチとシゲマツに関する注意、
校則や罰則事項など、いろいろな説明をオリエンテーションの場で一気に受けた。

「今期の子犬生及び10歳の柴犬生は112名、みんな仲良くしていきましょう、か」

配られた紙の文字を読み上げる。
なんだか小さい子供あてに書いたような文章だ。

ま、10歳なんてまだまだ子供だから当たり前か。
俺は見た目は子供、中身は大人だけど。

「あ、見て見て、決闘してるよ!」
「なにぃ!?」
「決闘!?」
「へぇー決闘やってるんだ」

マリが笑顔ではしゃぎ出した。

俺とサティは光の速度で反応して、マリの指差す中庭こと「オオカミ庭園」へ視線を向ける。

しかしーー。

「人が多くて見えないぞ」

中庭にはたくさんの学生が群がっており、中央のおそらく決闘をしている石畳みが見えなかった。

「2階に上がるか」
「そうね!」
「オッケー!」
「うん!」

俺たちは中庭へ出るのではなく、校舎の2階へ上ることで観戦席を確保することにした。

さて、いよいよだ。
サティやゲンゼとの決闘の練習成果がどれほど通じるのか試す時が来た。

レトレシア魔術大学での学業と同じくらい重視されている決闘。
それを間近で見られる時が来たのだ。

面白くなってきたじゃないか、えぇ?

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